修士過程で甘党の俺が、インドカレーを食べた時の話
大学院に通う俺は最近、大学のゼミ生たちの面倒をよく見ている。
教授があまりに学生の指導に熱心じゃないということもあり、院生の俺が必然的に面倒をみなくてはいけないのは仕方のない事だ。
とはいえ就活と平行して卒業研究をしなければ行けない四年生にとっては、まずは就活で今後の進路をまず決めたいらしく、ゼミの出席率は悪い。
ひどい時にはインドから来たの留学生と俺だけしかゼミの会議室にいないという事もある。
「今日は俺たちだけっぽいね」
「そうですね~」
名前はアディ。
日本のアニメにもともと興味があったらしく、イントネーションは少し歪だけどコミュニケーションがとれないわけではないので俺も気楽に話せる。
インドとという国に行ったことがないのでわからないけれど、アディを見ると、きっと品の良い国なんだろうと思わせる気品さがある。
これは最近知っただが、実家はインドでも結構なお金持ちで、家には執事がいっぱいいるそうだ。
日本に来る時も執事たちが、自分も行くと言ってきかなかったそうだ。
「今日は~この後なにするの~田中?」
大半の作業を終え、自分の荷物を片付けていると、アディが話しかけてきた。
「いや、それは……えっと」
食事を一人でとるのに慣れていないアディにとっては、俺が食事に誘う相手になるらしい。
ただ、アディは辛党だ。
宗教の関係で牛が食えないって事みたいだから焼き鳥屋に行った時も、卓上の一味を大量にかけて真っ赤になった焼き鳥を美味しそうに頬張っていた。
対する俺は、辛いのが苦手。
そうなってくると、一緒に行ける店のレパートリーがないのだ。
せっかく日本にまで来たんだ。
さぞかし心細いだろう。
そんな頑張っているアディをもてなしたいという気持ちはあるのだけれど、どこに連れて行って良いのかいつも迷ってしまう。
まぁ、困ったら焼き鳥でいいだろ。
そんなテンションで俺は答えた。
「あぁ暇だけど、どうかしたのアディ?」
「あのね、料理したんだけど、作りすぎたの。食べに来てよ。若い男はお腹すくでしょ」
日本語の拙さで、発言が帰省した時のおばあちゃんみたいだが、ようはいっぱい食べるから食べきってという意味だろう。
たしかに、このパターンは想像していなかった。
しかし辛党のアディが作った料理を俺は食べれれるんだろうか。
もし辛くてまったく箸が進まないなんて事になったら、日本とインドの国際問題になるんじゃなかろうかという一抹の不安さえ湧いてくる。
不安を抱えながら俺はアディにうなずき、ついていく。
家は最寄り駅の真横。
高層マンションのエントランスはもちろんオートロック。
これなら親御さんもさぞかし安心だろう。
「はいって~」
促されるまま、入るとすでに部屋からはカレーの匂い。
「あっカレー作ったんだね……」
「そう、カレー!」
カレーか……。
よりにもよってカレーか。
辛党のアディが作ったカレーなのか。
「あぁそうなんだ……、な、なるほどね~」
「心配? わたしりょうりうまいよ?」
別にアディの料理の腕なんてこの際どうでもいい。
個人の嗜好に文句はない。
けれど、辛いものが苦手な俺がアディの作ったカラーを食べる事が問題だ。
「それじゃ、盛り付けるね。田中は座ってて」
まな板の上の鯉とでもいえばいいのか。
もう配膳されるのを待つのみ。
そして目の前に置かれたのは、日本でよく見るカレーを少しだけトーンダウンさせた色のカレーだった。
アディはじっとこちらを見ている。
もう食べるという選択肢しかない。
不安でいっぱいになりながら、俺はスプーンの上で小さなカレーを作ると、口に運び入れた。
瞬間、舌にりんごとはちみつの甘みが通り抜け、後から複雑なスパイスの組合わえが通り抜ける。
「辛く……ない……?」
「だって、田中、辛いの苦手でしょ?」
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お題:りんご はちみつ
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