リスのケーキ屋さん

パティシエという仕事はとても辛い。

朝も早いし、クリスマスの時期は睡眠時間も取れないほど仕事がたまる。

それでもパティシエという仕事を何年も続けているのはなんでなんだろう。

多分、それは食べてくれる人の笑顔がみたいからなんだと思う。


もちろん、うちはイートインのスペースがないから直接見ることはできない。

けれど、ケーキを買った人が家に持ち帰り、フォークですくい取ったケーキを口に入れた瞬間に溢れた笑みというものは私にとって何にも代えがたい価値がある。


ただ、やっぱり直接見れないというのは悲しい。

もちろん、友達と久しぶりに会う時に、自分の作ったケーキを持っていき食べてもらう事はできるけど、変に気を使われてるんじゃないかと勘ぐってしまう。

自分はなんて天の邪鬼の偏屈人間なんだと嫌になってしまう。


そんな事を考えている間にも並んだモンブランたちは、あとはてっぺんに栗をのせるだけで完成という所まできてしまっていた。


いかんいかん、集中しよう。

気合を入れ直して、モンブランたちに栗をのせていく。

完成したモンブランを運び、ショーケースに収める。

お客さん側からもどう見えるか確認するために、モンブランたちはガラス越し見ても完璧な出来栄え。

お客さんさえ来てくれれば、間違いなく売れるはずだ。


そう思っていると、誰かの来店を告げるベルが店内に響いた。

「いらっしゃいませ」


ドアには小柄な男性が立っていた。

オーダーメイドなのか体にピッタリとあったスーツ、袖には高そうなカフスまでついている。

薄い紫のシャツに、濃い紫のネクタイ。

なかなかサラリーマンにはできない感じの着こなしだった。

しかし、そんな出で立ちなのに、威厳やプレッシャーを感じる事はなかった。

年齢も私より低く、高校生ぐらいにみえなくもない。

顔立ちも整っているがシワなどを感じさせない透き通った肌。

男性というよりも少年と言ったほうがしっくりく。


少し不安そうな少年は、まるで大型捕食者に怯えるリスみたいに辺りをキョロキョロと見回していた。


「あ、あの~ケーキ見てもいいですか?」

「はい、もちろんです。今ちょうどモンブランが出来上がったのでおすすめですよ」

「キラキラですね」


普段なら接客が苦手な私はいつもバイトに任せていたお客さんとの会話だが、今の時間は生憎バイトの子は誰も居ないシフトの切れ間。

店内には私以外誰も居ない。


「そう言って頂けて嬉しいです」

「あっお姉さんが作ったんですか?」

「そうですよ」

「じゃあえっと……この栗の乗ってるやつにします。栗好きなんで」

「わかりました。では準備しますね」


私は持ち帰り用の箱を組み上げると中にモンブランを一ついれた。

「召し上がりまで、どのくらいの時間ですか?」

「あっここで食べられるわけじゃないんだ……」


どこまでも世間知らずな少年だ。

「そうですね。イートインスペースがないんですよ」

「そっか……じゃあ店ごと買えますか?」

「えっ!?」


どうやらこのリスみたいな少年、は金持ちだったらしい。


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キーワード 栗とリス









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