馴れ初め

半導体メーカーに勤める俺にとって、合コンというのは非常に居心地が悪い。


コマーシャルもしなければ、コンビニで目にする商品でもない。

まして、国内経済新聞には謎の企業と言われるという触れ込みで紹介される始末。

当然、社会的認知度あるわけもない。

仮に、会社名を言って反応する人間といえば、パソコンオタクか、同じ業界の人間だけだ。


そんな企業に勤める人間が合コンで自己紹介をしても、女の子から返ってくるリアクションは、響かない共感か響かない褒め言葉。

もしくは、以降、数合わせの男性Aという扱いを受けるだけなのだ。

ただ今日は中学からの中の良い男友達三人がどうしてもというだったので、渋々出席することにした。


適齢期の男女が並び、机ではエビとアボガドが華を咲かせている。

そんな中、早速始まる自己紹介。

他の奴らの勤め先はどこも一流企業。

商社、大手広告代理店、通信最大手。

男性陣の自己紹介のたびに女性陣の顔がほころんでいく。

適齢期の男女が並んで座っているんだ、今から花いちもんめで盛り上がるわけじゃない。みんな結婚を意識している。



分を弁えるという言葉は、俺にこそふさわしい。

俺は、サラリーマンという言葉で身分を濁し、端的に自己紹介を済ませると、あとは料理にだけに集中しようと心に決めた。


女性陣も、それを汲み取ったようで特に触れてこない。

これで良いんだ。

そう自分を納得させて、はや一時間、席替えの時間がやってきた。


隣には、自己紹介の時に、ゆいかと名乗っていた女の子が座った。

低すぎる自己肯定感で、心の中で申し訳無さでいっぱいになった所で、ゆいかが俺に話しかけてきた。

「あの……、こういう場って緊張しませんか? 私初めてで……」

どうやら、彼女は、この愛憎渦巻く戦場に不慣れな新人兵士らしい。

間接照明で照らされた顔はたしかに不安そうだった。

「あぁ、そうだね。まぁ別に普通の食事会だと思えばいいんじゃない?」

「そ、そうですよね。そういえばどこで働いてらっしゃるんでしたっけ? すいません、こういう初めてで緊張していたので全く聞いて無くて……」

なるほど、そういう事なのか。

きっと女性誌に緊張したフリをして深堀りしようってマニュアルでもあるんだろうか。

だったらその目論見に乗るのも一興だ。

「あー半導体メーカーの○○っていうんだけど」

どうせ、知らないメーカーでリアクションに困るんだろうと見返すと案の定困っている様子だ。

「えっと……、その半導体……? ってあの緑のやつですよね?」

緑のやつはプリント基板の事を指しているんだろう。

ただ、初めのリアクションに驚く自分がいた。

「あ、あぁ……。そうだよ、そう。緑のやつ」

「ですよね。ずっと思ってたんですけど、あれってなんで緑なんですか?」


なんでなんだろう。

自分が半導体メーカーであるにも関わらず答えを知らなかった。

「いや……なんでなんだろう……。ただ白の基盤もあるはず……だよ」

不勉強を棚にあげるような回答しかできないのが情けない。

ただ、緑以外の基盤も確かにある。

「緑に白ってネギみたいですね」

そう言ってゆいかは笑っていた。

「ね、ネギ……なのかなぁ……」

「そうですよ。そういえば~」



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テーマ ネギ 半導体 





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