【絵本】ちいさなかいじゅう【おもひで古書店】

貴音真

【おおきなからだのちいさなかいじゅう】

 あるところに、ちいさなかいじゅうがいました。

 ちいさなかいじゅうは、ほかのみんなよりもおおきなからだをしていました。


 ぼくはかいじゅうだぞ!

 ぼくはつよいんだぞ!

 ぼくはえらいんだぞ!

 だれもぼくにはさからえないんだ!


 ちいさなかいじゅうがさけぶと、ちいさなかいじゅうよりもずっとちいさなアリがきていいました。


 かいじゅうさん、かいじゅうさん、わたしたちはアリです。

 どうかわたしたちアリにもつよさをわけてください。


 アリのことばに、ちいさなかいじゅうはこたえました。


 よわっちいアリなんかにつよさなんかあげるか!

 えい!


 ちいさなかいじゅうは、じぶんよりもずっとちいさなアリをふみつぶしました。


 はっはっはっ!

 ぼくはかいじゅうだぞ!

 だれもぼくにはかてないんだ!


 ちいさなちいさなアリをふみつぶしたちいさなかいじゅうがさけぶと、アリよりすこしだけおおきいバッタがきていいました。


 かいじゅうさん、かいじゅうさん、ぼくたちはバッタです。

 ぼくたちバッタにもかいじゅうさんのつよさをわけてください。


 バッタがそういうと、ちいさなかいじゅうはいいました。


 うるさい!

 バッタなんかこうだ!


 ちいさなかいじゅうはバッタをつかまえてにぎりつぶしました。


 みたか!

 ぼくはかいじゅうだぞ!

 いちばんえらいんだ!


 ちいさなバッタをにぎりつぶしたちいさなかいじゅうがさけぶと、バッタよりもおおきなネズミがきていいました。


 かいじゅうさん、かいじゅうさん、おいらはネズミさ。

 おいらはかいじゅうさんよりもはるかにちいさくてよわいけど、はやいんだ。

 かいじゅうさんがつよさをわけてくれるならおいらのはやさをわけてやるぜ。


 ネズミがていあんすると、ちいさなかいじゅうはくびをふりながらいいました。


 なにをいってんだ!

 ぼくはかいじゅうだぞ!

 よわっちいネズミみたくにげまわらないからはやさなんかいらない!

 よわっちいネズミなんかこうだ!


 ちいさなかいじゅうはちいさなネズミをけとばそうとしました。

 けれども、ネズミはすばやくかわしてにげていきました。


 くそー!

 ずるいぞ!

 にげるなんて!


 ちいさなかいじゅうがおこっていると、ネズミよりもおおきなカラスがきていいました。


 かいじゅうさん、かいじゅうさん、おれたちはカラスだ。

 おれたちはそらをとべる。

 バッタみたくすこしだけそらをとべるのはちがう。

 おれたちはそらをとんでたびができるんだ。

 かいじゅうさんがつよさをわけてくれるならかいじゅうさんもそらをとんでたびができるようにしてやるぜ。


 えらそうにするカラスに、ちいさなかいじゅうはもっとおこっていいました。


 うるさい!

 カラスなんかあっちいけ!


 ちいさなかいじゅうはカラスをおいはらいました。


 なんだなんだ!

 みんなよわいくせに!

 ぼくのつよさがうらやましいんだろ!


 ひとりでしゃべるちいさなかいじゅうに、カラスよりもちいさなハチがきていいました。


 かいじゅうさん、かいじゅうさん、そんなにおこらないでください。

 ぼくたちハチがあつめたハチミツをすこしわけてあげますから。


 ハチがハチミツをわたすと、ちいさなかいじゅうはもっともっとおこっていいました。


 うるさい!

 ハチミツなんかいらない!

 ハチなんかつぶしてやる!


 ちいさなかいじゅうはハチからもらったハチミツをじめんにすてて、ハチをりょうてでたたきつぶしました。


 い!

 いたい!

 いたい!いたい!いたい!


 ハチをりょうてでたたきつぶしたちいさなかいじゅうは、てがいたくてさけびました。


 うわーん!

 いたいよおー!

 だれかー!


 ちいさなかいじゅうはてにハチのはりがささってしまい、いたくていたくてなきだしました。


 どうしたんだい?


 ないているちいさなかいじゅうにだれかがはなしかけてきました。


 うわーん!

 てがいたいんだよおー!

 たすけてよおー!


 ちいさなかいじゅうはそのこえになきついていいました。


 どれどれ?

 おやおや、これははりがささっているな。

 いたいだろうに、なにをしたんだい?


 こえのぬしはおおきなおおきなかいじゅうでした。


 おおきなかいじゅうさん、ぼくはなにもしてないよおー!

 なにもしてないよおー!


 ちいさなかいじゅうは、そういってなくだけでした。


 うそをつけ!

 おまえはわたしのともだちをふみつぶしたくせに!


 ないているちいさなかいじゅうに、アリがきていいました。


 うるさい!

 アリなんかしらないぞ!

 うわーん!

 いたいよおー!


 ちいさなかいじゅうは、アリのことばをしらんぷりしてないていました。


 かいじゅう!

 おまえはぼくのおとうさんをにぎりつぶしたんだ!


 なきやまないちいさなかいじゅうに、バッタのこどもがきていいました。


 だまれ!

 おまえもつぶすぞ!

 いたいよおー!

 たすけてよおー!


 ちいさなかいじゅうは、バッタのこどもをつかまえようとしました。

 けれども、ちいさなかいじゅうはてがいたくてつかめませんでした。


 かいじゅうさん、なにをないているのさ。

 かっこわるいなあ。

 これならおいらのほうがまだかっこいいぜ。


 ネズミがきてちいさなかいじゅうにいいました。


 そうだそうだ、ネズミのほうがかっこいいぜ。

 かいじゅうさん、あんたはつよいんじゃなかったのか?


 カラスがきてちいさなかいじゅうにいいました。


 うるさい!うるさい!うるさい!

 ネズミもカラスもにげてばっかのくせに!

 えらそうにするな!

 うわーん!


 じぶんよりちいさなネズミとカラスにばかにされたちいさなかいじゅうは、ネズミとカラスをおいはらおうとしました。

 けれども、ちいさなかいじゅうはてがいたくてできませんでした。


 うわーん!

 うわーん!

 うわーん!

 おおきなかいじゅうさん、はやくなおしてよおー!


 ちいさなかいじゅうは、てがいたくていたくてがまんができなくなり、おおきなおおきなかいじゅうにはやくなおしてといいました。


 うーん、どうしようかなあ。


 おおきなおおきなかいじゅうは、ちいさなかいじゅうをたすけてあげるかどうかなやんでいました。


 うわーん!

 はやくしろよおー!

 いたくていたくてもうしんじゃいそうだよおー!


 ちいさなかいじゅうは、もっともっとおおきいこえでなきだしました。


 おおきなおおきなかいじゅうさん、そこをどいてください。


 ないているちいさなかいじゅうをみおろすおおきなおおきなかいじゅうに、たくさんのハチがきていいました。


 そのちいさなかいじゅうは、ぼくたちがひっしであつめたハチミツをわけてあげたのに、それをすててしまい、ぼくたちのかぞくをたたきつぶしました。

 ぜったいにゆるせません。


 おこったハチたちは、ぜんいんがはりをだしてちいさなかいじゅうをさそうとしていました。


 まあまあ、すこしおちつきなさい。

 わたしがはなしをしてみるから。


 おおきなおおきなかいじゅうは、ハチたちをなだめて、ちいさなかいじゅうとおはなしをはじめました。


 ちいさなかいじゅうさん。

 きみはみんなにひどいことをしたんだ。

 わかるかな?


 おおきなおおきなかいじゅうのことばに、ちいさなかいじゅうはこたえました。


 しらないよおー!

 ぼくはなにもしてないよおー!

 ぼくはなにもわるくないよおー!


 ちいさなかいじゅうはそういってなくだけでした。


 ほんとうかい?

 うそじゃないかい?

 きみはつよいんだろう?

 つよいこはうそをつかないよ?


 おおきなおおきなかいじゅうは、もういちどちいさなかいじゅうにききました。


 しらないってばあー!

 よわいやつらがうそいってるんだろおー!

 ぼくはつよいんだぞおー!

 はやくなおせよおー!


 ちいさなかいじゅうは、おおきなかいじゅうにうそをつきました。


 そうか…

 それならしかたがないね。

 みんな、すきにするといいよ。


 おおきなおおきなかいじゅうは、ちいさなかいじゅうのてをなおさずに、どこかへいってしまいました。


 ふざけんなよおー!

 まてよおー!

 たすけろよおー!


 なきながらさけぶちいさなかいじゅうを、おおぜいのハチ、カラス、ネズミ、バッタ、アリがかこんでいました。


 いやだ!いやだ!いやだ!

 いたい!いたい!いたい!

 やめろ!やめろ!やめろ!

 うわーん!うわーん!うわーん!


 ちいさなかいじゅうは、じぶんよりもずっとちいさなものたちにこうげきされ、いたくてなくことしかできませんでした。

 おおきなからだでみんなにいじわるばかりしていたちいさなかいじゅうは、ちいさなからだのみんなにきらわれてしまい、おおきなおおきなかいじゅうにはうそをつき、だれもみかたがいなくなってしまい、さいごはしんでしまいました。

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