第16.5話 衛宮煌星について
百合が満足げに帰宅した後。
僕にはどうしても確かめなければいけないことがあった。
勉強机の右の引き出しの、上から数えて2番目。
そこは唯一鍵をかけられる場所だ。――――――――ここには間違えても見られはいけないものが眠っている。
(一応確認しとくか)
僕は肌身離さずもっている鍵を既に何度も開けた痕跡がある、その引き出しの鍵穴に差し込む。
ここには百合との思い出が詰まっていて、中敷の下へと隠されている。小学校1年生の時自由帳へと手を伸ばす。
(7月31日
この日は、おかあさんとおとうさんがけんかしてた。ぼくはうちにいるのが嫌でよく行ってる公園にいったら、かみも目もキラキラできれいな女の子が泣いてた。ほんとにきれいだった!このきもちがすきってことかな?でもその子が泣いてるのを見てたらぼくもかなしくなって、ゆうきをだして声をかけたらわらってくれた。なまえはみつきゆりちゃん!えがおがほんとにかわいくて、ぼくはとてもうれしかった。明日また会えるようにあそぶやくそくをした。)
そこにはびっしりと書かれた文字。小学生の自分は自由帳を日記代わりにしていたようだ。
(……おぼえてるはずだ。これは僕にとって一番大事な思い出なんだから)
何度も開いてボロボロになった日記帳をいつものように手にとり、その時の自分を想像する。
(大事な思い出であることは、おぼえてるくせして。その時のことは何も思い出せないな)
百合と再会してからも毎晩のように読み返し。
思い出そうとしていた一番大事な記憶を、どう頑張っても思い出せない自分に呆れ。僕は自由帳を閉じた。
(仮でも明日から百合の恋人になるんだ。僕はボロをださずに彼女の隣にいれるのだろうか……)
そんな不安な気持ちを抱えながら、僕はその自由帳を引き出しにしまう。
しっかりと鍵をかけたことを確認し、ふとんに入る。
(―――――――このことは母しか知らないはずだ。間違えても百合には気づかれたくない)
僕の中で百合を好きだという気持ちだけは確かに残っているのに。彼女と過ごした日々が思い出せないことに、今日は一段と気持ち悪さを感じながら僕は意識を手放した。
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