第15話 お願い事、前振り②
「なんというか、百合は別なんだ」
僕の中でやっと百合の存在がハッキリしたような気がした。
「ふ〜ん?何が。どう、別なんですか?」
百合の声色がどんどんからかっている音色に変わり、こちらへ一歩二歩と近ずいてくる。
「ニコッ」
「………!」
何か裏があるんじゃないかと感じる満面の笑みを至近距離で向けられ、僕はその圧に負けて何も言えなくなった。
「まあ、とりあえず。深呼吸でもして落ち着いてください、煌星くん」
「わかった。スゥ―――ハァ――――」
僕は高鳴った心臓を落ち着けるために深呼吸をした。
「―――落ち着きました?さっきから若干。いや、かなり……キモかったですよ?というか人の話はちゃんと聞いてください」
「きもいって容赦ないな!!……すみませんでした。」
「よろしい!私は、2次元の女の子ではありませんから♪」
「…そうだな」
そう。百合も僕のことを思ってくれているなんて。僕の勘違いに決まっている。
―――――そんな存在こんな僕にいるわけがないじゃないか。
「でも。そんな幼なじみ大好きな煌星くんにピッタリな頼み事があるんです」
「なんだ?」
「そう、私のお願い事は。これですー!」
ババンという効果音が付きそうなほど、勢いをつけてそれは目の前に突きつけられた。
よく目を堪えてみると。そう、それは僕のお気に入り同人誌「〜金髪少女の全て〜」というイラストをまとめた本の一場面。「あなた、私の下僕になりなさい!」とケモ耳金髪お嬢様が王様が座っているような豪奢な椅子に座り鞭を片手に命令しているイラスト。このイラスト集は少々作者の趣味(性癖)が特殊で万人受けしないけど、僕にはドンピシャだったな―――――――――
「って!!なんて本出してるんだ!!わるいけど下僕はごめんだからな!!」
「そう。おまえは私の下僕だ!ってそんなわけないじゃないですか、間違えました(๑>•̀๑)」
「いや、間違えるな!!」
「えへへ。ごめんなさい」
そんな茶番を経て、今百合は僕の本棚に行きある作品の一巻をとりぺらぺらとめくっている。
「……あ!ありました。これです」
「ここの文読んでみてください」
そのラノベの一場面、主人公は大の恋愛嫌いだが隣の席で毎日のように告白されているメインヒロインに過去の黒歴史を握られた一部分。
百合が指している文章は―――――――
「君は恋愛嫌いでしょ?絶対に私を好きにならなそうだから私の彼氏のフリをして欲しいの。断ったら、この脳内妄想武勇伝校内放送で朗読ね☆」と半ば脅しのように主人公に迫っているシーン。
―――さてどうしようか、百合が満面の笑みでずっとこちらを見ている。とりあえず言われた通り読むか。
「きみは、恋愛、嫌いでしょ。絶対に、私を好きにならなそうだから、ワタシの彼氏のフリをして。欲しいの。断ったら、この脳内妄想武勇伝校内放送で朗読ね」
自分で引くくらい、見事な棒読みだった。
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