第14話 お願い事、前振り
「ただいま」
「お邪魔します!」
「あら!あらあらあら〜!百合ちゃんいらっしゃい。………私、どこかへ出かけた方がいいかしら?」
「今日は別に、そういうことをしようと思っておじゃましたわけじゃないので。居てください」
「うふふ。そうなのね」
今日は……ってことは今日以外だとそういう機会があると?いや、深く考えるのはやめよう。
俺は雑念を取り除き、百合のお願い事とやらを聞くために部屋へと通す。
「そういえば、煌星くんって幼なじみが好きなの?」
「急になんだ」
「だって、部屋にあったえっちな本。ほとんど幼なじみのお話しだったよ?」
部屋に通して二人きりになった途端、百合はいつもの敬語口調を砕けて。突然そんなことを言い出した。
「………好きで何が悪いんだ!」
僕はそう開き直る、そういえば朝見られてたんだったな。
「うわ、開き直った!別に悪いとは言ってないじゃん」
「………」
なんとも言えない気まずさからつい目をそらしていたら。しばらくして、百合はこちらを覗きこんだ。
「………私のこと、そんなに好きなんだ?」
「!!!」
好きなことには違いないから、ついそれらしい反応してしまった。百合の思うつぼだ。
僕は宝石みたいにキラキラしている、スカイブルー色の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。……相変わらずきれいだな。
「……そんなにわかりやすく反応するなんて、ちょと計算外だけど。嬉しい」
「ん?ちょとまてよ。今の流れだとまるで、僕が同人誌の幼なじみが好きだから。お前が好きみたいにならないか?!」
「確かにそうだね。でも、それでも。十分うれしいよ!」
「いや、ちがう!そもそも僕が好きなのは。誠実で純粋で純潔で、お前とは似ても似つかない。幼い頃から主人公の隣で育ち、誰よりもそばで支え。たとえ主人公が幼なじみを好きにならなくても、ずっと思い続ける存在なんだーー!」
そう。今の百合からはかけ離れているはずだ。―――――――なのに。こんなに心臓が早鐘を打っているのはなぜだろう。
「うわ、何急に暑く語ってるんですかー?
でも。ほら、その煌星くんの大〜好きな幼なじみここにいるよここに」
「そんな存在がいないことはとっくに知ってる…!って。え?今なんと」
「だ!か!ら!ここにいるよ、ここに」
ふふんと、胸に手を置き自慢げに百合は己の存在を主張していた。
「…………………そうか」
「そうかって。ほんとに聞いてる??おーい」
……そんな人が僕にいるわけがない
僕だって、現実と空想の世界が区別出来ないわけじゃない。ついつい幼なじみについて語ってしまったが―――――
百合は僕にとって同じ幼なじみでも。ちゃんと一人の人間としてすきだ。たとえ百合が他の男をすきだと言ってもきっと僕は百合の幸せを願うのだろう。……すごく嫌だが。
これが恋愛感情というものなのか、もう今の僕にはわからない。百合の性格が多少昔と変わっていても、好きなことには変わらないと悔しいが改めてこの2日で認識させられた。
それほど僕にとって、百合は大切な存在なのだろう。
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