第9話 登校イベント②
結論から言うと僕は負けを悟ってから、すぐに走ることを諦めてしまった。
僕の足は遅刻が決定したことにより、歩く速度が憂鬱な気持ちを乗せさらに落ちる。
そのままいつもよりも遅い足どりで歩き、気づけばすでに教室の前についていた。
「それでは〜ホームルームを始めます〜♪」
…………入るか、入らずにサボるか……
僕が後ドア付近で悶々と悩み右往左往していると、教室から刺すような視線を背後に感じた。
「斉藤先生、教室の外に誰か居るみたいです」
その凛とした印象を受ける声の持ち主は黒髪ボブのクラスメイト四ノ
………そもそも僕と話したことがある人自体ほとんど居ないって?やめて泣くよ??
「あらあら〜衛宮くん寝坊しちゃったのかしら?っふふふ」
そう話す担任は意味深な視線を僕と百合へと向ける。百合はそれに対し不気味に感じるほど終始ニコニコしていた。
それに気づいてか周りのクラスメイトは「なにあいつ」、「そう言えば
何より四ノ宮からの視線がいちばん怖い。今にも僕を殺しそうな目で見ている。
考えられる最悪な状況に胃を痛めながらも、僕は出来るだけ目立たないように無言で席についた。
◻️ホームルーム終了後◻️
「衛宮くん、少しよろしいですか?」
……………来たか。
百合は口調や仕草は普段の優等生なお嬢様を保てているが、何を考えているか分からない満面の笑みがこわい。
クラスメイトからの奇異な視線を浴びながら僕と百合は教室から出る。人気の少ない渡り廊下まで一緒に歩いている間、百合はえらく機嫌がよさそうに鼻歌交じりで歩いていた。
「ふふん、さっきの勝負は私の圧勝でしたね♪」
「そうだな。おめでとう。」
「何そのうす〜い反応!!女の子に負けたんだよ?もうちょと悔しがってくれてもよくない?!」
「あーはいはい。」
「………」
「ボクトッテモクヤシイナ」
「ちょ、雑すぎない?!気持ちがこもってない」
「そうか?」
「そうだよ!!もうちょと驚いてくれてもいいのに……」
そう話す百合が僕には寂しげに泣いている小さな一人の女の子の姿と重なり、僕はついつい昔の癖で彼女の頭に手をつばす。
「……十分驚いたよ。頑張ったんだんだな」
彼女のことは最近まで忘れかけていたはずなのに不思議な感覚だ。
「ッ!っ…………
「!?ちょ、え、泣くなよ、!僕が泣かせた見たいに見えるだろ」
「…………っみたいじゃなくて、
「あーー!もうー!僕が悪かったから。そんなに頭触られたくなかったら先に言え」
「ッッッ違うよぉぉ………!バカじゃないのっ………」
百合が決してそんなことで泣いている訳じゃないことなんて、彼女の今の顔を見ればすぐにわかる。
でもあの頃の幼い女の子ならともかく、女性になった彼女をどう慰めればいいのか。なんて人とほとんど関わってこなかった僕には分かるわけがなかった。
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