グーアとの決着

 夜、テントが多く設備されている。

 そのテントの一つには、銃器や爆弾、火器類が無造作に置いてある。

 その場に居合わせるのは、グーア傭兵団の傭兵ばかりだ。

 傭兵の二人が酒を片手に話し出す。

「うちもでかくなったな。これだけの傭兵団になるなんて思わなかったな」

「しかも、今回もガキが多く手に入ったらしいじゃねえか」

「あとはこの国で内乱でも、戦争でも起こせばまた稼ぎになるしな。」

「そうすりゃうちは安泰だな」

 そう言って乾杯をすると、アジトの外から爆発音が聞こえてきた。

「なんだ、今のは⁉」

「まさか輸送中の爆発物に引火したわけじゃあねえだろうな⁉」

 いや、ちがう。二人をそう考えさせたのは、連続で起きている爆発音だ。

 すると一台の車がこちらにやってきた。

 その車から降りてきたのは、テロリストに商売をする予定だった男だ。

「大変だ! 大変だ!」

 男は怯えている上に、パニックを起こしていた。

 そんな状況にテントから出る者がいた。

 男はそれを見るなりパニックを収めていた。

「ボ、ボス……!」

 それは、この傭兵団のボス、ダジアだった。

「落ち着け! どうなってんだ、この状況は⁉」

 ダジアは男に問い詰める。

「ボス! ここの周りが襲撃されています!」

 男は慌てながらも、ダジアに報告した。

「襲撃だと⁉ 軍の奴らか⁉」

「いえ、それが……」

「早く言え!」

 ダジアが言いあぐねる男に食らいつかんばかりに怒鳴った。

「襲撃をしているのはたった一台の車です!」

「たった一台? まさか……」

 ダジアはそう言うとフッと笑みを浮かべた。

「だったら徹底的に出迎えてやれ! 今までの平和ボケした騎士団なんかとは違うからな!」

 ダジアがそう叫ぶと、その場にいた傭兵たちは足早に去って行った。

「光晴か、鉄矢かそれとも……」

 ダジアは、一人になって呟く。

 彼は笑みが、奥から笑い声を抑えつつもついに声に出してしまう。

「おかしな話だぜ! 自分で育てたガキと殺し合うだなんてな!」

 ダジアの歪んだ笑い声は夜空へ響いた。


「今ので何台目だ⁉」

 後部座席から身を出している俺が叫ぶ。

「十台は突破したよ!」

 同じく助手席から身を乗り出す翠果が答える。

「とりあえず、ダジアのところに着くまでは止まれない! 止まったら死ぬと思え!」

「わかってるよ!」

 鉄矢が運転して俺を銃撃にしているのは今、炎の力を使える新装システムというのを当てにしているからだ。

 新装システムとの相性は抜群で、ここまで奴のアジトに辿り着けたのはこの力のおかげといっていい。

 新装システムによる炎の銃撃はアジトから出てきた部下たちの車を撃ち抜けるほどの威力があった。

「ロゼ、敵は?」

『後ろからは来てない、前から敵が来てる!』

 特に今、俺と一心同体となっているロゼの様子を気にしていた。

 ロゼの警告通りに、前から来た車両に発砲する。

 着弾した車はすぐに炎を上げ、爆発した。

 想像以上の力に何故か疲れた気分におちいる。

 別に体力を消費しているわけでも、魔力を消費したわけでもない。だが――。

『ミツハル。アンタ大丈夫?』

「……なんでわかった?」

 心臓が飛び出しそうになった。

 俺の心を読まれたのかと考えたのだが、読めなかったから訊いてきたのだろう。

『あなた、もしかして罪悪感を感じてる?』

「罪悪感?」

『そう、昔の味方なんでしょ、今まで撃ってきた人たちは?』

「……なにも感じないわけじゃない」

 そうだ。彼女の言うとおり罪悪感ともいえる感傷が確かにある。

「この話はこれで終わりだ。今は敵なんだ。集中しないと」

『わかったわ、これ以上は言わない』

「それでいい」

 彼女に言い聞かせて炎銃の銃口を前に向け直す。

 実際に言い聞かせたのは、俺の方なのだが。

 そう言い聞かせないと撃つのをためらいそうで、逆に俺たちの命が危ぶまれる。

 だから言い聞かせたのだ。

 俺の覚悟を示すように、前からくる車両、傭兵団が乗る車を次々と撃っていく。

 撃たれた車両は、あっという間に爆発の火花と煙で消えて行く。

 そのおかげで、人の死体を見ずに済んだ、と思ったら俺は狂っているのかもしれない。

 そう考えるうちに、また車両が二つ俺たちの前に現れた。

 考える間もなく、引き金を引いていく。

 撃たれた二つの車両は爆散した。

 だんだんと俺の中で焦りが生じてきた。

 制限時間があるわけでもない。ただ疲労しているかもしれない。

 そのとき、車が斜めに傾いた。

「どうした⁉」

「どうやらタイヤがやられた! もう走れない!」

 まだまだアジトが見えてないってのに、という苛立ちを感じながらも、ここまでよく持った方だと感心する。

「あたしがどうにかする! まっすぐ進んで!」

「タイヤを直すのか⁉」

 車内から飛び出した翠果がスマホで操作をする。

「そんな時間はない! それより時間を稼ぐ!」

「なんだって⁉」

 いったいどんな魔法を使う気だ? と疑問に抱いた。

「研究所で見せた立体映像! あれを使うの!」

 俺はあの時の影分身をまねたのを思いつく。

「まさか……」

「そのまさかを見せてあげる!」

 翠果がスマホの操作を終えると、俺たちの乗る車両が四台の分身を生み出し、左右に分かれて突き進んでいた。

 前から来た十数台の車は、分身を追う形で俺たちの目の前から消えた。

 たった二台こっちに向かってくるのを除いては。

「こっちにも来たか!」

 鉄矢が舌打ちしながらハンドルを握り続ける。

 鉄矢が叫ぶと同時に俺と翠果は反応した。

「降りろ!」

 翠果は着地し、鉄矢は手榴弾を運転席に放り込む。

 この行動に俺は理解した。

「巻き込まれるなよ!」

 二人に叫びながら炎弾を運転席に撃ち抜く。

 車は真っ赤に燃え上がり、前の二台と一緒に爆発した。

「どうする? ここからじゃさっきの奴らが戻ってくるぞ」

 すると翠果が叫ぶ。

「あとはあたしに任せて!」

「任せるったって――」

 お前を一人になんて――。

「アンタたちはダジアを止めるって使命があるでしょ!」

「だけど一人で相手するなんて――」

「妹の言葉を信じられない? それとも心配? いらないお節介だよ!」

「……だけど!」

 それが妹を見捨てる理由になるもんか!

「私だって白銀家の人間なんだから、陽動くらいは無傷で果たして見せるって!」

 妹を囮になんてできっこない。

 だけど、それ以上にここで時間を食っている場合でもなかった。

「納得したわけじゃないから、死ぬなよ!」

 俺は背後の、遠ざかっていく妹の声がわずかに聞こえた。

「じゃあね。兄上」

 その声に後ろを振り向くと、反対側へと駆けて行き、すぐ見えなくなった。

 俺の心配どおり、死ぬ気だ。だが振り返ることはできなかった。

「急ぐぞ、光晴!」

「わかってる! すぐにケリをつける!」

 傭兵団のボス、ダジアを殺すまでは!

 そう言い終えると、前から三人の傭兵が現れる!

「邪魔だあああ!」

 俺は精一杯の炎の力で奴らに斬りかかる。

 炎の刀の一撃は、三人一斉に燃え続けた。

 今度は四人の傭兵が現れた!

 鉄矢は二丁拳銃で二発ずつ発砲する。

 計4発の弾丸は見事に各々に心臓、額、眼球、肺に着弾した。

 俺は確認する。

「あと何発ある?」

「拳銃はこれらだけじゃない! サブマシンガンもある!」

弾切れの心配なしってことか! というより、そのコートの何処にそう言い切れるかは今は訊かない!

「このまま突っ走る! 奴がいるのはそこのはずだ!」

「おう!」

 俺たちはアジトの奥へどんどん進んでいく。

 ただし、気になることがある。

 新装状態の俺の身体がさっきより火照っている。

 まさか、ロゼ――。

「緊張しているのか?」

「今さら――」

「違う、お前じゃない。ロゼの調子がおかしいんだ」

 そう言うと、俺から距離を置き始めた。そんなにやばい奴だと思ってる?

『私は大丈夫……。大丈夫だから……。』

「そうか。ロゼは復讐の相手が近づいているからか」

 違うぞ、鉄矢。こいつはそこまで制御できる女じゃない。

 こいつは若干ヒステリック気味になっているんだ。

 俺は今になってこいつが怖いと思うほどに。だから――。

「ロゼ。復讐したいなら、なにがあっても新装状態を解くんじゃないぞ」

『……!』

「奴に勝つためだ。お前が一人飛び出して勝てる相手じゃない。」

『……』

 だんまりか。その方が俺たちの都合にいいが――。

「はっきりと言っておくが、俺はお前の復讐に手を貸すつもりでいる。ただし、確実に勝てる状況でだ。だから俺のいうことはよく聞け」

『……わかったわ。飛び出したりしないようにする』

 やっと納得してくれたようだ。新装状態を当てにしているからなおさらいい。

「それでいい。終わったぞ、鉄矢」

 鉄矢は俺に追いつく。

「大丈夫か? お前らの新装の力がカギだから」

「なんとかわかってくれてるよ。ロゼは」

 その後、襲い掛かってくる奴はいなかった。

 おそらく、俺の後ろで一人戦ってくれている翠果が引きつけているからだろう。

 翠果が無事であるうちに、奴を叩かねば!

「よう、好き勝手に暴れてくれんじゃねえか」

 やっとその姿を視界に捉えた。

 ダジア・シンシエ。俺たちのような孤児を兵器として育てた人物であり、キメラノイド計画に関わり、ロゼを含んだカーマイン領などの襲撃した張本人。

 鉄矢が拳銃を発砲し、

「裏切り者でも!」

 俺が形見の刀と炎刀の二刀流で斬りこむ。

「アンタを討つ!」

 弾丸はダジアの顔の横を切り、二刀流の剣術も、奴の剣一本で受け止められた。

「てめえ、その赤いのはどういうことなんだ⁉」

 こいつ、新装システムのこと知らねえのか?

 ロゼ本人にも知らなかったシステムだからか、バルクトはダジアにも黙っていたのか。

 どっちにしろチャンスだ!

 この火力で奴を討てる!

「教えてやるかよ!」

 俺は炎刀を力いっぱい振り下ろす!

 炎刀からは視界いっぱいの炎がダジアの周りを取り囲む。

「この炎……あの小娘と似た力だな……だがな!」

 ダジアは周りの炎を剣で薙ぎ払っていた。

 炎はたちまち強い風に吹かれるように消えていった。

「無駄なの知っているよなあ、光晴」

 忘れてはいなかった。俺が形見の刀と炎刀を持つように、奴も剣を持っていることを。

 だから奴には炎による攻撃は効かない。

 薙ぎ払うダジアに短機関銃で撃ちまくる鉄矢。

 しかし、ダジアはその場から飛びあがり剣で斬りかかる。

 寸前で回避する鉄矢は避けながら拳銃でダジアを撃ち続ける。

「中距離から援護する! だから――」

「攻撃を弾き返せばいいんだな、わかった!」

 俺は飛び込むようにダジアに接近する。

 ダジアはそんな俺を回避するように横切る。

 奴の狙いは俺の背後で銃を構えている鉄矢だ。

 俺が炎刀で立ち塞ぐ。

「そうはさせるか!」

 炎刀を軽く受け流すと、俺を無視して鉄矢に向かった。

「死ね! 鉄矢あぁぁ!」

 だが、その凶刃が鉄矢にかすることはなかった。

 鉄矢は拳銃でそれを弾いたからだ。

 ダジアが動きを封じられた瞬間、俺はダジアに斬りこむ。

「甘いな、アンタも!」

 かすった! 俺の斬撃は奴の服を斬るだけに終わった。

「俺たちが今まで立てた作戦はガセなんだよ!」

「だましてきやがって、やってくれる!」

「だましたのはアンタが最初だろうが!」

 俺は炎刀による二振り目を斬り上げていく。

 ダジアは、剣で受け流す。

 鉄矢は距離を取らず、至近距離から銃撃戦を仕掛けた。

「こんな技、お前に返すことになるとはな!」

 ダジアの肌に銃口を密着してからの発砲。

 それを素手で弾くダジア。

 すぐさまもう片方の拳銃でダジアを狙う鉄矢。

 それを躱すダジア、剣で突き刺す。

 それを両方の拳銃で防ぎ、蹴りを繰り出す。

 これが鉄矢の二丁拳銃による格闘戦だ。

 おかげで、ダジアの背中はがら空きだ。

 がら空きの背中にアに斬りかかる。

「もらった!」

「くそガキどもがああ!」

 ダジアは鉄矢の片手を掴み、俺へと投げられた。

 俺は鉄矢と共に地面に落ちていった。

「ちっ、しまった!」

 俺は鉄矢に覆いかぶされた状態で身動きが取れない。

 そこへダジアの剣が突き刺してくる。

「死ねえ!」

 ここで死ぬわけにはいかない!

 無理矢理動いて鉄矢をどかし、蹴りで防ぐ!

 それもただの蹴りじゃない、炎を纏わせた足でなら!

「うおおお!」

 腹に力を入れて全力の蹴りを喰らわせる!

 相手の魔法を打ち消せる剣と、炎で纏った足はぶつかり、激しい火花が散った。

 俺を下敷きにしていた鉄矢は半身起き上がると、ダジアに発砲した。

 ダジアは距離を取って、俺たちから離れて行った。

 鉄矢はこの隙に立ち上がってダジアに向けて走り出した。

 発砲しながら、徐々に近づいていた。

 鉄矢は、片方の拳銃で剣を受け止めながら、もう片方の拳銃で発砲する。

 弾丸はダジアの体には当たらないもののかすっていた。

 だが鉄矢は、剣を拳銃で受け止めるまではいいものの、無傷で抑えることができなかった。

 徐々に鉄矢の拳銃が刻まれていき、耐えきれず壊れていった。

「ぐっ!」

 ダジアの剣が鉄矢の腕をわずかに斬った。

 斬撃で痛みを感じたのか、次の拳銃を取り出すのに手間取ったように見えた。

 その隙を見逃すようなダジアじゃない。

「甘いのはてめえらなんだよ!」

 そう言って鉄矢の脇腹を斬った。

「鉄矢!」

 俺は叫ぶと同時にダジアに斬りかかった。

「そう来ると思っていたよ!」

 上半身を捻ったダジアに斬られた。

「うぐっ!」

 俺は斬られた肩を抑えながら、牽制に炎銃で撃ちまくる。

「とうとう追い詰めたぜ、光晴ぅー!」

 これでダジアが鉄矢から離れたのはいい。

 だが手負いとなった俺がどこまで耐えられるか。

「甘く見んなよ! これぐらいで!」

 抑えた肩の傷口を炎で燃やして持ち直す。

 肩が燃えそうな感覚で意識を失いかけるが、ギリギリ保つ。

『あなた、そんな応急処置で!』

「これでもしねえと!」

 心配するロゼを一蹴すると、一刀一丁でダジア迎え撃つ態勢を整える。

「バラバラに斬りきざんでやるよ!」

「違う、転がるのはお前の方だ!」

 刀と剣がぶつかり、銃は外れてもいいから撃つ。

 ぶつかる刃の音、燃えるような銃撃音が連続で鳴り合う。

 音にならないのは互いの身体を斬り裂く感触だ。

 互いの身体に斬り傷が増えていく。

 しかし、明らかにダジアに与えたダメージより俺の方がダメージが大きかった。

 やっぱり、あいつの方が上手か……。

 ダメージが大きくなったからか、俺の斬撃、銃撃が遅くなっていき、ダジアからさらにダメージを受けてしまう。

 頬、両肩、両腕、両膝、脇腹に傷が出来る。

 ダジアにも同じ傷をつけているのに痛みが感じないかのように素早かった。

 そしてとうとう足の付け根を斬られてしまう。

 俺はその痛みで倒れる。

 俺は倒れながらダジアに銃を撃つ。

 炎の弾丸はダジアの頬を横切り火傷を負わせただけに終わった。

 そしてダジアは今俺の眼前に迫ってきている!

「止めだ! 光晴うぅ!」

「させるかっ!」

 鉄矢が放った銃弾が俺たちの間を横切る。

 それと同時にダジアに向けて銃を発砲しながら突撃する。

「バカだなあ! 鉄矢よお!」

 ダジアはすぐに鉄矢に銃を持たない方向へ廻りこんで胸元を斬り裂いた。

「鉄矢!」

 俺と同じ場所へ倒れこんだ。

 もう俺たちに……。

 ダジアを討つ手段がない。

「ちっ……」

「残念だったな……光晴、鉄矢!」

「ホントに残念だよ……ダジア」

 俺はローブを翼に変え、ダジアの身体に突っ込んだ!

「なんだと⁉」

 その衝撃でダジアは武器を落とした!

 今だ! ロゼ!

『新装解除!』

 ダジアが体勢を崩した瞬間、俺が考えるのと同時に背後から銃声が轟いた。

 弾丸はダジアの左胸を貫いた。

 その銃弾を撃ったのはロゼだ。

 ダジアの武器を落とした瞬間。

 新装の解除の瞬間。

 この一瞬を良く見逃さないでいてくれたこと。

 ――なにがあっても新装状態を解くんじゃないぞ。

 ――俺たちが今まで立てた作戦はガセなんだよ!

 なによりロゼがこの二つを聞いてくれたことが決め手になった!

 だがそれでもまだ倒れないダジアに俺たちは気を張り巡らせていた。

「チクショウ……こんなバカな……」

「終わりだ、師匠」

 鉄矢は今にも倒れそうなダジアに銃を向ける。

「てめえらは分かってない……俺を殺しても……誰かが……」

「確かにこの国はまだ問題だらけだ。だけどな」

「アンタの火種がいなくなれば、じきに抑えられるさ。そんなやつら」

 鉄矢は足元に銃口を光らせる。しかし、ダジアに当たらなかった。

「……そうかな……俺のとこにいるガキの居場所を……」

「そんなのこの国が、俺が代わりに作ってやる。平和になっていくこの国でな」

 鉄矢が言い出した。

「あま……いんだ……よ。お……まえ……ら」

 かろうじて立っていた足の片方が力を抜ける。

 そして崩れるようにダジアは倒れた。

 顔は鋭い眼光をしながら、笑っている。

 とても死んでいる奴の顔に見えない

 鉄矢は銃を構えながら、彼の死を確認した。

「どうだ。仇を討った気分は?」

 鉄矢はロゼに訊いた。

「……反吐が出そうね。嬉しいはずなのに」

「……そうか」

 俺たちはその場を後にした。


『全員その場で止まれ! 抵抗するなら容赦しないぞ!』

 スピーカー越しに誰かが怒鳴ってくる。おそらくは軍だろう。

『我々は魔国軍である! お前たちはすでに包囲されている!』

 その音声と共に、すぐに突入してきた兵士たちによって、傭兵団の連中は武装を放棄した。

 もしダジアが生きていたなら、軍が来ても彼らは戦っていたのかもしれない。

 ダジアは死んだ。もう戦いを起こす者はいないのだ。

 スピーカーが出の警告が続く中、軍の部隊の何人かが俺たちに近寄る。

 軍人は警戒をしながら尋ねてきた。

「あなたが、ミツハル・シロガネか?」

「……はい」

「我々は、ミツハル・シロガネ、スイカ・ベール、テツヤ・クロガネ、キメラノイドの一人である、ローズ・カーマインの保護を命じられています。ご同行を……」

 このまま軍に保護される前に俺は訊いておきたいことがあった。

「ローズ・カーマインを軟禁、もしくは処罰するつもりですか?」

 軍人は、首を振って答えた。

「いえ、キメラノイドは保護せよ、との殿下の命令です。それにあなた方の保護も殿下の命令です。ただ皆様には尋問を行いたいのですが……」

「あの、翠果! いや、スイカ・ベールは⁉」

「彼女でしたら、アジトの場所を詳細に教えになった後、怪我を負っていたらしく倒れました。我が軍で現在、治療しています」

「そうか、無事か……」

 俺は安心して地に伏した。唯一の肉親が生き残っていることに。死を覚悟した彼女が生き残ってくれていたことに。

「……わかりました、同行いたします。他の者にも伝えてください」

 答えたのは俺じゃなく、後ろにいたロゼだった。

 軍人は迎えの車を用意するため、俺たちから離れて行った。

 俺たちの長いようで短い戦いは終わったのだ。

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