第26話新たな命

未来は、妊娠した。


お腹の中にいるのは礼二の子供だったが、未来はある日突然、失踪した。


礼二は、必死に探した。


未来が妊娠したとも知らずに…。


未来は、貯金を切り崩して地方のアパートでひっそりと暮らしていた。


礼二は、興信所に依頼してやっと未来を見つけた。


未来のアパートを訪ねるとお腹の大きくなった未来が現れた。


「見つかっちゃった。」


未来は、半分ホッとしたが半分は不安だった。


「未来、妻とは別れる。結婚しよう。」


礼二は、本気だった。


しかし、未来は断った。


「わたしは、奥さんから上野さんを奪えない。」


「それなら、毎月、お金を入れる。二人で育てよう。」


礼二の一歩も引く気はない姿勢に未来は根負けした。


未来は、礼二が探してきた病院に出産が近いという事で入院した。


本当に二人だけの秘密だった。


無事、女の子が産まれた。


しかし、未来は記憶が曖昧で十六歳に戻ったり二十三歳に戻ったりという事を繰り返していた。


未来は、自分の子供を認識する事が出来なかった。


そんな自分を許せなくて未来は姿を再び消した。


礼二は、覚悟を決めた。


未来は、探さない。子供は妻と一緒に育てると。


妻の咲江は、礼二の過去を知っていたので赤ん坊をすんなりと受け入れた。


子供の名前は光にした。


礼二と咲江の間には、六歳になる真司郎がいた。


真司郎は、優しい心を持った男の子で光の世話をしてくれた。


月日は流れて、光は小学生になった。


未来に、良く似た女の子に成長した。


光は、咲江が読み聞かせた童話や小説などを一度聞くと覚えてしまった。


礼二は、未来の子供だなと強く感じた。


小学生の授業中、光は、良く教師に質問したり意見言うようになった。


『教師泣かせの光ちゃん。』と知られるようになった。


同時にいじめも受けた。


『もらわれっ子!』そう言われるようになった。


光は、礼二や咲江、真司郎に『もらわれっ子て何?』と質問してきた。


礼二は、正直に未来の話をした。


『ふーん。』と光は淡白な受け答えをした。


そして、六年生になると読書感想文で賞状をもらった。


驚いた事に、出版会社から小説を書いてみないかと誘いを受けた。


礼二の勤める出版社と同じくらいの大きさの出版会社である。


担当編集者が、光を訪ねて礼二と会うとビックリした。


礼二は、編集長になっていた。



編集者の高田純は、たまたま、地元紙に掲載されていた光の感想文を読んで訪ねて来た。


「上野さんならご自分の娘さんの才能に気が付いているでしょう?」


礼二は、光に書いてみたいかと尋ねた。


光は、興味なさげだったが純の熱意に負けた。


「書かせてみて、ダメだったらすぐに書くのを辞めさせます。」と礼二は純に言った。


『恋してカメレオン。』


という小説を光は書いた。


内容は、小学生の男の子がカメレオンのように色を変えて好きな女の子を隠れてストーキングするという話だった。


ペンネームは、礼二が決めた。


未来と同じく、花火丸とした。


どこかで未来が見てくれていると信じて。


『恋してカメレオン。』は口コミで広がって大ベストセラーになった。


しかし、光は他人事のように勉強に熱を上げるようになった。


連日、光は、夜遅くまで勉強をしていた。


そんな光を見て、礼二は休みにボーリングに誘った。


嫌がると思っていたが意外にもあっさり行くと言った。


高校三年生となった真司郎は野球の名門校で寮に生活しているがたまたま日宅に帰って来ていたので一緒にボーリング場に行くことになった。


光は、初めてのボーリングにも関わらず、真司郎が投げるのを見てストライクを連発した。


礼二には、光が未来に見えて目頭が熱くなった。


ボーリングをした後に喫茶店に寄った。


「真司郎、ドラフトには引っ掛かりそうか?」


「どうかな?甲子園一回戦負けだから期待はしてないよ。」


光は、メロンソーダを飲みながら窓の外を見ている。


「未来、毎日遅くまで勉強してるんだって?」


真司郎が未来に聞いた。


「うん、お医者さんになりたいと思ってるからね。」


「医者に?」


さすがの真司郎も驚いた。


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ここにページを追加ここに章を追加


128ページ


「でも、小説はどうするんだよ?」


「うーん、分からない。」


真司郎の質問に光は素直に答えた。


「まあ、光が決める事だ。兄ちゃんはどんな職業についても光を応援してるからな。」


「うん、ありがとう。」


光は、真司郎を尊敬している。


その後、真司郎は多数のプロ球団からドラフトで指名されてプロ野球選手になった。


光は、小説は書かずに自力で名門の私立中学を受験して合格した。


咲江が珍しく泣いて喜んでいた。


当の本人の光は、冷静だった。


「わたし、私立に行くのは止めた。地元の市立中学に行く。」


咲江が、どうして?と聞くと


「授業料高いし、受験は通過点だから。記念受験って事で、後、小説も書きたいし。」


と光は答えた。

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