第25話二十三歳

未来の記憶は二十三歳に戻った。


礼二とは、不倫をしている。


お互いに惹かれ合ったのだ。


未来はいけない事をしていると思っても体も心も礼二に持っていかれる。


礼二は、何故かセックスした後で涙ぐんでいる。


それを未来が優しく手で拭いてあげると泣き止む。


粗暴で仕事に厳しくセックスは激しい男が泣いている。


未来は、そのギャップにも惹かれている。


「上野さん、何で泣いてるんですか?」


未来はベッドの中で礼二の大きな背中に聞いた。


礼二は、何も言わずにまた奪うように未来を抱くのだった。



田中春馬は、未来に手を振り払われてから小説が書けなくなっていた。


春馬は、新しい担当編集者にも愛想を尽かされて干された状態になった。


春馬の怒りは未来に向けられているが、あの笑顔や仕草を見かけると体中が掻き乱されるような感情になった。


そんな時に柏原竜に春馬は声をかけられた。


お互い天才と言われ、竜は今でもヒットメーカーだ。


「田中君、公園で飲まないかい?」


と竜は春馬を誘った。


竜は、大柄で老けているのでコンビニでビールを買っても何も言われない。


公園で、二人で乾杯した。


春馬は、初めてのアルコールだった。


「田中君…。俺らって青春ないよな。」


と竜がベンチに座って呟いた。


「ああ…。無いね。学校では浮いてるし部活もしてないしね。」


春馬もベンチに座って答えた。


「噂、聞いたよ。」


竜が春馬の顔を見て言った。


春馬は、嫌な予感がした。


「編集者の松本未来に振られたんだって…。」


春馬は、逆に気持ちが軽くなって泣いた。


誰かにハッキリ言われたかったんだと気が付いた。


「ああ…。振られたよ。」


認めたくはなかったが自分より実力がある竜に言われてあっさり認めた。


「田中君、そんな事で小説が書けなくなって悔しくないのかい?」


悔しい?そんな気持ち今まで無かった。


「俺は、君の恋愛小説を読んで感動した。初めて人を心の中で褒めたよ。」


竜は、缶ビールを一本軽く空けて言った。


「俺の、才能はもう弾切れだよ。」


と春馬は投げやりになって答えた。


ここにページを追加ここに章を追加


121ページ


「バカ野郎!田中!目覚めろよ!」


春馬はビックリした。


「ああ…。ごめん。」


と竜が謝った。


「いや、効いたよ。俺、もう一度小説書いてみる。」


「そっか…。」


と呟いて竜は、立ち上がって行ってしまった。


春馬は、未来への気持ちを小説に昇天しようと決めた。


その後、春馬は数々の賞を総なめにする小説を書いた。


竜は、小説家を辞めて春馬の担当編集者になった。


春馬は、本当の天才だった。

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