丘の上の山岸

晴れ時々雨

𓇼𓆡𓆉

進行方向からこちらへ誰か歩いてくる。ペンキの缶を2つぶら下げた若い男。夏の初め、湿気を忘れさせる海風の吹き抜けるバス停の時刻表を塗り替える作業員が、捲り上げたズボンの裾から紐の解けかけた黄色いスニーカーを覗かせている。彼は錆の浮いた看板を塗り上げると地名のところにグリーンで「ゼリーの丘行き」と書いてくすりと笑った。バス通りは海岸線と山裾に沿って走り開けた街へ続く。街は小高くなっていてそこには私が通う病院がある。

ゼリーの丘には水族館があるだろうか。海の中を丸ごと凝らせたような。天候に関わらず鑑賞できて、毎日見ているのにそこに棲んでいることなど気にしたこともないような生き物たちを覗き見させてもらえるような。ロウニンアジとサメの喧嘩が見たい。

地面に2、3滴ペンキの点が落ち、潮風で風化しかけた舗道に生き生きと白い血痕を残す。ディーゼルのエンジン音が陽炎を揺らしながら近づいてエアブレーキを吐く。ステップを上がると、後続にトラックが来て助手席側から顔を出した人が大声で山岸と怒鳴った。

ペンキの彼が笑いながら頭を掻いている。ぺこぺこしているところをみると塗り直しを言い渡されたに違いない。

もう乗ってしまったから、私が向かう先はゼリーの丘だ。早く早く、バス、早く行って。あのトラックに追いつかれないうちに早く。

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丘の上の山岸 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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