4話 囚われの身
「なんでだよ!」
礼はログアウトができないという現実に苛立ちを覚えていた。
礼の叫び声を聞いてサリーが慌てて駆けつけてきた。
「どうしたんですか。大丈夫です?」
「わりい…なんでもない」
慌てて体裁を取り繕うが礼の表情は大丈夫という顔はしていなかった。
サリーは礼の不自然な様子を深く追及することはしなかった。
「お腹空きましたよね?とりあえず夕飯を作りますので…できたらお呼びします」
それだけ言うとおりサリーはそそくさと礼を案内した客間を後にした。
とりあえず落ち着こう。考えられる可能性はバグまたはテレパスに何らかの障害が起きて、
ログアウトの操作ができないかのどちらかだろう。
最悪、DD《デイドリーム》では生命が脅かされるような危険な状態に陥ったら強制ログアウトさせられる筈だから大丈夫だ。
テレパスによる自己メンテで自身のバイタルや身体状況に異常が生じれば、直ぐに知らせが届く仕組みとなっている。
ゲームの世界で暮らしたいと思う者は大勢いるだろう。つい先ほどまでは礼もその1人だった。しかし実際にゲーム内に囚われてみるとそんな楽観的なことを考える余裕などなかった。
「レイさーん。ご飯できましたよ」
居間からサリーの声が聴こえてきた。
今、礼が滞在しているカアル村では藁で複数のドーム状の家を形成しており、ドーム毎に居間、台所、寝室、洗面所、客間など役割を分けている。
礼は建物を観察しつつできる限りの冷静に努めながら居間へとむかった。
取りあえず今はゲームを楽しもう。
ログアウトできない以上、じたばたしても仕方無い。それに現実のサリーが夕飯を作りにくるから異変に気付いて救急車を呼んでくれるだろう。
礼はリア充で良かったと心の底から安堵した。
礼が居間に入ると懐かしい香り充満していた。
居間の囲炉裏の前には器に入ったシチューとレーズンパンが並べられていた。
「うお!うまそう!」
「えへへ、礼さんに褒められると照れるなあ」
サリーは照れくさそうに頬を掻く。
現実のサリーと似ているようで、細かいリアクションは違う。礼は改めて目の前のサリーが
「うまい!」
礼はシチューを頬張りながらDD《デイドリーム》を五感で堪能していた。
DDではテレパスを通じて味を再現している。あくまで舌で味を感じているのでは無く、脳が味覚を再現しているのだ。
礼はどうしようもない現状から目を背けるようにがっついて食事をした。
「レイさん。よっぽどお腹が空いていたのね。そういえばアキくんはどこまで行ってるんだろ」
「まだ戻ってないのか?」
「そうみたい。まあいつも村の外の警備で出払ってるから…お腹が空いたらその内帰ってくるよ」
「村の外でアキと遭遇したのも巡回中だったのか…まてよ…」
「やっぱりだ。DDのβテストではNPCに
「レイさんさっきから外国の言葉が多過ぎて私にはにはちょっと分かんないよ」
「そうだよな。ゴメンゴメン」
目の前のサリーは少なくともプレイヤーではない。…それは間違いないんだが…くそっ!わかんねえ。
「サリー、変なことを訊くんだけど…ログアウトってできる?」
「礼さん、ログアウトって何ですか?私たちはこの村から一度も出たこと無いから外国語は分からないんですって」
サリーがそう答えたと同時に辺りから獣の咆哮と激しい爆音がけたたましく鳴り響く。
礼は慌てて外に飛び出した。すると辺り一体に黒い獣の群れが村人を襲っていた。
カアル村は人口50名ほどの小さな村だ。対して黒い獣は目算で20体は暴れまわっている。
「とりあえず全員のタゲを集めるか!」
“
礼は短刀の“
天夜に閃くカマイタチが散らばる全ての黒い獣目掛け、的確に命中する。
黒い獣にダメージはほとんど無いようだが、礼の狙い通りに
「よし!こっちだ!」
礼は急いで駆け出し村から離れ、暗闇の中だだっ広い草原まで黒い獣の群れを誘導した。
さて…とりあえず村人から遠ざけたが…後はどうする。
その間に黒い獣の群れが礼の周囲にを取り囲む。
「一体ずつ仕留めたいとこだが、いかんせん数が多い…」
礼はどうにか隙を突こうと様子を窺う。
黒い包囲網がじりじりと狭まってくる。
“ハイドアタック×
黒い獣の一体の背後からアキが一刺しで胴体を貫く。
黒い獣は悲痛な叫びを上げながら泥と化した。
「さすがアサシン!文字通り一撃必殺だな」
先刻の黒い獣にヒビを入れたことといい
しかし、アサシンは
「アキ!」
礼は慌ててアキの元へ駆け寄る。アキの刀に黒い獣が食らいつき、そのまま地面へと倒れ込む。
食われまいと抵抗するアキ。襲い掛かっている黒い獣の頭上から礼は風切を振り下ろす。
“
カマイタチを敢えて刃に留め、そのまま斬撃を食らわす。
黒い獣は叫び声をあげ地面に溶ける。
アキはすぐに立ち上がり体勢を整えるが以前劣勢であった。
アップロード 那須儒一 @jyunasu
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