3#風船とママの思い出
・・・・・・
それは、スプリングがまだ当歳馬の子馬の頃だった。
とある育成牧場で子馬のスプライトは母馬のポップと付き添って、献身な愛に育まれていた。
しかし・・・
「やーい!やーい!ビリッケツ!!」
「ビリッケツここまでおいで!!」
他のライバルの子馬より駆けっこが遅いスプライトは、何時も囃し立てられていた。
「ママ、何で私は駆けっこが遅いの?」
「大丈夫よ。そのうちあんたが、いちにんまえになれば、きっとよ!!」
そんな母馬のポップの笑顔に、子馬のスプライトは深く癒されては母馬に甘えていた。
「やーい!やーい!まだ母ちゃんに甘えてんかー!!」
「まだ子馬!まだ子馬!」
既に母馬から離れていたライバルは、そんなスプライトを嘲笑った。
「いいのよ、いいのよ、他は他。あんたはあんたよ。」
そんなスプライトにも、母馬のポップと離れる事になった。
「ママーーー!!ママーーー!!いかないでーーーー!!ひひーーーーん!!ひひーーーーん!!」
母馬のポップは、他の牧場に引き取られる事になった。
どうしても、母馬のポップの血統が欲しいと他の牧場から引き合いが来ていたのだ。
「あなたーーー!!元気でいちにんまえの競走馬になるんだよーーーー!!」
子馬のスプライトは母馬のポップが、連れていかれる馬運車を涙目で見送っていたその時、
ふうわり・・・
今にも雨が降りだしそうな鉛色の空に、黄色い風船が飛んでいるのを子馬のスプライトは見つけた。
「これは・・・」
子馬のスプライトは、母馬のポップに教えて貰った事を思い出した。
「風船・・・これが風船。
ママが競走馬時代に、大レース勝った時に空に飛ばされて綺麗だったとよく話していた風船だ・・・」
その晩、奇跡が起こった。
厩舎の外は降りしきる雨だった。
スプライトは馬房の中で母馬のポップの事を思い出しては、涙を流して寝藁にうずくまっていた。
「ん?」
寝藁の中に、あの時の黄色い風船が紛れ込んでいたのだ。
スプライトはその黄色い風船を見たとたん、母馬のポップの笑顔が見えてきた。
「ママ・・・」
スプライトはそう呟くと、黄色い風船に寄り添って母馬のポップとの夢を見ながらぐっすりと眠りこけた。
黄色い風船はその後、空気が抜けて萎みきっても競走馬の訓練を受けるまで、厩務員がスプライトの馬房に飾っていた。
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