第2話 きっと僕は激昂なのだろう。
いつものように目が覚める。まだ焦点が合わない。そして手はすでにスマホを目の前に運んでいた。
時間が目に入る。
あぁ朝だ。最近は、すっかり生活習慣が改善され、普段だったら寝ている時間も今では、もう活動時間内だ。
僕はベッドの上で背伸びをする。
この筋肉の伸びる感覚、時々聞こえる骨の音がまた心地いい。
そしてどうだ、カーテンを開ければつい最近まで近所で一番根暗な場所を自負していたところが打って変わって健全の青年の部屋に早変わりだ。
体を動かし、身支度をして家を出る。
地面をたどり、着くのは数ヶ月前に面接を受けたコンビニだ。
見た目は大手のよくあるコンビニによく似ているが色の統一などは行われていないためどちらかと言うとスーパーみたいな詰め込んだ感を感じる。
商店街の中のもう少し影がかかればもう誰にも気づかれないようなところにある。迎えにはいつからやっているのか雰囲気のいい喫茶店があり、このコンビニは太刀打ちできているのかと、当初は少し気になったが案外お客さんは来る。
それはコンビニの多種多様な商品によるものだろうか。
そんなことを考えながらコンビニに入る直前喫茶店を見たがガラスの向こうのお客さんと目があった気がした。
「おはようございます」
僕はスタッフルームで軽く店長に挨拶をし、店長の横のロッカーでかんたんな茶色のエプロンを身につける。
暑いので肌色のパーカーの袖をまくる。キッチン横の洗面台で手を洗う。顔を上げ、身だしなみを整える。後ろにしばったロン毛に今日も身が引き締まる。
身が引き締まるというのも失業中、なんとのく伸びた髪を顔さえ見えればいいのでと、そのままに100円ショップで買えるかんたんなヘアゴムで後ろにまとめている。
カウンターに出ると、レジで筋肉おん……もとい「クリーム」さんがいる。彼女は外国人らしく、割に日本語は達者だ。最近は彼女が日本に来た海外のスパイだと睨んでいる。
……なぜコンビニで働いているのかはいらないけれど。
「クリームさんおはようございます」
「だから!うちはタバコ売ってないの!」
「うぇ~売ってないの? ウッ、なんで~?」
クリームさんが何やらお客さんにかまっていて挨拶をしてくれない。僕はクリームさんの前に視線を向ける。カウンターの先には酔っ払いの男の人がいた。
「だから、HHHU星人には牛乳はだめだと言ったのに……」
クリームさんは額に手を当て呆れた様子だ。
……達者とは言ったがいくつか誤解している日本語があるのだろう。
僕は誤解している日本語がなにか気になったが他のお客さんを相手している間にそんなことは忘れてしまった。
昼下がりになるといつもの様に商品が搬入されてくる。僕はトレーに入った商品を並べていく。入っているのは基本的にパン類だ。お弁当やおにぎりと言ったものはコンビニのキッチンで作っているらしい。僕は作っているところを一度も見たことがない。
するといくつもあるトレーの中に中身のわからないダンボールが入っていた。
なにか新商品かと思った僕は、ダンボールのガムテープを掴む。
「いった、いった、った!」
なんだこのガムテープなかなか外れない。僕は、ダンボールを押すようにして力を入れる。
「だ、だから!イッテーつのバカ!」
何だ?なにか声が聞こえる気がする。きっと何かの間違えだろう。僕はダンボールを踏みつけながら体を反るようにガムテープを引っ張る。なんだか伸びがいいな、まぁガムって名前につくほどだし、今どきのガムテープはこんなものなのだろう。
「なぁ、もうわざとやってるよね?痛いって言ってるいよね、なんか髪が伸びちゃってるよね」
やめろっつ―の。と聞こえたところで僕の手からガムテープが離れ僕は床に尻もちをついた。
「なにごとだ!」
クリームさんが棚の裏から顔を出す。
「いや、なんかこのダンボール変ですよ!」
僕がダンボールを指差すとダンボールから手足が生える。というよりか突き破って出ているが合っているだろうか。
ダンボールは少し伸びたガムテープを大事そうになでながら僕の方に近づいてくる。
「なぁ、いたいって聞こえなかったのか? せっかくきれいにギザギザに切ってもらった俺の髪がこんなヘナヘナに……」
「あ、ああ、何だこいつ」
僕の体は凍えるように震えている。それは無理もない。今までただの箱だと思っていたものがいきなり動き出して今まさに喋っているのだから。
僕はクリームさんの顔を見る。きっと彼女も怖がっているだろう。いくら筋肉があるとはいえ未知の存在には手も足も……あれ? なんか怒ってる? 顔の血管が浮き出てますけど。なんか鬼瓦みたいになってますけど。それに、あれ? なにか手に……
「お前、何星人だ!」
クリームは僕に向かって怒鳴っている四角い生物に、どこから取り出してきたのかわからないM4を向ける。
ここは、コンビニなのだろうか? それとも戦場だろうか、僕はもうこの怒ったダンボールよりあなたの手に持っているものが気になります。
「バレたら仕方ない。俺様はなんと!スパイだぜ」
「よし、ならば消す」
そんな僕の気持ちは置いてきぼりに話は進んでいる。
「ま、まぁ待てよ、な? 俺様がどこから来たとか……」
ん?ダンボールになにか穴が空いている。なんか向こう側に黒い長物を持った女の人がいるんですが……
もしかして、撃ったんですか? クリームさん。
「い、いてーじゃぁね―か!俺がどこから来たか聞いたらきっと驚くぞ?」
そして撃たれて生きてるんですね。ダンボールさん。
僕はもはや何にツッコミを入れればいいかわからなくなったのでひとまずダンボールに聞いた。
「ちなみにどこから来たんですか?」
「ふ、よくぞ聞いた。俺様はローそ……」
なーんだ、目があるじゃないか。目があれば意外と……ん?目をよく見ると向こう側にやはり煙を吐いた長物が見える。
「な、なんで撃つんだよ!!」
「いや、なにか良からぬ気がしてな。会社名的な、権利とかそんな感じの」
僕はツッコミを入れるべきだと思ったがそこは深く突っ込まないほうがいいと判断してやめた。
「だがな、今回の仕事がうまく行かないと、俺様、解雇なのよ」
「何だ、急に」
ダンボールの意味ありそうな発言にクリームが反応する。
「なぁ聞いたんだよここ、そうゆうのに優しいって、俺様も救ってくれよ、な?」
先程から変な感じはしていた。いきなりスパイだと明かしたり、やけに自分の情報を晒そうとしていた。それは彼がなにかそうしなければならない必要があったからかもしれない。僕はほんの少しダンボールの言うことを聞いてみてもいいのかもしれないと思った。
ダンボールの後ろ姿、多分後ろ姿を見て、少し悲しげな影を感じた。
しかも何か背中から聞こえる気がする。銃痕のあたりだ。きっと悲しみの声が背中から僕につたわって……ん?
僕はダンボールの背中に耳を澄ます。感情がとか悲しい背中とかそんなものではない。本当に、物理的に声が聞こえた。
……コイツラチョロイゼ
「クリームさんこいつ嘘ついてますよ」
この野郎。僕の良心に付け入っていいように情報を奪おうとしたのではないのか?
僕の声にクリームは一度外した狙いをもう一度つける。
「な、なんでそんな事言うんだよ、お、俺様が嘘付いてるって言うのか?!」
……と、言って入るが背中の穴から漏れる声は、
「コイツラ、ドウシテ?!ハッタリカ?」
「こいつ、黒ですよ」
僕はこんなものに気持ちを割こうとしていたのか? 自分に呆れたのも相まって僕の目は漆黒そのものになっていた。僕は地についた腰をヒョイと上げると、ダンボールを両手で押しつぶすように持った。
「僕、廃棄出してきますね!」
「あ、あぁ頼む」
「うぃ、ちゅっとまちぇよ!(おい、ちょっと待てよ!)」
僕に両端からギュッと押されたダンボールはさながら口がすぼまったような口調になった。一応口らしきものがあるのだろうか。
あーあもうこいつに脳の使用率を割きたくない。
僕はロボットのように無心でコンビニの裏にある廃棄置き場に投げ込んだ。
「チッ、二度と来んな」
呆れの先にある怒りそれが僕のダンボールを見る目だった。
「二度とこね~よ」
僕は、その声を耳に入れるとその場をさろうと振り向く。
「ツ、ツギハゼッタ……」
今なにか聞こえたような気がしたが予想が当たるのも嫌だし、もうそんなこと考えるのすら気だるい。
「あ、品出し終わってないじゃん」
僕はコンビニ表に向かって走っていく。そのときにまだダンボールがいたかわわからない。
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