新人従業員
第1話 きっと僕は杞憂なのだろう。
僕は面接に向かっていた。向かっている? きっと向かってるはず。
「どこなんだコンビニ、もお~MAP的にはここで合ってるんだけどな~」
祖父が連絡してあることもあって引き返すわけにも行かない。こんなに暑いのにコンビニのバイト面接なんかで10分前に行こうとした僕の失敗だろうか?こんなに見つからないならもっと時間の余裕も作ったし、何よりMAPでしっかり確認したのに。
7月にしてすでに猛暑というやつに睨みつけられている。
「なんだぁ~地球になにかされたんか?」
太陽に向かって僕は手をかざした。
自慢のエセ関西弁もこの暑さには通用しない。僕は、わざわざ面接のために着てきたパーカーを恨んだ。長袖のほうが印象いいかなと思ったんだけどな。
僕がスマホを起こしたときにはすでに面接まで1分を切っていた。
いっそのこと交番にでも聞いて来ようか? なんか地元の交番で場所聞くなんて恥ずかしいな。
僕がふと諦め顔を起こすと、目の前にあんなに探したコンビニが満を持して顕れた。
なんで今なんだよ! と、僕は思ったが時間もなかったので急いで中に入っていった。
中は流石に涼しい、それにしても、コンビニなんて聞いたから大手企業を想像したんだけど、この時代にまさかの個人経営……
僕は近くの戸を叩いてドアノブをひねる。
「すいません、今日面接を受けさせていただけるということで伺いました。佐藤です」
「店長!今日新人来るって言ってたじゃ……」
佐藤に衝撃が走った。何だ、あのボディービルダーみたいな、某狩りゲーやなんかだったら絶対に両手剣一択な感じの女の人は。
「ほら、来たよ、」
一方、その話をしている白髪の男の人は店長だろうか。
僕は店長の容姿をみて、ひとまず自分が間違えてジムに入った可能性を消した。
「いや、すまない、ついつい忘れてたよ」
「いや、自分も恥ずかしながら道に迷って……」
こんな状況の後頭部はなんともさすりやすい。
「迷わなかったら逆にすごいわ!」
「悪かったよ~でもまぁ時間にはどうにか間に合ったし、いいじゃないか」
店長も大変なのだろう。筋肉女の発言も気にはなるが、今はニコニコしていればいい。
さぁ、と指された椅子に一礼をして腰掛ける。
入り口とは違うカウンターのドアに向かう歴戦ハンターに、僕は一礼をした。
なんとも無愛想な顔で返されたことに今後の不安を感じるが。
「じゃあ、佐藤くんだね、諸星くんから話は聞いたよ、軽い面接をするけど、まぁそんなに気構えないで」
コンビニの店長とつながっているってどんな祖父だったのだろうか、ただの患者さんというわけでもないだろうし……
面接はなんともあっさり終わった。店長は、履歴書を机に置くと明日からのシフトの話をし始めた。もともと入れる予定だったのかすぐに決まった。
シフトを了解し礼をして立ち上がる。
僕が出る前に挨拶しようとした時、僕の目には二人の店長が写った。
「え、あ」
筋肉女がスタッフルームの後ろから首根っこを掴まれた店長とともに顔を出す。
もちろん、信じがたいが、首根っこを掴まれていな店長もいる。
「い、や~いってなかったけ僕、双子なんだ」
店長はなにか気まずそうな顔をしているがそれは、この兄弟の顔が一卵性双生児だとしても似すぎているからだろうか。
「双子って、ははは、じゃぁお願いしますよ、店長2」
筋肉女、流石に言い過ぎでは、と思ったがこれがこのコンビニの空気感ならさぞフラットなのだろう。しかし怖いから初出勤まで挨拶できそうにない。
僕は無言で一礼をしてコンビニを出た。
すれ違う黒スーツがめちゃくちゃ見てくる気がするけどきっと気のせいだろう。
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