2章 6.破壊音

「おいおい、なんだよ!!」


 破壊音がひたすら鳴り響く。外は破壊によって生まれた土煙と粉砕された地面しか見えない。一旦離れようとアンカたちに言って店の奥へと走り出した。


「とりあえず状況確認が先だ!もし襲撃だったらすぐ戦闘になるかもしれない。さすがに態勢を整えてから行ったほうが絶対良い!」


「分かりました!」「了解だ、リーダー!」


 アンカとガルに指示をして俺は必死に走るクイを見る。サイズの合わない騎士服を着ているせいで上手く走れていない。


「よいしょっと」


「ふぇ!?」


「変な声出すなって!遅いから担いでやってるだけだろ!」


 お姫様抱っこと迷ったが肩に担ぐ形にしている。クイは勘違いをして顔を赤くしているが放って懸命に走って行く。


「ロクさん!後ろから!」


「何が来んの!?」


 アンカに言われ後ろを向くと土煙とともに衝撃波が押し寄せてきていた。津波が押し寄せてくるかのようにくる衝撃波は前、周りにある物を全て粉砕していくほどの威力。だんだん息が荒くなっていき肺が苦しんでいく。


「もう……キツイって……ってマズい……」


「ロクさん!この窓から!」


 手を伸ばすアンカだが俺には届かない。根性で飛んでもクイが届くかどうか……待てよ。クイさえ届けば飛行魔法で、いや、2人とも飛行魔法で窓から出れば。よし、これで行こう。

 足元に魔法陣を描き、飛行魔法を使った。徐々に体が軽くなり空中に浮きあがる。


「アンカ!まずこいつからっ!」


「きゃー!!」


 クイを窓に向けて投げ、再度振り返り衝撃波を見る。


「そんじゃ、いっちょやってみますか~」


 クイを投げる前までは窓から出て衝撃波を避けようと考えていた。だが今は違う。この衝撃波は何かに受け止められるかかき消される以外止まることを知らない。だとしたらクイやアンカにガルに身の危険が生じてしまう。


「ヒーローらしく行こぜ作戦だ」


「ロー君~?作戦とか言って何もないでしょ」


 脳に響く声―――レイルに図星を指され反論の言葉が出ない。そんな俺にため息をつき話を切り出す。


「ま~ロー君らしいかも。契約精霊として頑張るよ~?」


 手を伸ばしやる気満々のレイルが脳裏に浮かび俺も同じようにしていた。途端近頃何回も浮かぶ疑問が今回も浮かび上がる。

 レイル……さっき『契約』精霊って言ってたよな。


「そうだよ?」


 俺の問いかけに平然と答える時の精霊。その答えを聞いたのがキーとなりニヒルに言われたことを今頃脳は理解した。前に「精霊使いでありながら君は精霊使いの能力を使わないとは不思議だね」と言われた。最初はレイルがいるから精霊使いだと相手が勘違いしているのかと思っていた。だが今違うことがはっきりとしている。勝手に契約されているが精霊と契約のつながりがあることを認識してニヒルは俺のことを『精霊使い』だ、と言ったんだ。


「………最初に言ってほしかったんだけど?」


「ごめんごめん!それより前見て!死んじゃうよ!」


 目の前まで押し寄せてきている衝撃波に驚くが動いていないことに気づく。


「ほんとに~。私がいなかったらロー君はお墓の中だよ?契約者のロー君を守る時の精霊として衝撃波を止めるのは当然のこと……なの…」


「どうした?何かあったのか?」


「いや……気のせいだと良いんだけど……衝撃波が動いてるような気がするんだよね……」


 不安そうに言うレイル。こいつが不安になると俺は数百倍不安になってしまう。

 恐る恐る再度、視線を衝撃波に向けた。


「―――?これ、動いてるってよりは……歪んでるように見えるんだが……」


「確かに……ロー君、まさか何かすごい力に目覚めちゃった?こう、空間を見ただけで歪ませるとか」


「そんな能力あったら最強だし自分自身が能力開花に気づくはずだろ!全くそんな感覚ねぇし」


「そっか……でも結果オーライ!ロー君、今のうちに!」


 声に背中を押され「おう」と返事をして、アンカたちのいる場所に向かった。窓から店の外に飛び出し、周りを見渡す。見る限りどこにもいない。おいて行かれた感じらしい。


「あ~神様。助かりました~!って言ってヒロインが抱きしめてくるイベントであってほしかった。神様、もう少し俺に優しく……」


 届かぬ願いを神に伝え、気を引き締める。状況確認と戦闘準備のため、店の屋上へ向かうことにした。外にある鉄の螺旋階段を駆け上っていく。汗だくで走る俺を誰がどう見てもかっこいいと思う、はず。そうであってほしいな~。


「ロー君かっこいい~!クスクス……」


「笑ってるの聞こえてますが~」


「ごめんごめん!でも、汗だくで外見が良かったら本当にかっこいいと思うけど~ファッションがね~最悪なの!女の子はファッションなどの外見命ってところも―――」


 長々と女子を語るレイルに何度目か分からないため息を一つ。ため息を無視するかのように語り続けていたが、そんなレイルを無視して必死に階段を上った。

 鉄の音と足音が静寂の空間に響く。俺の脳内ではレイルの声もあってかなり騒がしいが。


「―――ロー君!聞いてるの!?こっちは真面目な話をしてるのにぃ~」


「はいはい。こっちは忙しいんだよ」


「むぅ~」


 レイルのことを気にしていたら日が暮れそうだと感じ、無視することを継続する。もう何段か上ると屋上に着く。階段の終わりが見えてきた俺は足を急がせ上る。


「はい着いた~そして疲れた~」


「大げさじゃない?ロー君。50段しかない螺旋階段で疲れたって……まさか……」


「そう、そのまさか」


 そう口にすると血管がブチッと切れた音が頭の中で響いた。途端、レイルが大きく息を吸って叫ぶ。叫び声が脳に響いたと同時に鼓膜や脳が危険信号を意識に訴え始めた。ただうるさくて死にそうなだけじゃない―――


「う……嘘だろ……」


 視界に入った光景。さっきまであった都市がない。店以外、家、道、人、門、あらゆるものが視界から無くなっていた。

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