2章 5.幼女

「剣聖騎士?そんな仮装があるの?その騎士服ぶかぶかだし、クイ、家に帰って服着替えておいで。な?」


 見た感じ歳は9歳、10歳に見える。もう少し背が伸びていたりしたら凛とした少女だっただろうなと感じた。不満げに頬を膨らませる少女を見ながらも扉を開けようとするが俺の服を掴んで足を止めさせた。


「クイをちっちゃい子扱いしてぇ~!クイはもう19歳だよぉ!」


「―――?」


 予想外のことを言われ再度彼女の姿を見ていく。どちらかと言うと能天気な顔で丸い目。薄い胸を張って見せる背の低い彼女。笑ったらつられて笑ってしまうほどまた違った可愛さの子のどこをどう見たら19歳なのだろうか。

 何回か目をこすり見ても変わらない彼女に疑いの目を向ける。すると少女―――クイは俺を睨みつけながらこちらに指を差した。


「ほんとに失礼っ!クイはすごいの。ばっさばっさと斬る可憐な美女って言われてきたんだもん!すごいでしょ~!」


「ばっさばっさって……そんな設定までつけて仮装するなんてスゲーな。はいはい、もうおうちに帰ってね」


「だ・か・ら!クイはちっちゃい子じゃないのぉ!賢者からお願いって…言われたから……ここに来てあげたのにぃ~……!」


 そう言いながらチラチラとスイーツ店の中を見るクイを見て俺は吐息をつく。

 多少本当かもしれないが嘘も混じっているな。こんなスイーツ店でよだれを垂らしながらいるなんて食べたいとしか言ってないだろ。仕方ない。


「詳しいことは中で聞くから、入るぞ。仲間も待ってるし」


「――え!?だったらクイにスイーツ食べさせてくれる!?」


 目を輝かせながら問いかける幼女を見て頷く。そしてウキウキのクイとこの幼女の対応にへとへとな俺はゆっくりスイーツ店に入った。

 中には女子多し。壁紙ピンクとなかなか可愛い店。こんな場所に男子が入るのは少し抵抗してしまう。友達がいたら最悪で気まずい雰囲気になること確定のような場所だった。


「まあ、ガルがいるんだが……」


 例外のガルを見て安心感を抱きながら歩いて、アンカとガルのところに近づく。アンカと目が合った俺は苦笑しながらアンカたちの隣の席に座った。


「………ちょっと遅いかな~と思っていましたけど、この子の相手をしてあげてたんですね。この子は…お姉ちゃんの騎士服を着させてもらっていたけど友達に見せるために逃げ出した……って状況ですかね……」


「さすがアンカ!素晴らしい考察!そうなんだよ~」


「違うよ!?クイは剣聖騎士!これが普通の服なのぉ!」


「このぉりょりっ子はのにいってぉんだぁぉ?」


「スイーツを口いっぱい入れて話すなよガル!お前のほうが子供だぞ!?」


 満面の笑みを浮かばせながら「わりぃわりぃ」と謝り口についたクリームを取る。アンカもクリームが口についていたがすぐ気づいて顔を赤らめながら拭き取り話を再開させた。


「本当にこの子は剣聖騎士なんですか?」


「俺も知らねぇんだよな~。ただ店の前でよだれを垂らしながらいたのを見つけただけだし」


 剣聖騎士の特徴とかはエンザエムから聞いている。その特徴はまず不死鳥、フェニックスと勝手に名付けたがその模様が鞘とローブに描かれているということ。見た感じ赤い鳥のローブをしているようだが絶対に不死鳥だと確信まで持てない。それに鞘は騎士服のなかにある。どう持って移動していたのか分からないが今は真実を聞かないといけない。


「もう一回確認する。本当にクイは剣聖騎士で良いんだな?」


 気を引き締めクイに問いかける。するとクイも息を呑み幼女に似合わない真剣な表情を浮かばせ小さく頷いた。


「―――そうか。本当にそうならややこしいな」


 クイから聞いたのは19歳であることとばっさばっさ斬る可憐な美女、だ。なぜ可憐なのにばっさばっさ斬るようなことをしているのかは知らない。まあこれは置いておいてほぼ確定のこと、剣聖騎士。エンザエムはユークラリアにいる『剣聖騎士』に、と言っていたから他にいないかぎりこいつに教えてもらうことになる。クイもエンザエムから言われたようだしな。こいつらが食べ終わったら教えてもらうことにしよう。


「お待たせしました!特盛パフェ2つです!」


 とりあえずの結論を出した時、店員の人がそう言って皿の上に乗っている顔一つ分の大きさのパフェをテーブルに置く。


「あ、ありがとうございま―――?おい、ちょっと待て、誰が頼んだ」


 頼んだ覚えのないパフェを見て声を低くして言う。するとクイは肩をビクッとさせた。


「ク、クイは何も……頼んでないよ!?おじいが頼んだの!」


「おじい?」


「うん、おじい!ほら、髪の色がおじいだもん」


 視線が上の空のクイは指を差す。その指の方向にいるのはガルだった。

 うん、こいつはじいさん扱いにしといてあげよう。クイは一応19歳だがそんな年になってもなんだもん、やおじいを使う精神年齢が幼女ほどだし。見ていてほっこりする。ガルとクイは喧嘩中だが。

 心温まる光景を温かい目で眺めていたが突然、脳に響きわたる鈴の声音がした。


「ロー君!」


 はい何でしょう。


「修行しないと!あれ、本当に剣聖騎士だしむっちゃ強いよ!?」


 え、マジで?


「そうなの!だから早く!」


 謎に焦らせる鈴の声音―――レイルだが確かにそうだと痛感する。エンザエムとの話にあった賢者のことや―――


「きゃー!」


 説明中だから静かにして!?とツッコミを入れる、がそんな状況じゃなかった。突然聞こえた悲鳴の方向を向くと店の外で破壊音と砕けていく地面が視界に飛び込んだ。

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