2章 4.『ユークラリア』

 ユークラリアへ向かっている途中、俺たちは昔の話に盛り上がっていた。


「―――でアンカ泣いたの!?マジか!」


「もう、からかわないでくださいっ……!」


「すまねぇ、面白すぎるぜ」


「ガルさんまで―――!」


 紅色に染まった頬を膨らませプイッと横を向く。俺とガルは笑いながら謝るがアンカは「知りません!」と言い頬を膨らませるまま。この顔をずっと眺めていたかったが意外と早くユークラリアにある門が見えてきた。


「ここから東って言ってたから1日はかかると思ってたんだけど……」


「意外と早く着きましたよね……結構楽しかったんですけどこれで終わりですね。いや、私は終わりでよかったですよ!あんな恥ずかしい思いをして、笑われて、本当に2人とも!もう二度としないでくださいね!」


「ごめん!二度としない……やっぱやるかも……」


 俺はあごに手を当て唇を結ぶ。

 この怒った顔を見るにはからかう必要性がある、ということは二度とやらないと誓う場合二度とこの可愛い表情を見ることは不可能。ダメだ、誓うのはダメだ。


「ロクさん?やっぱやるかもとは……?」


 張り切った顔で前を向くと握り拳を見せ闇がありそうな笑みを浮かばせながら俺を見つめているアンカが瞳に映された。と同時に死が確定してしまったという悲しさが溢れる。


「さようなら。もう少し優しくしてくださると助かります、神様」


 今は叶わぬ願いを目を瞑り願う。それは儚い願い事。しっかり俺はアンカの拳の一撃を顔面に食らい、ユークラリアの門まで治癒魔法に専念した。



「着きました、綺麗な都市、ユークラリア!」


「スゲー綺麗だな」


 アンカとガルは目を輝かせユークラリアの光景を見ている。

 とにかく綺麗な都市と言われているだけあってごみはまず1つも落ちていない。道路、店、家に汚れが1つもなく透き通るような色のものばかり。川など前の世界とは次元が違い、透き通りすぎる水が綺麗に照らす太陽の光を反射して水は神々しい。川の底にある石なども磨かれているのかと思えるほど綺麗で丸かった。


「いや、これ本当に存在する都市なのか!?幻想か何かなんじゃねぇの!?」


 驚きのあまり声を張り上げ叫ぶ。賢者の楽園も相当美しい光景だったがダントツナンバーワン。


「ロクさん!魔法車じゃない何かがありますよ!」


 俺と同じくはしゃいでいるアンカが指を差す。その指先の方向にあったのは鋼の鎧を着せた馬と後ろにある乗る場所―――馬車だった。


「馬車か!アニメとかテレビでしか見たことなかったけどこんな感じなんだな!」


「知っているんですか?」


 アンカは不思議そうに問う。


「あー知ってるかって言われたら微妙。この馬に鎧みたいなの着せる馬車はあんまり見たことないし、そもそも馬車って言うかどうかわかんねぇな~」


 一応ここは異世界。常識と違う場合があったりするため知っている感だして間違っていると恥ずかしい思いをしてしまう可能性あり。馬鹿な姿をアンカに見せたくないという気持ちから一旦言わず都市内を歩く。


「綺麗だな……」


「はい」「だな」


「汚れ1つねぇな~……」


「はい…」「そう…だな」


「おかしくねぇか……?」


「はい……」「そうだな……」


 いくらなんでも不可解な部分が多すぎる。いくら歩いて家、川、道路を見てもほこりが1つもないように感じた。それに俺たちや他の冒険者、都市の住民が歩いた後の場所が汚れていない。住民は丁寧に靴を洗って出ていて汚れがついていないかもしれないが俺たちや他の冒険者が歩いた場所に汚れがついていないわけない。


「門で魔法を使われ綺麗にされたんでしょうか……」


「可能性は低くないな……」


 ユークラリアに入る前の門に門番的な人はいた。魔法陣は見えなかったがそういう設定にできるのかもしれないし。まあ、でも自分たちに悪影響が出るわけでもない。


「別に俺たちが綺麗になったところでって感じだろ?早く行こうぜリーダー、アンカ!」


 俺たちが悩んでいる時何より興奮していたガルは晴れやかな表情で向こうから言っている。ガルを追いかけるように俺たちも走って行く。


「ガル!どこ行くんだよ!」


「そうですよ!」


「あ?そりゃあ、まず美味そうなもん探すに決まってんだろ。パフェとかチョコとかケーキとかな!こんな綺麗な場所ならぜってぇ美味いもんばっかだぜ!?」


 当然のことかのように言うガルに俺とアンカは唖然とした。まだ肉料理が多いならわかる。でも今言ったのはパフェ、チョコ、ケーキの甘いものだけ。まさかのここでもギャップというものがあるのか……。これは診断したほうがいいな。


「ガル!」


「あ?なんだ、リーダー」


 ガルは振り返り再度晴れやかな表情を見せる。そんなガルに俺は人差し指を上げて見せた。


「1つ質問だ!俺が言った色から思い浮かぶ食べ物を言えよ?」


「……おいおい、どんな質問だってんだ?ま、いいけどよ」


 これでスイーツが出てきたり甘い食べ物が出てきたら重症ということにしよう。うん、それがいい。


「緑!」


「マカロンだなっ!」


「即答!?」


 あえて緑色という甘いものが思いつきそうにない色を言った、が思いつきそうにないというのはあくまで俺やアンカでありこいつには皆無。2人とも目を見開き驚きを隠せれない。甘いもので思いつきそうにないものなどないと言わんばかりにドヤ顔を見せつけてくるガルは謎にたくましく、勇敢だった。


「降参……です。近くにスイーツ店があるか探しましょう…」


「っしゃー!行くぜ!」


「―――」


 さすが亜人。何も言葉が出てこない。元気に走る姿を少しボーっと見つめ、近くにあったスイーツ店に2人が入っていくのが見えた俺は走って2人の入る店に向かう。


「金がぁ………ガルのせいで一気になくなる……絶対……」


 哀れをとどめぬ姿が脳裏に浮かびながらも走り扉の前まで来た。中に早く入ろうとドアノブに手をかけようとした時、隣に息を荒くしよだれを垂らした気持ちの悪い幼女が視界に飛び込んできた。


「うぇ!?なんだお前!」


 オレンジ色の結い上げられた髪で白く透き通る綺麗な肌。そして赤い鳥が描かれたローブのある白い騎士服……ただサイズが全く合っていない。


「誰、お前……見た感じ騎士……いや、騎士の格好して遊ぶ不思議な子供か……?」


 そう問いかけるとよだれを拭いて答えた。


「クイのこと?私、クイ!剣聖騎士!」


 彼女の名前と剣聖騎士と聞いた途端、脳内で「こいつが俺たちに教えてもらう人だ…」と実感し同時に疑った。

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