2章 3.トーク2

 *


 はい、今の状況やばいですね。3回目のビンタを食らい俺はボロボロですよ。本当にこのことを日本人全員に報告したいですね~。

 心の中で会見を行い、俯きに倒れている俺は目線を上にあげる。動きやすい服装のアンカだがローブの中は見えずらいが一応スカート。下から見たらスカートがあると認識でき俺は下にいる。……あれが…見えてしまいそうなのだ。


「ちょ……あのその場所に立ってると俺、殺される運命しか見えないんだけど……」


「ロクさん、何を―――!ロクさんっ!」


「やめてぇぇえええええええ!!!痛ったぁああああああああああああ!!!」


 俺の言いたいことに気づき顔を真っ赤に染める。途端足が俺の腹に入ってきた。異世界に来てなぜか多くされている蹴りをまたされて壁に叩きつけられる。脳や心臓は蹴りには慣れているのかせき込むだけでめまいなどなく痛みだけが俺を襲った。


「本当にロクさんわぁ……」


「マジで俺はぁああああああああ!」


 壁に引っ付いていた体がまたもや離れ床にダイブ。今度は受け身をうまくとりすぐに起き上がった。


「本当に…こう、ラッキーなんちゃらみたいな?これは不本意でっ!」


「―――」


「それで俺は……」


「ジー―――」


「えーっと……」


「ジー―――」


「アンカ……さん?」


「ジー―――」


 これは謝ったほうが良いのか、それともまだ続けるべきか…。ほぼ睨みつけているようなもんだけどそんな顔も可愛い。ただ話を再開してエンザエムからいろいろと聞かないといけない。悲しいが謝って話を再開させよう。


「ふむ!それでよろしいのですっ!」


「きゃわわじゃん!」


 腰に手を当てドヤ顔のアンカ。これはときめくラブコメ要素を取り入れるべきでは―――あ、ダメだダメだ。話を再開させなくては。

 いつまでも見たかったアンカだったが首を激しく横に振り気持ちを切り替える。


「それじゃああの答えを……」


「…はい。もうアンカさんとガルさんには言ったんですけど、私はここから東にあるユークラリアという国にいる騎士に頼むべきだと思います」


「騎士か……」


 チート騎士の性格があれだったせいで騎士のイメージは最悪。ただあいつはイカれてる正義感に従っていただけなのもある。偏見だと信じよう。

 少し躊躇(ためら)いはあったがエンザエムの意見に賛成した。アンカやガルも同じく。


「…私は賢者の楽園と呼ばれている場所を見てきます。少し時間がかかりますが終わったら同じようにユークラリアに向かいますので…」


「了解。ちょっと話したいことがあったけどまた今度ってところか」


 昔何があったのか、や幼少期の時の苦痛について聞きたかったが用事があるならしょうがない。それに賢者の楽園では1度死んでいる。なんで死んだかは分からないが検証をしたいとは思えない。賢者のエンザエムに任せておけば相当なことがない限り大丈夫だ。


「ま、無理はするなよ?まだあのチート騎士が死んだわけでもないしまた来る可能だってある。逃げる時はすぐに逃げろ」


「…分かってます。まだ能力の改善を行っていないですし…魔法の制御もうまくできていないので戦おうとは思えませんし……」


「能力の改善ってのが気になるけど…気をつけてな」


 そう言うとエンザエムは小さく頷く。

 この後どのくらい時間がかかるのか、その教えてもらう騎士はどういう人なのかの確認が終わり装備品などの準備をみんな始めた。俺は特に準備することはないため一人で考えている。

 俺の能力はない。ただ加護はたくさんあって、その加護に苦しまれることもある。逆に役に立つ加護もあった。無魔(むま)の加護は相手も自分も魔力を無くせる、が俺の魔力はすぐに回復可。忘れかけていた投飛石(とうとせき)の加護。水操(すいそう)の加護も役に立つ。


「ニヒルは……」


「だからロー君?話し相手まだいるけど~?」


 考え込む中、頭の中で鈴のような声音で割り込んできた。この声はレイル。完全に忘れていた俺はあ、と声を出す。


「ロー君……現実で会ったら蹴りまくってあげるからねっ!」


 蹴られると聞こえた途端蹴られた部分を触る。さすがにあの痛みと吹き飛ばされた後の衝撃の痛みは味わいたくない、と脳が訴えまくっている。

 やめてくれよ……ほんとに。ま、話し相手になってくれるのは嬉しいよ。


「も~やめてよ~。でもりょうか~い!ニヒルってあの騎士だよね!あの騎士の能力、教えてなかったから教えましょう!」


 耳がキンキンするって……で、あのチート騎士の能力は?


「は~い!能力の前にまず加護が3つあって、1つ目は『斬鮫(きさめ)の加護』。これはあらゆるものを斬ることができる、っていう加護。2つ目は『抗堅魔(こうけんま)の加護』。これは相手の使う魔法を瞬時に理解して1度堅い守りで防げるってやつ!で最後、3つ目は『非抵抗(ひていこう)の加護』でこれがかなり厄介!空気抵抗、重力による重圧等を無効化させれるっていう加護!」


 ちょ、待てよ!?チートじゃね!?空気抵抗とか無くしたら異常なスピードを出せるって意味だぞ。何か物を投げた時、それに空気抵抗が存在しなければその物に加わる逆の力がないということになる。水を魔法陣から空気抵抗なしで飛ばしたら……たぶん音速超える……おいマジでやばい相手だったじゃねぇか!


「確かにそう!でもロー君、私がいたおかげで助かったってわけ!反魔法の応用で相手の魔法が空気抵抗なしだったとしても、私が反魔法で空気抵抗に近いものをつくる!ほら!」


 ほら!じゃねぇけど……確かに助かったな。……今思ったけど剣の場合はどうなんだ?もし剣を振る時の空気抵抗が無かったら俺の剣が斬れてないことがおかしくなるだろ?

 剣どころか下手したら空間斬ってると思うんだけど。


「うーん。たぶん制限とか何かできなかった理由があるのかも。例えば特別な剣だからできなかった、ロー君の持つ他の加護が守ったとか、相手の加護を無効化させたとか。まだ調べないと分かんない!」


 頭を抱えるレイルの姿が見えた。俺もいろいろとやばい敵だったことに驚きが隠せれていない。しばらく沈黙が続いていたが準備が終わったアンカたちがその空気を壊す。


「ロクさん、どうしました?考え事をしていたようにも見えましたが……」


「いや、何でもない。また後で話すことになると思うけど……それにしても……どうした…アンカ」


 いつもよりアンカの可愛さが増している。特に変わったところはないと思うんだけど、と呟きながらアンカの変わったところを探した。少し見ていると俺は髪にある物に目が止まった。


「あ、髪飾りか!」


「正解です!ロクさん!これは私が冒険者として冒険する前にお母さんに作って私にくれた髪飾りなんです!」


 アンカは自分の髪にある髪飾りを指差す。かなり小さい髪飾りで形は青い花だ。赤に青と目立つはずなのに気づかなかった俺を責める。


「くっそ……俺はなんてことを……好感度爆下がり……」


「だ、大丈夫ですか、ロクさん……」


 心配そうに言うアンカに「大丈夫」と言い話を進めた。

 そして俺とアンカ、ガルはユークラリア、エンザエムは賢者の楽園に行って後で再会ということで話がまとまり魔法車に乗り込みエンザエムと別れユークラリアへ向かった。

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