2章 2.災厄の存在

「もう1人の災厄の存在。これも神話の話ですけど、災厄の存在として『怪物』と呼ばれている人がいるんです」


「怪物?」


「はい。怪物と呼ばれるほどの力を持つ者です。怪物は女性ですが姿を知る者はいません」


 知るものがいない。姿が見えないということなのか。だとすれば……。


「その怪物が声をかけた人を必ず殺すということが言い伝えられてはいるんですが……」


 待て……待てよ。もし怪物が…もし!もしあの怪物があの見えなかった人だとしたら……やばい、やばいぞ俺…。


「どうしたんですか?私、変なことを言いました?」


 下を向いている俺に覗き込むように見るアンカ。俺はとりあえず会っていない、あいつは違うと結論づけて苦笑いしながら首を横に振った。怪しむ目をしていたがまあ大丈夫だろう。


「ロクさんには後で問いただすとして、怪物のことですがあらゆるものが『間違い』だと言われているんですよ」


「―――?」


「おかしいですよね。またもや商人登場なんですが商人ですら『正しい情報だけど間違ってるんだ』と言うんですよ」


 商人が正しいけど間違った情報って言うってザ矛盾だな。これから推測すると怪物は矛盾を作り出す者とか元々のもの、考え方などを『間違い』にすることができる、か。


「この『世界』は魔王、怪物をそれぞれ災厄の存在として恐れられているってわけですよ。魔王を知らない者などいなく、怪物は矛盾だらけで謎だからこそ知らない者はいないという感じですね。これは神話じゃなくて実際この『世界』で恐れられている存在、最恐災厄の存在ですね」


 これだけは事実。魔王はこの目で見たし怪物があいつだとしたら怪物も確認している。なら俺は、俺たちは何をすれば……あ。


「肝心ってか最初の目的を忘れてたわ」


「なんですか?」「何のことだ、リーダー」


 身に覚えのないことかのように首を傾げ問いかけてくるアンカとガルにあっけらかんとする。なぜあの賢者の楽園に行ったのか、なんで賢者に会いたかったのか。


「それは強くなるため、だっただろ……思い出せって2人とも」


「「あ」」


 俺が言った途端口を大きく開けて驚愕した。アンカやガルが、何で自分は重要な部分を忘れていたんだ、と自分自身に驚いている様子だ。その状況を見てエンザエムは首を傾げながら。


「…どういうこと……ですか?」


 と言い、あたふたする素振りを見せながら声を震わせる。


「あー……エンザエムには何も言ってないよな。俺たちの目標ってか目的があってさ。それが賢者に会って俺たちは強くなる、なんだけど……」


 期待の眼差しをエンザエムに向けた。すると焦りながらも俺が何を言いたいのかを考えだす。


「……えーっと…ロクさんは強くなりたい……で賢者に会いたい……でその賢者に稽古してもらいたい……ほうほう……そういうことですか……」


 途切れ途切れで呟くエンザエムを見ているとアンカにかなり重い手のひらの一撃を頬に食らった。


「何!?どうした、なんか恨みあんの!?ただ返答を待っていただけなのにどうした、アンカ!ちょ、ちょっと待てよ!?やめてくれ!ただ俺はただボーっとしていただけで何もいかがわしいことはー!って…痛ってぇぇええええええ!!」


 追撃にほぼ等しい思い1撃が再度頬へ。アンカの1撃によって壁に体が吹き飛ばされ大の字のへこみが完成。不意の衝撃に心臓や脳が驚き、めまいや腹痛を起こした。


「死ぬ~!マジで何もやって……」


「リーダー……自業自得だぜ……」


 哀れな人を見るような目で俺を見るガルを見て悲しみが溢れ出てきた。俺の目には少し涙が浮かび上がっている。


「あ、あははは……あ……はぁ……すんません。でも……マジで何も思ってなくただ……ボーっと……」


 本当のことを話していたが誰も聞いてくれず壁に引っ付いていた体が離れ、床に顔から飛び込んでいった。アンカやガル、いまだに悩んでいるエンザエムを見ながら。


「俺……不幸じゃね……?」


 大の字に床に倒れ、意識を失った。


 *


 本当にロクさんは。ちょーっとエンザエムさんのほうが良いスタイルだからって……。


「―――あーもう!ロクさんは放って話をお願いします!」


「……は、はい……まずロクさんやアンカさん、ガルさんは私に稽古をしてもらいたい…ってことでいいんですか…?」


「はい、そうです。魔王を倒したい、怪物を倒したい、けれど私たちはまだ力不足。エンザエムさんが賢者なら『希望』を知っているです。『希望』を知っていたら私たちを強くする『希望』が分かったり…」


「…私は賢者かもしれませんけど……『希望』を知っている、とか神話に書かれている賢者とは少し違います」


 その言葉を聞いた途端落胆した。せっかく会えた賢者。積もる話はたくさんあっていろいろと聞いてみたいし稽古をしてもらって強くなりたい。でもできないのならここで別れて別の方法を―――


「……違います、けど、強くするということならできなくはないですよ…私の力じゃないですけど……」


「ほ、本当ですか!?」


 別の方法を取らなくて良くなった……これでロクさんに迷惑をかけさせず私の力だけでも………ってあれ。エンザエムさんは自分の力じゃないって……。

 少しおかしいと気づき私はエンザエムさんに視線を移す。すると私が疑問を思っていることが分かっているかのように頷き、言った。


「…ここから東にあるユークラリアの国に良い騎士さんがいるんです。まず剣技(けんぎ)から鍛えましょう!」


 瞳を輝かせるエンザエムさんを見て早くロクさんを起こして任せようと決めてロクさんに3度目のビンタを今度は頭に浴びせた。

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