1章幕 26.『決意』

 ナーハやニヒルとの戦いを終え、俺たち4人はオルガヌムへと戻った。少し食べ物の調達をして宿の中に入って話をしている。


「いや~疲れた~」


「少ししか入ってないですけど精神的に疲れましたね。急に騎士が出てきてロクさんが倒してて魔動物出てきてその魔動物が人になれて……頭が追いつきません」


「さすがはリーダーだな!」


 何があったか整理するアンカと感服しているガルを見ると微笑ましい。俺はかなりの時間いるように感じているが実際20分程度。2度死んで何度も時間を巻き戻したことが主な原因だ。


「ほんとになぁ……」


「―――?…イテッ!何すんだよ!」


 ガルの感服している表情を再度見て頭を叩く。


「俺はすごくなんかねぇよ。すごいのはアンカやエンザエム、ガルのほうだ。俺は指示出したくらいでほかは全部やってもらった。みんなすごく強いよ」


 アンカもガルも覚えていない、知らないけれど助けてもらったことは多い。正直俺だと恩返しできる気がしないくらいだ。無知無能だった俺が異世界に来て少しは役に立ちたかったし、良いところかっこいいところを見せたいと思っていた。でもあのチート騎士ニヒルやエンザエムの力、アンカ、ガルの力だってすごい。この世界は俺が強いんじゃない、俺以外が強いんだ。主人公じゃなくモブに近いのが―――


「そんなことありません、ロクさん」


「―――?」


 途端アンカが言う。俺は声のする方向を見ると真剣な表情をしたアンカがいた。


「ロクさんだって強いんです。あんな強いって気配だけで分かるような騎士にロクさんは立ち向かいました。逃げる時はまず私たちに言いました。私たちを守るために戦ってくれました。これを誰が見てロクさんが弱いって言うんですか?」


 違う、戦えたのはレイルの言葉のおかげだ。あれがないともしかしたらみんなを見捨てていたのかもしれない。だからこれは俺の強さに関係ない。


「ロクさんは何も弱くなんてない。物事を前向きに考えていつも良いように思わせてくれる。良くなっていくんだって思うと私は動けるんです。どんな相手だったとしても。エンザエムさんは強いですよ?ガルさんだって強いですし」


 じゃあ弱いじゃないか。強さはガルやエンザエムのほうが上。だとすると俺の強さは下のレベル。ネガティブな考え方のような気がするがどうしても何を言っても事実は事実。変わりようのないものだ。


「―――でも、私は弱いですよ?ロクさんより」


「―――あ、アンカ……何を……」


「私は弱いんです。最初真っ白の屋敷の門を触って迷惑をかけて、私は何もせずただ観戦してました。最後に私も何かできればと水属性の魔法のウォーターを撃ったらロクさんに当たっちゃって迷惑でしたよね。本当に私は弱いんですよ。だから私よりロクさんのほうが強いんです」


 少しだけ声を震わせながらも話している。アンカが抱えていた悩みを話してくれたのだろう。悩みを打ち明けるのにかなり勇気がいるはずなのに、どうして俺に、どうしてこんな時に。


「私は恩返しをしたいんです」


「―――?」


 予想外の言葉に俺は驚きを隠せない。恩返しをしたいのは俺のほうなのに。


「恩返しがしたいんです。私は願の泉に来て願って本当に良かったと思いますし、願って来た人がロクさんで本当に嬉しかったんです。ロクさんがいないとこうやって仲間と一緒に食べ物を食べれなかったかもしれない。どこかで壁にぶつかって動けなくなっていたかもしれません。でもロクさんがいたおかげで、強いロクさんが横に、前にいたおかげで私の壁を、困難を壊してくれました」


「―――」


 するとガルが立ち上がって「そうだぜリーダー」と言い話し出す。


「アンカの言ってる通りだ。リーダーには申し訳ねぇがもしかしたら俺のほうが強いかもしれねぇ。けどそれは殴ったり蹴ったりする力だけだ。リーダーの強い部分は心なんだぜ?」


 慣れていないウィンクをしてガルは話を続ける。


「騎士戦ってた時、俺はすぐ逃げようとしてたんだが全然無理だった。けどリーダーたちに心配かけたくねぇから何も言わず戦って……でもきつかった。そんな時リーダーは逃げることをやめて俺を助けただろ?あんときはすげぇ救われた」


 ガルは自分の拳を見てその拳を俺の顔の前に突き出した。


「ぜってぇにリーダーのほうが強ぇよ。もし俺がリーダーの立場だったらぜってぇに逃げてる。怖ぇし戦えるような相手じゃねぇ。そんな俺の心よりリーダーの心が強かった。これはもう分かってんぞ、みんな」


 そう言ってアンカ、エンザエムを見る。2人とも笑みを浮かばせながら小さく頷いていた。

 やっぱり俺は弱いと今でも思っている。心だってみんなの支えがあるから強いのもあると思う。けど、ポジティブにしないと何も良い方向へとは向かわないと気がついた。


「何やってんだか、俺」


「―――?」


 唇を緩ませ、笑みをつくる―――否、自然と出た笑みを浮かばせみんなを見た。

 アンカは俺を異世界に連れ出してくれた。自分を強くするきっかけをつくってくれた。すごく可愛い最高美少女と冒険とかアニメとかでしかないこと。でも今できている。助けてくれた最高の仲間。

 ガルは俺の友人として活を入れてくれたような気がする。今回もこうやってネガティブな俺をポジティブに変えてくれた。ニヒルに立ち向かったのは俺とアンカを助けるためだったと思う。仲間思いで本当に最高の仲間。

 エンザエムとは少しの時間しか経っていないけど2度目の死の時、魔法で困惑を取り除いてくれた。あれがないと今も精神崩壊中だっただろう。感謝でしかない賢者だ。

 レイルは俺を最初に立ち上がらせてくれた、ニヒルやナーハの時を止めて最高のサポートをしてくれたし他にも時を戻して死ぬ前の時間に戻してくれた。やり直すチャンスをくれた。感謝してもしきれない精霊だ。


「ありがとう」


 こんな時に言うのはごめんと謝るわけでもない、冗談を言って空気を和ませるわけでもない。ただ感謝をするためにこの「ありがとう」を言う。


「どう恩返しすればいいか分かんねぇけど、まず感謝をするよ。ほんとにありがとう」


 深く頭を下げ謝罪混じりの感謝を言った。少し間が開き「いいですよ」とアンカが切り出す。


「お互い支え合って助け合っていく。これが仲間なんですよ。だからロクさんだけで悩まずまず私たち仲間に相談してください。私だって相談したり助けを求めます。お互い支え合いましょう」


 そう言った後アンカは小さく笑った。いつの間にか右手にはアンカの手があり握られている。俺は握られている右手にあるアンカの手を包み込むように左手を上にのせてアンカを見た。


「この先危険なことがあるかもしれない。でも、絶対に守る」


 最初、死ぬ前に言った決意。俺は再度言いまた決意する。


 ―――仲間を大切にし、絶対に守り抜く―――


 仲間の精神が壊れ、俺を襲おうとしても俺がどうにかする。逆に俺の精神に限界が来て壊れそうになっても、アンカが、仲間がどうにかしようと助けようとしてくれる。


「あのさ、1つ聞いてもいい?」


「はい?」


「……もし、俺が絶望に追い込まれた時、助けてくれるか?」


 日本は、元いた世界はこんなことしてくれないと思っている。俺や他の人が絶望に追い込まれても誰も助けようとはしない。ただ自分を守るために、何かを欲するせいで戦争へつなげる。その戦争に巻き込まれた普通の人、その人を誰も助けない。でも、今、少し考えが変わった。元いた世界も今の異世界と一緒じゃないのか、と。


「私はロクさんを助けますよ」


 アンカは助けてくれるとそう言った。ガルもエンザエムも頷いている。そう、誰かはいるんだ。誰かが助けてくれるんだ。学校でいじめがあった俺を助けてくれた人のように、今、こうして助けてくれるみんなのように。


「ありがとう」


 不安なことが多い。自分は弱い。でも支えてくれる人がいると感じて、再度決意を口に出した。


 ―――絶対に守り抜く―――


 するとアンカたちは小さく頷いてみんなで笑った。

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