1章 25.偽

 *


「賢者の後継者じゃない……殺せない……それに魔動物……衝撃的な事実ばっかだな」


 エンザエムの衝撃的な事実の発言に表情が強張っていたが何とか緩ませる。そして俺はエンザエムに「アンカとガルと話してくる」と伝えアンカたちのところへ歩いて行った。2人の表情を見ると困惑や不安が隠しきれていない。瞳は曇り2人は俯いている。相当驚きと恐怖を覚えたのだろう。


「とりあえず落ち着こう。まず深呼吸!」


「は、はいっ!」「わかった」


 アンカは空気をたっぷり吸い、吐く。ガルも同じように吸って吐くということを繰り返していると2人とも自然と強張っていた表情も緩んでいき、落ち着いた雰囲気に変わった。その表情を見てひとまず俺は一安心。一呼吸おいて決意した言葉を言う。


「ポジティブ大事!これが大切だ」


 ドヤ顔で且つ自信満々に俺は言った。これは決意したときに2人に言ったことだが『死ぬ前』の話。あんなに決めて言ったことを覚えていない、知らないとなると辛くなるが良い。また同じようにすればいいんだ。


「絶対に守る、仲間を失うことはあっちゃいけねぇし。でも失わないようにはみんなの力がいるんだ」


 1人で何でもかんでもやらなくていいってことはレイルに叩き込まれた。味方がいる、仲間がいると。相手の時は止まってるんだ。馬鹿なことしない限り大丈夫だろうしな。

 心の中にあった不安が消えていき気持ちが楽になった。


「―――変なこと言って悪い!調子狂ってくるしさっさと終わらせていこうぜ!」


 アンカたちは返事をして小さく頷いた。


「まずポジティブに考えた結果、みじん切りにしたら死ななくても攻撃不可、思考不可!完璧じゃね?」


「でもよぉリーダー。今思ったんだが時が止まってると穴開けたり斬ったりできねぇんじゃねぇのか?」


「「―――あ」」


 ガルの言ったことに納得してしまった。本当に納得したくなかった悲しい現実。レイルが相手の時を止めたのは良い、最高、完璧、でもこのせいで相手にダメージを与えれないというプラマイゼロとなってしまっている。なんと可哀そうなことか。

 頑張って涙を一滴流す。みんなには心配されたが「ごめん、違う」と誤解だと伝えて話を戻した。


「……誰か良い案はあるか?エンザエムは呪いがかかっていてあの偽後継者の時が進むと操られるっていう課題も踏まえてーお願いしやす」


 深く頭を下げて頼み込む。自分は考えれない。レイルも精神内でそう言っているのが腹立つが今は頼むことに集中する。


「……そう言われましても……魔動物化していない……と」


「ロクさん、翼だけ出すことさえできればいいんです!」


「分かんねぇな~リーダー」


 それぞれ違う返答をすることに戸惑いながらも頭を悩ませているみんなを見た。亜人、人間、人間だけど賢者。3人とも違うとなると異なる意見が出てくるということになる。


「―――ロー君~ねぇ、終わった~?」


 おい。急にしゃべりかけんな。

 鈴のような声音だが今の状況的にちょっとイラッときた。


「ごめんロー君!ほんとにごめん!」


 頭の中で大声をあげるレイル。耳を手で塞ぐ、という意味のない行動をとりながらレイルの話を聞いた。


「長々と語るから覚悟してね!」


 はいどうぞ。俺にとって利のある話にしてもらわないと困る状況だけど。


「ごめんなさいっ!……っとじゃあ私の話を始めます。礼。お願いしますっ!」


 早くしろ!学校のノリ俺しねぇから!学校良い思い出ねぇし!

 顔を上に向け、青空を見て心中で言った。すると「ごめんなさ~い」と今度はふざけて謝罪する。

 まあ、可愛いおかげなのと俺が可愛いが正義という気持ちを持っているからってわけだ。腹立つ気持ちを落ち着かせれるのも。


「本当にごめん。早く話し戻さないと……あの偽物後継者の時が止まっているのは体だけど、体の『動き』だけだからね?体や皮膚、心臓とかは動いてるってわけ。このおかげでみじん切りにするのもできちゃう。だから安心して。で次にあの偽物後継者と偽物後継者騎士の能力判明。精霊頑張ったよ~!?」


 ありがたい!普通に斬ることもできるってことか!能力が分かるだけでもチート騎士の対策や倒し方が分かったりあの魔動物がもし動いたり戦闘するとなったときどう行動をとればいいか、という手掛かりがもらえる。いや答えだ。さすがは精霊。

 褒めたたえているとレイルが気持ち悪い笑い声とよだれをすする気味の悪い音が響いた。褒めたたえるべきではない存在だ…。


「はいはいすみませんねっ!……えーっとなんだったっけ……そうそう能力。あの魔動物の能力は相手の怒りの感情の発生させる、相手の感情を知る。で特別なのは加護を持ってて……『言人(ことびと)の加護』だね。この『言の加護』は魔動物にのみ授かる加護で人の言葉をしゃべったり理解できたりできちゃう加護。稀に魔動物が人間の体に変化させれるようになるのもいるんだよ?であの魔動物も一緒!」


 怒らせる能力が本当にあったんだな。でも少し違うのが加護を持っていること。『言人の加護』を持っているから人の姿になったり元に戻ったりできる。ただ魔動物化している時の強さは何も能力無しに強い。普通に考えても強すぎるって感じだな。後継者じゃないって分かる理由も分かった。ニヒルのほうは後で良いぞ?


「了解~!じゃあ私はいろいろ準備があるからっ!また後でね~!」


 俺は小さい声で返事をしてナーハに視線を向ける。

 倒し方は普通、斬ればいい。ただもし動いた場合、エンザエムを異空間に入ってもらおう。さすがに敵に回るのはキツイし。


「みんな!時が止まっているのは動きだけだ!体は常に動き続けてるらしい!」


 そう言うとアンカたちの瞳の曇りが晴れた。


「…さすがレイルちゃんだ!」


「ロクさんさすがです!」


「さすがリーダー!」


 2人ほど違うが良いだろ。レイルが感謝される日はまだ遠いことだし。


「聞こえてま~す」


 頭の中で響く声が聞こえた途端背筋が凍る。あいつは精神内にいるせいで俺の心の声が聞こえてしまう。深く反省をし、俺は後ろに下がった。エンザエムたちに任せればいいことだし、それに血をあまり見たくない。


「大丈夫ですか……ロクさん…」


 心配そうに見つめるエンザエム。透き通った瞳はすごくきれいに見えた。


「いや、考え事してたんだ。……よし。じゃ、頼む!」


「…はい!」


 エンザエムの返事と同時に時の止まったナーハに剣を振るう。血は流れることなく粉々に体が砕けていき、2人の偽後継者との戦いが今、幕を閉じた。

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