1章 24.『ナーハ』
*
暗い洞窟にいる私は『ナーハ』という人間の感情を知ったり一部は感情を怒りに変えることができる魔動物。それだけのはずなのに、私だけ人間の言葉がしゃべれる。周りの魔動物はしゃべれないのに私だけ。人間の言葉も理解できるしその人間の言葉がしゃべれる。でも魔動物の言葉がしゃべれない。これは本当に苦痛だった。ただただ他の仲間たちにいじめられて、傷つけられて、でもこれが私の運命なんだってそう思った。
「わ、私……一緒……みんなと……きゃっ」
「キィキィ!キィキィキィ!」
大きな翼に大きな体。私と同じ魔動物だけれど目の周りに傷がついている。これはリーダーであることと『ナーハ』の頂点の存在だということの証。このリーダーは私を嫌っていて集団から抜こうと考えている。生まれも育ちも『最強』家庭。リーダーを代々受け継ぐこいつを殺したい。でも私が抵抗しても意味がない。多くの『ナーハ』を従えるこいつが指示したら私は跡形もなく消えるだろう。
「キィキィキィ!キィ!」
「や、いやだ………もう……い、やなの……!」
自分の血で汚れている翼を使い風を起こす。途端周りの『ナーハ』は翼で風を防ぎ始めた。
これなら逃げれる、と思いすぐに翼を広げて逃げた。
逃げて行くうちに瞳に涙が浮かび上がっていく。これは仲間との別れで悲しいんだろうか。いや、違う。仲間を置いていくことの苦痛か。いやこれも違う。絶対に違うよ。
―――こんなのうれし涙に決まってる―――
暗い洞窟の奥を進んで寝て起きて進んでを1年。何も食べなくても生きられる私でもお腹は減っていたし何も飲まなくても生きられる私でも喉が渇いていた。
「……私ってなんのために……奥に進んでるんだろ……」
1年経って思う疑問だった。最初はあの『ナーハ』に逃げるために進んでいた。けれど今はどうなんだろう。1年間進んでいるなら『ナーハ』は絶対に追いついてこないし来ないはず。じゃあ私はどうしてずっと―――
「―――」
また1年経った。生まれて10年目でもある。魔動物は動きずらい、特に『ナーハ』は。大きな体に大きな翼を持っていると動きずらく進みが遅い。もしかしたら2年間歩いていてもそこまですすんでいないんじゃないのか、と思ってしまう程『ナーハ』は遅い。
「―――」
「―――」
「―――」
また1年、また1年と経過していく。逃げてからもう5年。私が生まれて13年も経った。生まれた時は体が弱かったし瞳は真っ暗。翼も小さかったらしい。それを知った親はすぐに捨てたということも知っている。捨てられてリーダーに拾われるまでの時間は覚えていない。ただ良かったような気がするだけ。リーダーに拾われてから私が人間の言葉を話せることが発覚しいじめられリーダーに捨てられかけた。こんなひどい話があっていいのかな。
ただ自分に問いかけて答えてまた奥に進むの繰り返しだった。
「―――ぁ」
また1年。とうとう奥に光が見えた。私がいる場所は地下、洞窟と呼ばれている。地下や洞窟というのは光はなく植物もほとんどない。でも『地上』は違うらしい。太陽というものが出す光がそこら中に当たって綺麗な緑色の植物、緑以外にもいろんな色の花というものがあると聞いたことがあった。早く見たい、早く光に当たって花を見て自由になりたかった。なりたかったのに。
「きゃぁあああああああ!!!!痛い、痛いし熱いよぉ……!」
光に当たった瞬間、光の近くに行って見た瞬間、光が当たった場所や目が燃えるような熱さを痛覚を感じた。痛みに絶叫しすぐさま洞窟に戻る。そして私は冷たい地面や岩に体を擦りつけ熱さを逃がしていく。
「痛い……熱い……怖い……」
見たいと思っていたものが見れない。当たりたいって思っても当たれない光、触れない植物、花。
「……なんで……なんで……神様……いじわる……私に、人間の言葉、教えて言えるようにして……光に当たりたいって……思っても、願っても叶わない。こんなの、嫌い……嫌だ―――」
頭を抱えてしゃがみ込む。もう何も信用できない、何を願っても思っても叶わない訪れない。私は絶望し挫けた。
「嫌い、嫌い嫌い嫌い!嫌い―――!」
自分も神様も何もかもが嫌い。不快感でしかない。弱い私が逃げたのがいけなかったの?ずっと進み続けたからいけなかったの?ずっと願ってたから、叶うと思ってたからなの?
上を見上げてそう問いかける。ただの天井に岩に闇に向かって。
「どうして……いじわるばっかり………もう嫌なのに……」
瞳に映る闇は自分の闇。自分で自分を責めていく。浮かんでくる涙を拭い、それでもなお責めて傷つけた。そんな時、光のところから足音が聞こえた。
「―――っ」
息を呑み、逃げる準備をする。外から来る人も魔動物も危険。
「―――だ……だれ!」
体の震えを抑えながらも力を振り絞り声を張り上げた。するとさっきまであった足音が消え、私の視界に人影だけが映った。姿はない。ただただ影だけが私の前にいる。自分の涙をもう1度拭い問いかけようとした、が先に相手から話始めた。
「―――妾たちに助けを求めておるのか?」
「―――ぇ?」
「まぁ分からなくてよい。その願いは欲。妾は『間違っていない』じゃろ?」
なぜかよくわからないが『間違っていない』と確信できた。根拠は何もない。ただ『間違ってない』と必ず言えることだけ分かる。
「妾の妹は優しい。その妹に従うのじゃが……っと話をそらしたな。お前は『ナーハ・エンザエム』。賢者の後継者」
「―――こう……けいしゃ…?けん…じゃ?えんざ……えむ……」
「そう。妾は何も『間違ったことは言っていない』。ナーハ・エンザエム。それが名」
私は『間違いではない』と確信した瞬間、意識が遠くなり始めた。人影には表情が見えないはずなのに小さく微笑んでいた気がする。
目を瞑り意識が遠くなるのを楽になっていくのを感じる。とその時、微かに声が聞こえた。
「―――あなたを『最強』の座の1つに入れましょう―――」
「―――ぁ」
疲れ切った体、精神が一気に楽になり、綺麗で透き通る声音に聞き惚れていく。
「―――あなたは賢者の後継者。これまでよく頑張りました。私は『世界』。愛していますよ―――」
この言葉を聞いた途端、私の意識は途切れた。
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