1章 19.『反発』

 俺はまず身体強化を行い、筋力を上げる。そして向かって来るニヒルに迎え撃つように地面を蹴り、粉砕するのと同時に彼に押し寄せた。


「フル・フレイム」


「カウンター!」


 俺とニヒルの詠唱でそれぞれの魔法陣が描かれ魔法が発動。炎のボールが俺を襲おうとするが、反射魔法であるカウンターを使ったことで炎のボールが速度を増して彼に跳ね返った。この跳ね返った炎のボールを彼は空中で体をひねらせ、華麗に避ける。だがニヒルはこれだけで終わらない。彼は押し寄せる速度を変え、一気に目の前まで近づいて睨む。


「加護を……加護を……!」


 怒りの叫びをあげながら魔法陣を描き、中心から光り輝く石が現れる。この石は次第に向こうが見えるほど色は薄く、透明へと変化。そして石の中心から黒い煙が発生し、石がひび割れ大爆発を起こした。


「ダーク」


 黒い煙は俺たちや精神『世界』を飲み込もうと広がっていく。

 マズい、このままだと瞬殺だ。一旦下がって態勢を整えなおしたほうが……。


「ロー君!もろ聞こえてる!」


「やっべ!とりあえず引き下がって―――」


「…ダメです!…この煙は永遠に広がり続ける闇属性の魔法です…!それにこの煙を吸ったら痙攣などが…!なので……もう一度、あの魔法を!」


「……あれか!分かった!」


 一瞬考え、思いついた。エンザエムの言われた通り、あの魔法―――カウンターを使う。何の意味があるのかは分からない。けれど、信じる価値しかないことは分かる。数少ない希望に賭けるのも大事だ。


「カウンター!」


 目を見開いて俺は叫んだ。カウンターの魔法は煙をどうするのか、どうなるのかを確認するために瞬きせずに。


「―――き、消えた…?」


「反魔法は魔法をはじくの!ロー君の反魔法って良いねっ!最高!」


「何のドヤ顔!?……でも、すげぇな………」


 盾となった魔法陣と黒い煙が消えたことに驚きが隠せない。黒い煙は永遠に広がり続ける魔法だとエンザエムが言った、がその魔法が反魔法で一瞬で粉砕。魔法の相性などが起こしたことなのだろう。相性が悪いもの同士がぶつかるとどちらもなくなる。この場合反魔法と闇魔法はお互い相性が悪い、だから2つの魔法が消えた。

 脳にこのことを焼き付け、ニヒルを見る。彼は激昂の表情を出して顔を歪ませていた。


「心外、心外、本当に心外だ。なぜかき消される。なぜ私の魔法が。不愉快、不快だ。今すぐお前たちを斬る。私に斬れないものはない!何も抵抗するな、私の手で消えてしまえばいい!」


「お前は楽園でほのぼのしとけ!レイル、エンザエム!」


「…はい!」「分かってるっ!」


 全部で3つある作戦のうち1つ目。量で押し切る作戦。

 ニヒルは死なないし異常な強さ。だとしても数で押し切られたら動けなくなるくらいまで行けるはず。


「クル・ジグレス!」「ニル・グランテ!」「フレイヤ!」


 3人それぞれ魔法の詠唱を唱える。途端、水と青い石と炎の塊が現れ、順に放たれた。水は彼に穴をあけ、青い石は水の破壊にも動じず軌跡を定めて彼を凍らせる。炎の塊は後に続いて凍った彼に当たり、炎の柱が造り出された。圧倒的な力。だが―――


「私に抵抗するな。お前らにそんな資格なんてないんだよ!」


 炎の柱から憎む声が聞こえ、同時に炎の柱は手でかき消された。凍った体を砕き、無傷の体が現る。さっきまで腹に穴が開いていたのに今では塞がって何もなかったかのように平然と立っている姿は異常者。


「私の斬る剣に勝手に穴をあけて砕いて?ついには私の腹も勝手にあけて?3人で無意味な抵抗として魔法を撃つ?どんな頭してんだよ!『世界』の許しでも得たのか!?私の欲の満たすために、私の正義感で行った行動を否定し、勝手に、身勝手に!」


 魔法陣を描き、彼は透明な石を造って闇を造り出す―――


「――させない!」


 透明な石が割れ、黒い煙が出されようとした瞬間、レイルはその石に魔法陣を描いて動きを止めた―――否、時を止めた。


「時を止めたくらいで―――!!」


「動くわけないでしょ!時の精霊なめるんじゃないよっ!」


 レイルは再び石に魔法陣を描く。するとその魔法陣の中心から針が現れた。


「私の体の時を動かせた私に動かせないものなど……」


 石に一瞬ブレが生じた。時を止めてもなお動こうとしているのだ。


「――だから!時の精霊なめるんじゃないっ!クロー・クイック!」


 レイルの叫びと同時にカチッと針が動く音が響き渡る。魔法陣の中心にあった針は歪み、そして空気を切るほどの速度で彼に針が放たれた。針は光の柱となり、石は消え彼の体、存在も消す―――


「はぁ……私は『世界』に愛されているんだよ」


「―――っ!!」


 彼に放った針はどこに行ったのだろうか。あの破壊の威力はどこへ消え去ったのか。俺の視界にはため息をつきながら呆れ顔を見せるニヒルとニヒルの持っている威力を無くした針があった。


「嘘だろ……」


 あれは幻覚だったのだろうか、幻だったのだろうか―――どっちも違う、現実だ。ただ彼がおかしい。


「本当にお前たちは……私の正義感を潰そうとでも思ってるんだろう。不愉快、心外だ!加護を勝手に……『世界』の許しも、愛されもせずに!」


 顔を歪ませ、睨みつけて腕を振るう。腕から衝撃波が生み出され、俺たちを吹き飛ばした。格段に高まった威力が俺の体に悲鳴を上げさせている。


「うわぁああああ!!!」


「叫ぶ暇があるなら『世界』に謝れ!!!」


「マジかよっ!」


 瞬き1回で彼は目の前に現れ、拳を振っていた。この拳を避けれるわけもなく、顔面に直撃。俺は下に吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。


「ぶはぁ……」


 こみ上げてくる塊を吐く。その塊によって地面は赤く染まり、体は震える。でも、それでも――


「立ち上がらなきゃ、男じゃねえ!2つ目の作戦は吹き飛ばす!この作戦で終了だ!頼む!」


「はい!」「分かった!!」


 2人は体を起き上がらせながら返事をする。


「抗うな、私は『世界』に愛されていて、最強である騎士だ!君は…お前は!『世界』に愛されていないただの――クズだ!私の正義感を否定してより『世界』に嫌われていくお前の存在自体心外だ!」


「―――」


 激昂し、次々と語っていく。俺一点を見つめ、睨み、語り続ける。


「その点では感謝…だ!」


 目線をニヒルの背後に向ける。作戦開始の合図だ。


「ぶっ飛べぇえー!!!」


 背後にいたレイルが彼の腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。3つ目の作戦、ひび割れた場所に放り込む。結果。


 ―――彼はどこかへと消え去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る