1章 15.再会と初めまして

 ―――『世界』は3秒戻った。


 意識は、脳は、魂は今起きていることに驚き、受け入れず、ただ困惑している。逆行の加護は使っていないはずなのに今、ニヒルは剣を上にあげて斬る準備をしている。おかしい、俺は、刺されて―――


「ロー君!」


 頭を抱えしゃがみ込もうとした瞬間、頭の中で声が響いた。透き通った声の正体は真っ白の猫であり時の精霊のレイルだ。レイルの声が聞こえた途端、白い空間に意識が飛ばされる。目の前に雪のような髪の色、白い服装で肌も白い。全体的に白い美少女、レイルと隣に青色でショート、三つ編みのある髪、透き通った水色の瞳、そして黒い服装の少女が立っていた。


「精神………世界……俺は……」


「刺されて死んじゃった……だよね。ごめんロー君。もう少し早く参戦したかったんだけど……」


 長い髪を垂れ下げながら深く頭を下げる。見たら天変地異が起こりそうな程の綺麗な2人の髪を眺めているといつの間にか困惑や驚きが消えていた。これが『可愛いは正義』というのうりょ―――


「……私が………魔法で消しました……」


「―――で、ですよねーって……あれ?」


 2回目で薄々気がついていたことが当たり、悲しみが溢れ出しそうになった時に目の前の人物がレイルでないことに気づく――否、元々気づいていたがやっと脳が追いついたのだ。

 目の前の人はつっかえつっかえ言葉を紡ぎながら小さく言うどこか気弱い雰囲気の少女。彼女は見たことがある、どこかで。思い出せない記憶を探り、1つの答えを導いた。


「賢者エンザエム……なのか?あの時、賢者の後継者のナーハに指示されてた……昔と雰囲気変わってたあの……」


「―――?……私を……知ってるの……?」


 目を見開き、彼女はそう問いかける。驚くのもおかしくない……のか?俺は彼女の記憶をすべて見てきたんだけれど、記憶を見させたのは彼女だと思う。だとすると驚くことはないはず。

 さまざまな疑問が浮かび上がるなか、不機嫌そうなレイルが話を切り出す。


「なんでエンザエムちゃんの記憶を持ってるのかな~?ちょっと私の家まで来てもらおうか~?」


「待て待て!俺は急に『あの辛さを知ってますか?』って言葉が聞こえて、それでそれで……」


 死んだ目をしながら近づくレイルを何とか止めようと死前の記憶を引っ張り出しながら話す。とその時、この状況を壊す青い美少女救世主が―――


「……私の記憶……知ってることは驚いちゃった……けど、レイルちゃんが襲い掛かる人がいる……なんて……こっちのほうが驚いちゃう……」


 ―――いなかった。ただ自分の感想を述べただけ。これがどれだけ悲しい出来事であったか……ただ、唇を緩ませ笑っていたのは神様にお礼したい。ああ、神様、素敵な笑顔が俺の特権なんだな。

 神に感謝の言葉を心の底から送っていると「聞こえてますよ~?」と固く握り拳をつくりながら近づく赤いオーラを放ったレイルが来て。


「ぶへぇっ!い…痛ぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 握り拳が俺の頬めがけて一発。拳が頬にぶつかった瞬間、視界がグルグルと回転していった。俺の体はしっかり吹き飛ばされ叫ぶ。グルグルと体を回し吹き飛ばされる俺を嘲笑うかのように2人の美少女は見つめている姿は癒される―――


「なわけあるか!!俺は馬鹿なのか!?」


 と自分に怒りながら受け身を取り、体を起こそうとするがそんな暇もなかったようだ。


「そうだよぉーだ!馬鹿ロー君は吹っ飛ばされていなさいっ!」


 瞬間移動でもしたのかというほど1回の瞬きで彼女は目の前に現れ、俺の腹筋われてるか割れてないか分からない腹に足を当てた。蹴り飛ばされたってさ、俺。


「―――はい、正座してね~ロー君!さもないと……」


 レイルの背後にこれでもかという程の数の魔法陣が描かれていき、中心には針のようなものが準備されている。新手の脅しだ。怖すぎるよ、これ。

 言われるがままその場で正座をして頭を下げ、説教を食らった。

 一通りの説教と俺の起きたことの話がやっと終わった。

 それにしても驚くこと尽くしだ。精神世界にまた連れて来られるわ賢者いるわ吹き飛ばされるわ。理解できない状況によく俺は理解できたと思う。いや、できてないな。……こんなに喋ってたっけ、俺。


「確かに……ロー君……馬鹿だけどこんなに喋らないし…頭ぶつけた?」


「いや、陰キャみたいな言い方すんなよ!それに頭ぶつけたのお前のせいだろ!」


 あんなに俺を吹き飛ばしておいて平然と話していること自体おかしい。こいつが頭の中にいるせいで頭がイカれ始めたんだ。そうだ、絶対。


「あ……あの……私のせいかな~……と思ったんですが……そうでした……」


「「―――え…?」」


 またぶん殴られそうになった俺と殴りかかったレイルはエンザエムの言葉を聞いて耳を疑う。最初は庇(かば)おうとして言った発言だと思い、「大丈夫、庇わなくていいから!」と言って親指を立てた。が、エンザエムは勘違いだと言うように小さく頭を横に振る。


「……本当にそうなんです……レイルちゃんと違って……うまく記憶改ざんできず、脳に支障を―――本当にすいません……」


「もーエンザエムちゃんってば~私を褒めすぎ!可愛い!」


 深々と頭を下げるエンザエムの頭をレイルは撫でた。

 これは慰めなどではない、ただ照れてエンザエムの言ったことに感動。そして褒めようとして頭を撫でている。あ~違う感じで最悪の性格だ~。

 レイルのとった行動に呆れながらも話を再開させた。


「脳の支障はどうでもいい。とりあえず疑問に思ったことを1つ。今、精神世界にいるけど、現実のほうは俺戦ってんだけど、大丈夫なの?現実戻って体見たら血まみれでしたっていう展開嫌だぞ?」


「大丈夫大丈夫!私は時の精霊!馬鹿ロー君とは違って時は止めれますよぉ~だ!


からかうレイルにイラつくが歯を噛み、何とか耐える。レイルは「ごめんごめん!」と謝っていないような謝罪をした後、間を少し置く。


「―――で、エンザエムちゃんがいる理由、ね」


 エンザエムの話へと変わると同時にレイルの声音と表情が真剣そのものへと変わる。俺は息を呑み、緊迫とした雰囲気を感じつつ耳を傾けた。レイルも息を呑み、言う。


「―――『呪い』を解くため。だね」

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