1章 14.『逆・■』行錯誤(しこうさくご)
魔法陣からは氷の氷柱(つらら)を造り、氷柱を放つと同時に俺は剣を振った―――1秒。
放たれた氷柱は風を切り、氷柱が通る場所にある空気は冷え白い結晶へと変わっていく。ニヒルは足で地面を跳ね上げ、氷柱を防いだ。不敵な笑みを浮かばせ、剣を上にあげる―――2秒。
ニヒルが上にあげた剣は激しい剣閃を発し、魔力が空気が震え悲鳴をあげた。彼の周りにあるもの全てを剣気、剣閃で斬られていく。そして、剣先から振り落とされていった―――3秒。
「本当に加護は役に立つよね……前は役立たなかったのに―――逆行の加護」
この言葉を言った瞬間。
―――『世界』は3秒戻った。
今から打開策を探し出さなければいけない。たった3秒で何もかも消されることはもう分かったが、状況を変えるための情報が少なすぎる。頭を悩ませ、思考を続けた―――1秒。
「この状況で考え事とは、不快だね。すぐに消え去ってもらうよ」
顔をしかめた後、剣を上にあげる。すると激しい剣閃が発生し、魔力、空気が震え悲鳴をあげた―――2秒。
頭をフル回転させ考えた結果、1つの方法が思い浮かぶ。と同時に視界が光に次第に飲み込まれていった―――3秒。
「逆行の加護」
この言葉を言った瞬間。
―――世界は3秒戻った。
思い浮かんだ1つの方法は彼の剣を止めるか吹き飛ばす。3秒で決着がつくのも全てを斬るものが剣。あのフェニックスが描かれた鞘から抜かれた剣は普通の剣だとは思えないが、止める、吹き飛ばす以外に方法が思いつかない以上、試すしかない。
俺は一回り大きい岩の銃弾を創造し、ニヒルの剣めがけて放つ―――1秒。
「私の剣に斬れないものなどない」
剣を軽く振り、岩を斬るどころか存在を消す。このことはもう知っているが何度見ても次元が違う。恐怖で足が震えるが歯を噛み、震えを気合で押さえた。
「君も斬ろうと思えば斬ることはできる。ただ君は私が興味を示している人物だ。呆れさせ、心外の君だが、『世界』と契約することで変わる、変化し良い者へと変わるんだ。ただ―――」
剣を上にあげながら語る彼は笑みを浮かばせている。彼には何もない。正義感という名の自己満足欲、自分の欲求で動く『怪物』だ。
剣閃を発す剣を彼は見て彼は口を開く―――2秒。
「呆れる!心外だ!そう私に『世界』にそう思わせた!―――それだけで罪なんだ。私にそう思わせるのはまだいいとしよう。ただ、『世界』に思わせるのは心外、不快だね。『世界』が不快だと思わせるだけで私の欲求を、幸せを失う可能性を生み出すということだ」
自分の考えだけが正しいと自分で肯定し、肯定した自分の考えを怒りとして、不快感として彼は俺にぶつけていく。途端、剣閃はより激しくなり、薄い赤色へと染まりだした。
「さらばだ」
赤く染まった剣閃は俺に向かって振り落とされた。
「逆行の加護」
この言葉を言った瞬間。
―――『世界』は3秒戻った。
たった9秒で恐ろしいほどいろいろと分かった。ニヒルは氷や岩を斬っていたが前の3秒は存在自体を消した――否、消したのではなく斬っている。俺、毎回ラスボスと戦いすぎじゃね?とこんな疑問しか出てこない。神様……何、俺憎まれることしたの?
「何度も何度も……君は」
忌々しげに頬を歪ませ、剣先を向ける―――1秒。
「『世界』が言ってるよ。君は理を破った、とね!」
剣先から徐々に剣閃が輝きだす。血に染まった剣のように剣閃が剣を包み込み、魔力が取り込み始めた。3秒もせずに殺されると理解した瞬間、俺は逆行の加護を使おうとするが、何も起こらない。焦りと目の前の恐怖に俺は震えた―――2秒。
「なんで…なんで!」
今起こっている問題を否定したいと願うが、何も変化しない。
「―――?なぜ、君は『世界』の寵愛の印である加護を複数も持っている!」
震える体は、目線を彼に向けるだけで声を出すほどの力が出せない。彼の気配は次第に変化していき、危険な気配と化す。その気配によって、不安や震えがかき消され、恐怖に支配された。
「なぜ……どうして、心外だ。『世界』は君を、嫌っている。今も、そう言っているんだ!」
下を向き、頭を抱えながら考え、イラついて、気配をより危険な気配へと変える―――3秒。
途端、彼は地面を思いっきり踏み、地面が割れて空気が震えた。
「逆行の加護―――!」
この言葉を言った瞬間、彼は俺を睨んだ。そして―――
―――『世界』は3秒戻っ―――
「―――ぁ。も……もどっ……て……ない……?」
さっきまであった巻き戻る感覚が今回はなかった。巻き戻る感覚ではなく不快な感覚と熱で脳が支配された。
「―――ぁ……あ……あつ……い……?」
腹に猛烈な熱さが感じられる。その方向に顔を向けると見えたものは血で汚れた剣、と真っ赤に染まった地面。
「―――」
―――刺されて出た俺の血だ。
そう確信した瞬間、俺はせき込み、こみあげてくる熱い液体を一気に吐き出した。意識が遠くなる中、目の前に見えるのは吐血したことで染まった地面と血で汚れた足。視界の端から闇が迫る。
「君は……なぜ加護を……!」
「―――」
勇ましく不快感がこもった声音が俺の耳に入り、脳が理解する。が意識はどんどん遠くなり―――
「ロー君!」
誰かの叫び声が聞こえた瞬間、魂は砕けていき―――
―――『世界』は3秒戻った。
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