1章 13.『ニヒル』となる

「遅いな」


「うるせぇよ」


 騎士が振り落とした剣先を俺は剣を横にしてなんとか受け止める、が身体能力を向上させているこの体ですら受け止めきれず火花が散り、俺の体は後ろへと吹き飛ばされた。


「強すぎかよ……お前はラスボスでいいってのに……」


 手で受け身を取り瞬時に体を起こして俺はステップを踏み剣を振るう。しかし相手は騎士。動きを読まれ的確に対処していく。チートすぎる……『世界』に愛されてるとはいえ、強すぎる。剣道はこんな感じでするような競技ではないため、対処しきれず魔法も行使しなんとか耐えた。


「精霊使いでありながら君は精霊使いの能力を使わないとは不思議だね」


 笑みを浮かばせながら語るが、全く動きに隙を作らずに剣を振る騎士――ニヒルは気味が悪い。一刻も速く終わらせてアンカたちと外に出たいが、終わらせれないことがほぼ確定だと俺は感じていた。


「ちっ……グラッチ」


「そんな初級魔法で私は負けない」


 ニヒルが剣を振ると、その剣によって生じた風で全ての岩の存在を消す。一振りで岩の銃弾数十発を消し去ったのだ。今の光景を見て、俺は恐怖で手が震え、脳が警告音を鳴らしている。能力も技術も上の相手に勝つためには何か……と考えている暇もなく―――


「フルフレイヤ」


 詠唱とともに魔法陣を描き、中心から炎のボールが造り出されていく。そのボールは手の握り拳より小さいサイズ。完全に造られた炎のボールがこちらに向かって放たれた。速度、威力は異常の大きさ。どんな壁を造っても一瞬で溶かせるほどの威力だろう。絶望していた時、レイルの言葉が聞こえた。その言葉に俺は小さくうなずき、ゲームの技を思い出す。


「俺のゲーム脳のおかげでこれを防げるなんて……良いようで悪いな!―――カウンター!」


 アンカにも教えられていない魔法の詠唱を唱える。途端、目の前に俺の背くらいの魔法陣が盾のように描かれ炎のボールの動きを止めた。


「―――君はなぜ『反魔法』を……」


 目を見開き目の前の光景に驚いている。『反魔法』と言われても聞いたことがない。ただ、すごい魔法を使ったことだけは理解できた。


「お前の魔法をしっかりお返ししてやるよ」


「―――っ!」


 魔法陣によって止められていた炎のボールが逆方向へと放たれる。相手から放たれる魔法を完全にそのままの威力で返す反射魔法。この『世界』では『反魔法』の類。心ではこれで終わってほしいと願ったが、思うようにはいかず、ニヒルは生きていた。無傷で。


「『世界』は私を愛しているようだ」


 無数の赤い手が魔法を完全に防いでいた。赤い手は魔法をもろに受けたせいで灰と化したがすぐに復活、相手は初期状態のまま。

『世界』に愛されているとはいえ、ニヒルを守りすぎだ。何度も復活するからという理由もあるだろうけれど、他にも何かが。

 情報の少なさもあり逃げることを最優先として決め、俺は防御と攻撃を同時にするため、魔法陣を複数描いた。


「いくら撃っても当たらない。当たるような軌道であっても当たらない、当たる『世界』など存在しない」


「最初っから当てる気ゼロだ!」


 そう言って俺は創造する。想像と違い、魔法陣をあらかじめ出しているため創造魔法だ。氷の壁を1つの魔法陣で造り、残りの魔法陣から吹雪を発生させた。吹雪によって視界が白くなり見えずらくなる、そして氷の壁によってニヒルは出れない。最高の作戦……だと思ったが、


「呆れるね」


 と上から聞こえた。上を向くとニヒルはこちらに向かって急降下している姿が見える。予想外の展開に俺は上向きに魔法陣を描き氷の壁を張り、身体強化魔法を再度し直して後ろへ引き下がった。が、ニヒルはいとも簡単に氷を剣で消し去り、ニヒルは着地。着地した地面は足跡とひび割れがつくられていた。


「君は弱い。私は『世界』に愛され君は『世界』に嫌われている」


 剣を地面に刺し、ニヒルは語り始める。自分の話したい欲求を満たすように。


「『世界』との契約を交わす、これなら君も許されるだろう。時を止める魔法は存在してはならない。理を破った君と君の精霊は『世界』を敵に回すことにつながる。自分の身を守るためにも君は『世界』と契約を結ぶべきだ。契約の条件は、心臓を『世界』に預けること、これだけだ」


 両手を広げ、受け入れようという姿勢をニヒルは見せる。心臓を預けたところで潰されたり消したり、という可能性が考えられる。そもそも契約をするつもりはなかったが、これで確信した。この契約をすることでニヒルのようになるのだと。


「お前みたいにクズにはなりたくないんで。たった1つしかない俺の心臓をわけのわからない『世界』ってやつに渡す気なんて全くない」


 ニヒルの受け入れのすべてを否定。そして俺は再び剣を構え魔法陣を描き攻撃の準備を整えた。


「まだ戦うつもりとは……呆れるね」


 ニヒルは顔をしかめ剣に付いている土を振り払う。振り払った軌道の下の地面に斬り跡が残り、爆風が生まれ、空気が震える。この爆風の余波は俺にしっかりと届き、威圧と風で押しつぶされそうだ。最強という名もふさわしいが、人外、規格外という名もこの男にふさわしい。


「最強騎士……か。やっぱり序盤の敵じゃねぇって」


「これは、高く見られてありがたいね。本気を出して戦いたいが私はもう君に呆れている、3秒で終わらせよう」


「俺は低く見られすぎだなっ―――!」


 魔法陣からは氷の氷柱(つらら)を造り、氷柱を放つと同時に俺は剣を振った―――1秒。

 放たれた氷柱は風を切り、氷柱が通る場所にある空気は冷え白い結晶へと変わっていく。ニヒルは足で地面を跳ね上げ、氷柱を防いだ。不敵な笑みを浮かばせ、剣を上にあげる―――2秒。

 ニヒルが上にあげた剣は激しい剣閃を発し、魔力が空気が震え悲鳴をあげた。彼の周りにあるもの全てを剣気、剣閃で斬られていく。そして、剣先から振り落とされていった―――3秒。


「本当に加護は役に立つよね……前は役立たなかったのに―――逆行の加護」


 この言葉を言った瞬間。


 ―――『世界』は3秒戻った。

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