1章 12.『幕開け』

 俺たちは地面を思いっきり蹴りただひたすら走った。彼は口を開けたまま止まっているが、多種多色の微精霊、精霊、赤い手が奈落の闇から追いかけてきている。


「ロクさん!逃げるってどこに逃げたら良いんですか!?」


「この洞窟から出る!最初の穴さえ見つけれたら飛んで……」


「飛ぶぅ!?馬鹿なこと言うな、リーダー!俺、飛べねぇぞ!?」


「気合で飛べ!気合で!」


「おいおい!ひどくねぇか!?」


 追いかけられていることも忘れそうな会話を交わす。ただ足だけは止めない。止めると闇に飲まれてしまう。

 ひたすらひたすら走って行くが、徐々に赤い手や精霊が距離を詰めてきた。


「グラッチ!」


 岩の銃弾が赤い手に当たり消えていくが、消えたと同時に赤い手は再び現れていく。滅びない赤い手は握り拳をつくり殴りかかる。


「あぶねぇ!」


 俺の背中に向かってきた拳をガルが拳で受け止めた瞬間、爆風が生じ俺たちが走っている方向へ吹き飛ばされた。体が地面に打ちつけられ骨が軋み、痛みが襲うがガルの状態確認をするため無理やり体を起こし、ガルを呼んだ。


「大丈夫か!?」


 奈落の闇でガルの姿はまったく見えない。爆風によってかなり遠くへ吹き飛ばされたらしい。


「マズいな……ガルのところに明かりがない……」


 アンカや俺が明かりの担当だったが、今はガル1人。闇の中で赤い手や精霊と交戦という困難な行動をとらなければいけない。ガルは周りの状況を確認し動く癖のようなものがある。その癖こそが強いが状況を確認できない以上、ガルの戦いは劣勢の状態で開始されてしまう。それだけは避けなければ自分たちも時間の問題だ。


「アンカ!なんかいい方法あるか!?」


「急に言われても……あ!ありました!ダーガを使いましょう!」


「了解!」


 このダーガは洞窟に入って歩いているときにアンカから聞いた魔眼魔法(まがんまほう)というものの1つ。暗目は暗い場所で視界が紫色に見える魔法。紫色に見えるのはその場所にある魔力を見るため紫色の視界になる。

 俺は暗目を使った。すると視界が急に変化し、紫色の『世界』へと変化する。この変化に脳は追いつけず頭痛を起こしているが、ガルの状況を確認できた。


「生きてるだけでもすげぇんだけど、まさか戦ってるとまでは思わなかった……」


 彼の視界では、赤い手や精霊の攻撃を認識するのは皆無であるはずなのにしっかりと認識して避け、攻撃していた。


「ロクさん!5分だけならこの洞窟を明るくできますけど、どうしますか!?」


 赤い魔法陣を描き、もう準備を完了させて問いかけている。これを拒否する理由だ全く見つからない。


「やろう」


「はい!いきます――フラッシュ!」


 詠唱に反応した魔法陣は赤い光を強くし、途端洞窟全体が明るく輝いた。どんどん光は闇を消していきガルの姿もはっきりと映し出されていく。


「一瞬で終わらせる―――」


 足で地面を蹴ると地面はひび割れ、足跡が残った。身体強化魔法で跳躍力、筋力などの身体を一時的に強化した結果だ。空気や地面、壁が震えると同時に、完全に忘れていた鞘に触れ剣を抜く。


「中学剣道部の意地!」


 意外と全国大会まで行ったことを自慢しながら俺は赤い手に斬り込む。赤い手が無限に復活しても、ガルを逃がす時間稼ぎにはなる。


「ガル!一旦アンカのところまで走れ!」


「リーダー!リーダーは……」


「俺もすぐに行くに決まってんだろ!弱いぞ、これでも俺!」


 悔し気な表情をするガルを俺、弱いんです告白で和ませガルを逃がした。逃げて行くガルを確認した後、俺は新たな問題を解決させるために前を向く。正面には白い騎士服、短髪で金色の髪色、青い瞳の男が剣を持ちこちらを向いている。


「『世界』に愛されし者、か。クソくらえだ。なんでもう動けてんだよ」


 レイルが彼の動きを時を止めていた。少しの時間と言っていたが、3分は速すぎる。さすがにレイルも3分じゃ逃げれないことくらいわかる。だとしたら彼が自力で時を動かしたということになる。


「私は『世界』に愛されている。私の時が止められていると知ったら『世界』は動かそうとするのは当たり前だと思うけれど」


 暴論すぎる発言にため息をつき否定した。すると彼の考えを否定したことを知った『世界』―――赤い手が一斉に俺に向き、襲いかかる。とその時、彼が「止まってはくれないだろうか」と赤い手の動きを止めさせた。


「私は彼と相手する。戦い終わった後に頼むよ」


 彼が赤い手にそう言うと快く引き受けたかのように瞬時に彼の後ろへと引き下がった。


「―――と、待たせたね。わざわざ時を止めてまで逃げる理由が見つからないのだが……君は何をしたかったんだい?」


 さっきの赤い手とのやりとりがなかったかのように平然と問いかける。鞘から剣を抜いているため、もう彼は戦う準備はできていると理解した俺は、剣を構えながら言った。


「―――お前の性格も『死』んでたからだ。だから逃げようとした、何か悪い部分が1つでもあるか?」


 少し挑発気味に言うと、笑みを浮かばせながら彼は話し出した。


「期待外れだ、期待外れ、何が、どうで、どうなんだ。君は何が悪いのかを理解できず、それがどういうことなのかすら理解できない。これは正義感が欠けている証拠だ」


「何が正義感だ。お前の正義は不や苦や死しか生まないロボット。『世界』というやつの指示通りに動いて、自分の欲求を満たそうという目的だけ意識が構成された存在する意味がないロボットだ」


 呆れ顔で言う彼を否定するように返す。最初は俺の言葉の意味を理解できなかったが、雰囲気で彼は意味を掴んだ。その掴んだ意味に怒りを覚え、眉を寄せて剣を上にあげた。


「君の正義感は心外だ」


 剣閃とともに彼は地面を蹴り、戦ってはいけない相手との戦いが幕を開けた。

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