1章 7.2つの約束
「私の名前は四大精霊を造り出した精霊!時の精霊、レイルと言います!」
段ボールの中に入っていた猫は、微精霊でも、四大精霊でもない、『時の精霊、レイル』。地でも水でも火でもなく『時』。どこをどうしたら俺に『時』の精霊がついてしまうのかと思いながら俺は話を切り出す。
「今んとこ全く状況を理解してないんだよ、俺。どっちか教えてくんない?」
「えー!?まったく~ロクったら~。いや、ロー君で!も~ローく―――」
「二度も言うな!」
不快でしかないあの言葉「まったく~ロクったら~」をロー君に変えてもう一度言おうとしていたレイルを止める。猫の状態であったとはいえ、俺に懐きすぎだ。俺は猫――レイルに数分頭を撫でて異世界行った後にまた撫でたくらいのたまに会う野良猫レベルの関係性だと言える。
疑問に思う俺の思考を聞いていたかのように――否、実際聞いた上で話し始めた。
「君の疑問は私も同感だ。時の精霊は現実に存在しない架空精霊であるあなたがなぜ彼のところに?」
「あちゃ~、架空精霊ってことも知ってるのか~」
舌を出しながら自分の頭を拳で叩く。可愛い顔でされるというのは俺には目に毒で――
「ロー君!私を可愛いって思ってるの!?嬉しい!!」
「勝手に人の心を覗くなよ!!」
「だって~ロー君の精神内だから勝手に頭の中に入ってきちゃうんだよ?だ、か、ら、はい!口から、どうぞ」
目を輝かせながら俺の言葉を待っている。俺の口から「可愛い」という一言を言わせようとしているのだろう。でも、俺が「可愛い」と口から言う人はそれなりの信頼や親愛が絶対条件。こいつとは数分しか顔を合わしていない、となるとレイルは対象外。
「はい!」
耳に手を当て俺の言葉を待つレイル。俺の心の声が聞こえているにもかかわらずただ待ち続ける。
「言うわけ―――」
「はい!!」
「だから!!」
「はい!」
「言うな!」
「はい!……ってあー!!ひどい!やっぱりロー君はずる賢いことしか思いつかないんだー!!」
「やっぱりってなんだ!やっぱりって!」
頬を膨らませプンスカと可愛い顔で怒っている。レイルが可愛いことは事実、ただ条件に入っていないためやっぱりNO。
俺は「無理」という一言をレイルに投げた瞬間、レイルは俺の言葉によって押しつぶされたのか、膝を抱えてうずくってしまった。このままでは何も進まず理解できないと思い、かなり落ち込んでしまったレイルを放って、ニヒルとの会話を再開させた。
「で、理解ができない状況を教えてくれ」
「分かった。まず、なぜ私がここにいるのか、だ。私は世界の声を聞き、魔法を使って君の精神内に入っている。あまり乗り気ではなかったが、世界に言われていることだからね、断るのは難しいんだ」
微笑を浮かばせながら話しているが状況を理解していない今の俺は笑えるような状況じゃない。それもすぐに理解したニヒルは「すまない」と言い、真剣な表情で話を戻した。
「世界は『どうやって理に反したのか』と疑問に思っているようでね。それで私が代わりに君に聞きに来た」
「で?俺に聞くのか?ま、聞かれても俺は知らねえ、としか返せないけどさ」
正直何を言っているのかすら理解ができていない。いつ、何の理を俺が反してしまったのかに心当たりがないけれど、少しわかったこともあった。最初、精神世界に入ってきてニヒルが聞かなかった理由。それは、俺の後ろにいる―――
「レイルが何かをしたのではないかって思ったんだな?」
「そうだ。君には加護が多い、だが実用的な加護というものがほとんど存在していないとなると理を反したとは思いずらい」
「ディスられてんな!俺!」
「ふっ。すまない」
さっきの反省はどこに行ったのやら。理解できていない俺に対して冗談はダメだと言ったわけではないが分かったはず、なのにニヒルは冗談で和まそうとする。
「人の気持ちをもうちょっと考えとけ!!」
「君の思考は今わかるが?なぜ和ませようと―――」
「すんませんでした!」
本能なのか焦りなのか、俺はニヒルのとった行動を見てすぐに謝罪をした。その行動。それはニヒルにとっては自然に、当たり前かのように彼は鞘から剣を抜き始めていたこと。
首を傾げて「なんだい?」と問いかける姿もまた恐怖を掻き立てる、彼が最強であるからなおさら。顔を真っ青にしていると、悪い雰囲気を壊すように両手を叩きながらレイルが割り込む。
「はいはーい!!おしゃべり終わり!あんまり時間ないんだから、早くしてよ~。ロー君も早く理解してね?」
「おい!―――まあ、言ってることは合ってるしな。分かったよ」
「私も気を付けよう」
「解決解決!じゃあ、私が話すね!」
落ち込んでいた表情だったレイルが一瞬にして元気になるのをみて驚きながら、俺とニヒルは彼女の話を聞いた。
「まず!私がしたことだったよね?―――はい!私がしたのは、時を戻しました!てへ!」
「てへ!じゃねえよ!そりゃあ世界も怒るわ!馬鹿でもわかるぞ!」
「え!?そうなの!?」
とかなり驚いた表情で聞き返す。することも考えも次元が違う。さすが時の精霊。
「でもごめんなさいってすれば大丈夫!でしょ?だよ……ね?」
馬鹿でもわかることが分からなかったことを自覚したレイルは自分の意見に自信を無くし、またもや俺に問いかける。すごい可愛い感じに謝るのは、俺以外に数人いるかどうか。とまたもや本題からずれる話をニヒルが仕切りなおした。
「君と精霊の会話は見ていて楽しいが、精霊が時間が少ないと言っていたのもある。だから本題に戻させてもらうよ。世界が言った理に反した行動は■んだ者を生き返らせたことだ。世界は元々君を嫌っている、だとなると君に何らかの被害が出てくる可能性が高い。精神世界に来た理由のもう1つとして、このことを伝えに来たことだ」
「分かった。けど、なんで俺を助けに来たんだ?世界は俺を嫌っている。それにお前とは他人同然。助ける理由が見当たらねえ―――?」
ニヒルに問いかけようとした時、異変を感じた。ニヒルもレイルも異変に気が付き、警戒を強める。
「なんだ!?」
「これは―――」
ガラスが割れていくような音が響く。周りを見渡すと、その音とともに世界がひび割れていくのを見つけた。
「思ったより時間早かった~ロー君と……まだ話したいのにぃ~」
涙目で訴えかけるも、俺にはどうすることもできない。これは俺の意識が戻ろうとしているのだ。ここは俺の精神の、心の中。現実へ戻ることはなんの不思議もない。
「お別れだな、ニヒル」
「すぐ会うさ。ただ、1つ約束をしてもらえないだろうか」
真剣に、そして何かを訴える視線、表情。ずっと見せなかった表情を見た俺は頬を強張らせ、ひび割れていく世界で彼の言葉を、約束を聞いた。
―――賢者を殺してほしい―――
「え?お前、何を―――」
言っているんだ、と問いかけようとした瞬間、彼は姿を消した。後ろにいたレイルも「約束するね」と俺に聞こえる大きさで呟き、言った。
―――精神じゃなくて現実で会いに行くね―――
その2つの約束を聞き、3人いた俺の精神世界が壊れた。
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