1章 2.スタートダウン

 賢者の楽園の近くにある町、『オルガヌム』。砂レンガの家があるのが特徴的だ。俺たちはオルガヌムにある宿へ行き、久しぶりのベットや椅子でくつろいでいた。


「食べもん買ってくっけどなんかいるか?」


 硬貨が入っている布袋を手に取りこちらに問いかける。俺たち3人とも同じ食糧でかつ3日分しか持ってきていなかったのもあり、他の味が欲しかった。辛い、酸っぱい、甘い、どれでもいい。


「持ってきた食べ物以外で頼む!あと苦いの却下!」


「私は甘いものかなくても美味しいものならいいです!よろしくお願いします!」


 それぞれが言い、ガルは「おう」と手を振りながら部屋から出ていく。アンカと2人きりという最高のシチュエーション、だったが賢者の楽園へ行くための作戦を考えることで頭がいっぱいになっていた。


「賢者のいる場所は賢者の楽園の中心で、行けず、行けない理由を話せない……だったよな」


「はい。商人が言えないと言うほどなので相当だと思いますね」


「他に情報は?」


 頭を抱えているとアンカは何かを思い出したかのように話し出す。


「賢者の伝説の話になるんですけど、賢者の残した言葉に気になる部分があるんです。『世界を変えるであろう存在。それは異空間からの人であり神である。その者こそが道を開き、閉じられる理由であろう』っていう部分なんですけど」


「うーん―――」


 異空間からの人はたぶん転移者や転生者、そして俺のことだろう。で、『道』というのはたぶん賢者の楽園の『道』だと今のところは考えられる。別の可能性があるにしてもないにしてもヒントにはなりそうな言葉だ。


「ロクさん、何か分かりましたか?」


「正直よくわからんねえけど、使えそうな気がする、ってとこかな」


 やはり楽園へ実際に行かないと分からない。行くだけでも得られるものは多いはず――」


「買ってきたぜ、リーダー、あー……」


 アンカをどう呼ぶかで悩むガル。するとアンカはそのことに気がついたのか「アンカでいいですよ?」と笑顔で答え、ガルに渡された食べ物を手に取った。俺もガルに渡された食べ物を取り、どんなものかを見る。


「こ、これは―――!!」


「美味しそうですね!!」


「だろ?」


 ドヤ顔でガルは言うが本当に美味そうだ。肉やニンジンやイモが入って煮込まれた料理――肉じゃが。器の蓋を開けるといい匂いが部屋中に広がっていく。俺たちは木でできた箸のようなものを手に取り、汁によって今にも崩れそうなイモを箸で取った。そしてそのイモをゆっくりと口の中へと運んでいき、噛む。


「や、やべぇ……美味すぎ……ほくほくのジャガイモだろ、これ」


「これはポムって言います!ポムは煮込み料理によく使われている食材として有名なんですよ?」


「へー!」


 このことを聞いてもわかる、これはジャガイモだ。肉はさすがに牛肉なのではないと思うが本当にすごい。日本人がこの世界に来て教えた料理なのでは?と疑うほど再現できている。

 肉じゃがの話について話しながら食べ進め、食べ終わった後宿屋から出て『賢者の楽園』のことについて聞いて回った。


「わしゃあ賢者の楽園にいかんほうがいいと思うがね……本当に行くのかい…?」


「強くなる近道はこれしかないんです。だから俺たちは賢者に会います。心配する気持ちは分かりますが、何か情報があれば教えれる範囲でお願いします」


 老人に何とか情報を言ってほしいと頼み、「教えれる程度なら……」と言って教えてもらった。


「ありがとうございます!」


「いいや……頑張りなよ…?」


「はい!」


 老人と別れ、アンカたちと合流するためさっき教えてもらった情報を整理しながら歩いた。アンカとガルの姿が見えた瞬間、俺はアンカたちがいるところへ走って向かった。


「あ、ロクさん!何か分かりましたか?」


「俺は一応収穫ありって感じかな……2人は?」


「私とガルさんは特に何もなかったです」


 顔を曇らせながら言うアンカ。辛そうな表情が俺の心へ突き刺さる。


「やめてくれ!暗くなるなって!ポジティブ大事!な!?」


「そ、そうですよね!ぽ、ぽじてぃぶ…?大事!」


 ポジティブを噛むアンカが可愛いと思いながらも話を続けた。


「情報なんだけど、『楽園にたどり着くまで賢者に見られちゃいけない』ってことなんだ」


「どういうことだ?リーダー」


「いや……これだけなんだよ……ただ、『見られちゃいけない』これだけだ」


 何ともまあ情報が少なすぎること……でも見られちゃいけない=見られたら何かが起こることを意味する。たとすると計画などを立てておかないと取り返しのつかない出来事が起こってしまう。ということだ。


「賢者が中心にいるとしたら横、後ろは確実に見られない。だったら壁を造って見られないように進むしかない……って思ってる」


「だがよぉ、壁だけじゃ不安じゃねえか?賢者に俺たちの姿が映らなくても壁が造り出されることは見えるだろ?壁を壊されでもしたら終わりだぜ?」


「問題点はそこなんだ」


 魔法陣が見える、壁が造り出されるのが見える、これは相手に見られないようにするにはこのことは確定事項。これが一番の問題点だが、他の方法が思いつきもしないためこの問題点を解決する以外ない。


「ロクさん……少し提案が……」


 何かを思いついたのか、アンカは小さく手を上げる。


「土の中からというのはどうでしょう……」


「なんと脳筋な考え!!」


「魔法で穴を造って前に進めば見つからずに済むと思います!!」


 物凄い脳筋な考えだが一番リスクが少ない。ということでこの方法で決まり、下に穴を造る……造ったまでは良かった。が―――


「まさかの展開……洞窟だけど……入る?」


 ちょうど穴を造った場所に空洞があり、空洞は賢者の楽園の方向へと続いていた。明かりは魔法で何とかなるなどといろいろ考えてまだリスクは少ないほうだということで洞窟へと俺たちは入っていった。


 ―――奈落のような暗い洞窟へと

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