第一章 『目覚める歴史たち』

1章 1.始まりと信頼

「まず賢者がどんな人かの話をしますねっ!!!」


 張り切った声調で話を始めようとするアンカ。


「手短にお願いしますよ~?」


「え!?私、まず本の名言をすべて語ろうとしていました!この賢者様がすごいことを伝えるには手短なんて無理です!はい!」


 とにかく圧をかけ俺を納得させるつもりだろう。でも無理。さすがに名言全てを語ることをさせてしまうと熱くなってどんどん目的からそれていく可能性が高い。いや、可能性なんかじゃない、確定演出だ。格闘ゲーだったらコンボに入りそうな場面になる。絶対に阻止せねば!


「俺たちは早く強くならないといけないんだよ!魔王や魔人がダーリアを襲ったり、この世界を滅ぼそうとすることだってあり得る!いや、これ確定!だから頼む、いろいろ終わったら話聞いてやるから!」


「ロクさん――!名言、いただきました!」


「ちょっと待て!?」


 目を輝かせるアンカだが、これは話の内容をまるで聞いてない。ただ名言をかっこつけるために言ったようにしか見えていないのだ!!マズい!これはマズい!


「名言じゃない!!いろいろと終わったらその名言とか聞かせてくれ!えーっと……こう、あれじゃん?楽しみは後に取っておくこと大切だし!」


「あ、言われてみるとそうですね!名言の話は後にして賢者様がどんな人なのかだけを言いますね」


 なんとか納得してくれた様子のアンカ。ひとまず一安心、そう思い俺は疲れのため息をつく。ガルもさっきのやりとりを聞いた後苦笑しながら、


「お疲れだったな、リーダー」


 と背中を叩き俺に活を叩きこむ。


「これからが本格的にスタートだってのにひどいよな……さっきから」


 魔人、魔王ときてこの会話。精神的にはこれがダントツトップで疲れた。でも賢者に会うという目標がある以上、リーダーとして疲れを見せるわけには―――


「ロクさん!!賢者の話しますよ!!」


「疲れた~」


「え、え~!?」


 やっぱり疲れも見せることが大事だと気づかされた。疲れさせた本人に。


「大丈夫ですか……?」


「――!復活!完全復活!!」


 可愛いは正義。アンカの可愛い表情が俺の精神への治癒魔法。自分の両方の頬を両手でパチンと叩き気合を入れなおす。俺は「で、賢者って……」と話を振った。


「賢者パルデンスというのは伝説上の人物と言われていますが、この方は存在しているんです。その証拠に、この世界には『賢者の楽園』と呼ばれる場所がありまして、誰も行けたことはないですが賢者の人らしき影が見えたという目撃情報が多発。結果、賢者は存在しているとなったんです」


「誰も行けてない?そんなことあり得るのか?」


 楽園でありながら誰も行けたことがない場所。怖くて仕方がない。するとアンカは首を傾げ。


「あの……それが、誰も言わないんです」


「言わない?」


「はい、なぜか人影を見た、や魔人がいたけど消滅した、などの情報は言うんですが、『なぜ行けないのか、たどり着けないのか』を頑(かたく)なに教えず言わず……なんです」


「情報提供必ずする商人はどうなんだ?」


 ガルがアンカに問いかける。確かに商人の中には情報提供で食べていく人がいるはず。情報を教えない=金がもらえないと自分の首を絞めることにつながる。


「残念ながら言いませんでした。ただ、言えない。とだけ言ったそうです」


「言えない………ますます怪しいな」


 自分が苦しんでも言うことをしない。まるで誰かに強制されているかのよう。


「話を戻すんですが、賢者様は世界の半分を知る存在として有名です。ちなみにもう半分は勇者様ですが、賢者様は『希望』を、勇者は『絶望』を主に知っていると―――ちなみにちなみに、賢者の名言には……」


「はーい話ずれてきたよ~。もう話を終わろうか~」


「す、すみません!!」


 また疲れてしまうことを察し、俺は強制的に切り上げた。「さあさあ乗って」と言いながら背中を押し魔法車へと乗り込む。さすがに長話も疲れて仕方ない、そもそもの話題についても。

 簡単にまとめるとするなら、賢者は希望となる道筋を知っていて、『彼』に会いさえすれば強くなる方法、希望を示してくれるから会ったほうが良い、ということだろう。


「賢者の楽園の手前にある『オルガヌム』へ自動で行くようにしておいたので大丈夫ですよ!ちなみに3日あれば着きますから!」


「OK。じゃあ準備もできてることだし、行きますか!」


「おう、リーダー!一緒に頑張るぜ!」


「私もサポートしますから!」


「ありがとう、みんな!抱き着きたい!」


 感謝の表現をしようと両手を広げる。


「さすがにちょっと……すみません……」


「ぜってえやだだ、リーダー」


 俺の全力を冷たい言葉で跳ね返されていく。跳ね返ってきた俺の全力は心へと突き刺さり体の力が抜けていき。


「撃沈……」


 このこともそうだが、いろんな疲れがたまっていたせいか、瞼がだんだんと重くなっていき、意識は遠くなって眠ってしまった。

 翌日の朝、俺は意識が覚醒し周りを見渡す。アンカやガルはまだ寝ていて、魔法車は一時停止しているようだ。


「散歩……行こっかな……」


 ふと思ったこと――散歩。毎朝散歩は健康の秘訣とよく聞く。ファンタジー世界に来てまで散歩をして健康になろうなんてあんまり思わない。だったが、意識と別に体はもう魔法車から出ていた。


「すっげえな、リーダー」


「うおっ!!!ビックリした!起きてたのかよ!」


 心臓に悪い声かけに大声を上げて驚く。ガルは俺の肩に手を置き「わりぃわりぃ」と謝り。


「で、さんぽってやつ、しねぇのか?」


 大きなあくびをしながら問いかける。


「……するよ…」


 嫌々俺は肯定し、歩き始める。ガルも俺について行きながら話し始めた。


「賢者に会って強くなるって言ってるけどよ。どう強くなんだ?」


「どう……って言われてもな~。アンカの言うには、希望……まあ方法を知るだけだと思うんだよな。だとすると自分たちで強くなるって感じだろうな」


 楽園へと行く方法が分からない以上、強くなれるか、よりも希望を知れるかどうかについての不安のほうが大きい。商人ですら言えない『行き方、たどり着けない意味』。この謎を解くことが賢者に会う鍵だ。


「まだ会って2日経ってないお前なのに信頼できるんだよな……」


「俺もだけどよ……早くできる友ほど信頼できる友って言葉みてぇだ。早くできるってのは価値観が合うってやつだ」


「面白いな、その言葉。ま、頑張ろうぜ、ガル」


「おう」


 男同士意思を固め、アンカのいる魔法車へと戻った。そして2日後、砂レンガの家が特徴的な町であり、賢者の楽園の近くの町である、『オルガヌム』に到着した。

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