0章幕 12.『神はいた』

 俺たちは段ボールの回収をするために屋敷へと向かい始めて1時間。いろいろな話をして盛り上がり屋敷に着くまでの時間はそんなに長くは感じなかった。


「着いたか!!」


「あ?着いたのか」


 魔法車はゆっくりと動きを止め、停車する。すぐについてしまって残念ではあるが疲れないのが良い。1人ずう魔法車から降りていき、屋敷へと向かい歩いて行く。


「この町なんかあったのか?」


 ボロボロになった町を見渡しながら言うガル。何かあったと言われるとあったが最初から見ているわけではないのもあり、「わからない」としか答えれなかった。

 何度見ても悲惨な光景を見ながら歩いていると1人の『少女』と出会った、否、再会した。


「やっほ~。また会ったね~」


「正直会いたくなかったけど?」


 ガルは嫌そうにしていたが、ガルとアンカには下がっていてもらった。人数が増えると戦いずらくなる。風属性魔法など使うと仲間にまで当たってしまう可能性だってありえて怖い。


「1人なんて舐められちゃってるね~私。アイスフィールド」


 不敵な笑みを浮かばせ詠唱をして氷の壁を作った。炎で溶けないっていう曰くつきの氷…か。溶かすんじゃなくて壊すがいいかな。いや、違う。


「レッツゴー」


 地面を蹴り氷の壁に足をつけまた蹴った。氷を壊したり溶かしたりしない。利用するのがベスト。魔法陣を展開し、岩の雨を降らせる。もちろん、俺には当たらないように設定済み。


「キャー面白ーい。こっちもアイスファイヤーバード」


 彼女の詠唱とともに炎の鳥に氷の膜が張った鳥が魔法陣がから現れた。


「2つの魔法を一気に使えるのかよ……」


「悪かったぁ?」


 岩の雨を避けながらも不敵に笑みを浮かばせ続ける少女。怒りが収まりきらない。


「人間としてどうなんだよ、お前」


「え?魔人だけど?」


「は?」


 少女は目を丸くさせ首をかしげる。と同時に相手の魔法が俺に向かって放たれた。壁さえ作れば、守れる、が魔法の速度のほうが速く、壁を作るのが間に合わないとすぐ分かった。


「まずい……!!」


「やっぱ俺が必要なんだよ!リーダー!!」


「私だっていますよ!!!」


 アンカが俺の背後で岩の壁を作り氷の膜が壊れ、ガルが空中から地面に着地した衝撃によって炎の鳥がかき消される。1人で無理でも2人なら2人で無理なら3人。仲間は必要なのだ。

 顔に付いた土を落とし、少女、否、魔人を見る。


「3対1で不満か?」


 不敵な笑みをまたも浮かばせ、俺たちに言う。


「いいじゃん、面白そう!やろうよ!やっちゃおうよ!楽しいよ!?亜人もいるし!」


 亜人という言葉が出てきたことに驚いたがたぶんガルが亜人だろう。さっきの跳躍力や筋力などの身体能力を考えたら人間じゃないことは確かだ。


「ガル、亜人ってかっけぇな」


「うっせえよ、リーダー」


 ガルは鼻でふっと笑い、腕に力を入れ始める。するとガルの腕が真っ白の獣毛で覆われていき、瞳の色は黒から緑色へと変化。それはまあイケメンで。


「よりかっこよくなるのは反則だぞ?」


 再度ガルは鼻で笑い先制攻撃を仕掛けた。その攻撃に続いて俺は炎魔法で炎の渦を作り、中心に魔人を突っ込む。これはあくまでも相手の油断をつくるため。あとはアンカに任せる。


「頼む!天才美少女さん!!」


「やめてくださいよ、ロクさん!!―――グラッチ!」


 詠唱とともにアンカの周りに岩でできた銃弾が現れた。サイズは最初見た時より大きい。


「援護したらいいんだろ?一発あいつの腹殴ってやるぜ」


「了解。俺はあいつを固めて行動不能にするから、頼んだぞ、ガル」


「おう!」


「行くぞ!」


 俺の合図でアンカとガルが攻撃を開始した。魔人は何個も魔法陣を展開し炎魔法、氷魔法を同時に放つがガルは華麗に避け、宣言通り腹を殴る。しっかり殴ったことを確認して、岩、氷、自然魔法で完全に魔人の動きを止め。


「いまっ!!!」


 アンカは岩の銃弾を魔人めがけて放つ―――


「もう~一気に撃つなんてひどいな~。お腹も痛いし~?」


 紫色の光によって動きを止めていた魔法をすべてかき消す。相手は無傷。お腹の痛みがあるなら1つもダメージがないことはない。得られる情報はここまで。


「最強かよ、お前」


「魔王様のおかげだし~何も言えな~い」


「その魔王はどんだけ強ぇんだよ……」


 小さくささやきながら魔法陣を展開するが紫色の光の柱が目の前に飛びこんで――


「少し派手だったな。――我が名は『魔王 イニティウム・テンプス』」


「魔王!?」


 紫色の光から現れた男。茶髪で短髪だが目にかかるほどの前髪の長さが特徴的の男。

 突然男が現れたと思えば名乗ったのは魔王だった、なんてひどい話は一度も聞いたことない。耳を疑う話だ。しかし深呼吸をして普通に話し始める。


「お前は何をしに来たんだ?」


「配下を連れ戻す、ただそのためだけにここへ来た」


 首を回しながら見下ろすように言う。と思った瞬間、世界が歪んだ。


「また会うことがあるだろう」


 瞬きを1回しただけ、ただそれだけで『魔王』が少女(魔人)の手と反対側の手のひらには段ボール1つを持って紫色の柱の中へと向かっていたのだ。俺には全く動いたように見えなかった魔王。ただ一瞬だけ見えたのは魔王の不敵な笑み。


「―――ロクさん……」


「リーダー……」


 心配、そして不安そうに見つめるアンカとガル。


「―――何も言えねえな~」


 相手の魔王、それは『神に近い存在』。表すとしたらその言葉だろうか。恐怖、勝ち目のない存在だと知った瞬間体は凍りついていく。アンカやガルも同じで。


「魔王イニティウム・テンプス……俺たちはこれからどうすりゃあいいんだよ……リーダー、どうすりゃあ――」


「おかしい……ような気がするな」


「―――?」


 予想外の発言に首をかしげる2人。俺は「あのさ」と話を出す。


「この町に最初来た時、人か分かんねえけど人であれば女の声が聞こえたんだ」


 あの時、「何者なのか……答えずらい質問だな。『最強』、それが名だ」と言われあれがラスボス、と勘で感じていた。けれどどう考えても魔王がラスボス、最後の敵。じゃあ、最強とは何なのか、何者なのか―――


「いや、なんでもない。忘れてくれ」


「おいおい!俺たちを信頼できねぇってのか?」


「なわけあるか!このことを言っても情報が足りなさすぎる、もう少し情報が集まったらにするよ。すまん」


 頭を下げ全霊の謝罪。そして話を戻る。


「で、ここからどうするか、だな」


 3人全員が頭を抱えて悩む。


「まず強くならねぇといけなんじゃねえか?その魔王をぶっ飛ばすにしてもよ。どうだ?」


 最強を探すにしても、魔王を倒すにしてもまず俺たちは強くなる必要性があるだろう。だったらガルの提案が最適だ。


「でも俺、全然この世界のこと知らねえんだよな~」


「リーダー……もっと頼りにしたいっけど……これじゃあ無理だな……」


「ひどいこと言うな!まだ2週間経ってないんだぞ、こっちは!!」


 男同士、言い争っているときに突然、アンカが何かを思い出したかのように「あ!」と大きな声を上げる。男2人は、どうした?とアンカのほうを向いた。


「伝説の『賢者パルデンス』!!の話をご存じですか!?」


「あいにく知らねえ……」


「俺も同感だけど、それがどうしたんだ?」


「その伝説の賢者様に会いに行けば強くなれるのでは!?と思ったんです!私的には最高の考えだと―――!エッヘン!すごいですよね!!」


 手を腰に当て決め顔のアンカ。相当自信のある提案らしい。でも……でもさ……


「いきなり伝説頼み!?展開的に終盤だけど!?」


「最初です!『アンカ伝説 3人、賢者に会う!』なんて日記をつけながら行きますね!」


「まさかの遠足気分―――!」


 可愛いアンカの提案。俺の弱さである『可愛いは正義』という考え方のせいで俺たち3人は『賢者パルデンス』に会いに行くことが決定した。


 1つの段ボールから始まる異世界冒険の始まりが今この瞬間だった。

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