1章 3.モンスター=■■
俺たちが入って行った洞窟。それは奈落のように暗い洞窟だった。炎魔法で明かりを作っても闇は明かりを飲み込もうとする。希望の光を食べようと言わんばかりに。
「炎魔法も少しの時間しか持ちません……魔力もこの洞窟は薄くて……」
「無理はしないでくれよ?光魔法がまだ持つからちょっと休憩してていいよ」
「すみません……そうします」
手のひらにあった小さい魔法陣と炎を消すと同時に俺が手のひらに魔法陣を展開。電球くらいの明るさの光を造り出した。壁にもう片方の手を当て、躓(つまず)かないように慎重に歩いて行く。3人の足音だけが響き渡る。その1回1回の足音に心臓が反応して落ち着くことができない。
「何か出てきそうな雰囲気って感じだな……」
「不安になるようなこと言うなよリーダー。アンカが涙目で訴えかけてんぞ?」
歩きながらアンカの目を確認するとガルの言う通り、涙目で手はブルブルと震えていた。俺はすぐにアンカに謝ったが、このアンカを見るだけでも落ち着いてしまう。こんな状況だからこそいつも通りの顔を見ることができるとすごく安心する……アンカには申し訳ないが。
「まあ、何も話さないってのもあれだし……賢者の話をもう少し聞かせてくれないかな」
「そ、そうですね!でも賢者の話も飽きるんで普通に童話の話をしますね!」
「お?『ちぃいちゃん大冒険』か?」
「なんだガル!?お前、今でも赤ちゃん読み聞かせ童話を見てんのか!?」
「ちげぇよ!!童話って言われたらちっちぇえ時に呼んでもらってた『ちぃいちゃん大冒険』が出たんだよ!!」
またもやギャップ狙いをしているのかガルは……と思いながらも意外と『ちぃいちゃん大冒険』が気になって仕方ない。ガルが小さい頃に読まれた童話でなぜこの性格に変わるのかが疑問でしかなかった。アンカは口に手を当て微笑しながら。
「では…『ちぃいちゃん大冒険』にしましょうか」
「おい!!マジでやめろやアンカ!男のリーダーにもわかっだろ!?」
顔を赤くさせながら言うガルに「分かんねーよー」と言ってやった。男も恥を知る必要性はある、うん。知ることによって繰り返すことはなくなる、うん。ポジティブ精神大事だ!!うん!、とまとめて両手を叩いて「よろしく」とアンカに話を振った。
「では……『ちぃいちゃん大冒険』を。主人公のちぃいちゃんは物凄く怖がりで何もしたがらないめんどくさがり屋でした。ちぃいちゃんは怖がりな自分を隠したくなり1人、家に閉じこもりました。親は魔人討伐、封印のことで忙しくなかなか帰ってきません。唯一好きだった親も帰ってこず、怖がりを隠したく家に閉じこもって、でも、そんな自分を変えたいなと思っていました。めんどくさがり屋のちぃいちゃんは、「楽しくて、お母さんやお父さんも探せれるのがいいな」と考えていると1つの本が落ちてきました。その本は『仲間たちとの冒険』という題名。と次の瞬間ちぃいちゃんは決心しました。「冒険しよう!」閉じこもっていたちぃいちゃんは飛び出し冒険者を目指しました。その2年後―――」
さっきのアンカの不安そうだった表情と変わって今は楽しそうに話していた。震えていた体も心も落ち着いていき、童話を話すアンカと真剣に聞いているガルを見て心が温まる。こんな洞窟でも明るくなれた。こんな暗いには光だけでは足りないってな。暗闇の中だったからこそ見つけれた光があった、そう思えた。とその時、金属音が響き渡った。
「きゃ!!なんですか!?」
「奥に人がいんのかもしんねえ!リーダー!」
「落ち着け!一旦冷静になるのが―――」
いい。そう言おうとした。しかし、目の前に現れた『もの』によって阻まれてしまう。
「マジで…?」
目の前に突然として現れた『もの』。動物だ。よく洞窟で飛ぶ黒い動物を聞く。その存在を『こうもり』と呼ぶ。ただ今いる『こうもり』は違う。逆さまにならず二足歩行、燃えるような瞳に大きい翼に大きい体。『こうもり』ではない。この世界では『モンスター』だ。
「最初のモンスターが気持ち悪い動物だとは思ってもなかったな……神様…もうちょいマシなのあっただろ…とりあえず―――」」
「グラッチ!!」
「ちょ待ってくれって!!敵の攻撃パターンとか弱点とかを見つけてからのほうが……」
「ロクさん!もう考えてます!」
ウィンクをしてまた詠唱を唱える。アンカはすぐに作戦を考えて実行するのはいいが、俺たちに教えてくれないという失態と言ったところか。
「俺も……アイスフィールド!」
詠唱とともに地面、壁に氷が張り始めていく。氷は徐々に壁へと変わり『モンスター』の周りを囲むように壁が完成した。ガルは真っ白の獣毛に覆われていき、瞳の色は緑色へ。戦闘準備完了の合図だ。
「よくわかんねぇけどアンカ。作戦を教えて―――」
「行きましょう、ロクさん、ガルさん!」
「おう!」
「教えて―――、ほしかった……」
アンカとガルは準備万端。俺は精神不十分で戦闘は開始された。ガルは壁を蹴りながら背後に回り込み、蹴りを一発。アンカは岩の銃弾を当て続けていく。
「俺は、俺でやればいい……けど何もすること分かんなかったらだめじゃね?」
ボソッと呟(つぶや)く。するとアンカが――
「ロクさん!とりあえず攻撃を!!」
何もしていない俺に叫ぶ。『可愛いが正義』精神の俺は一瞬で体が動き始め、とりあえず撃てる魔法をひたすら撃っていった。しかし、やけくそに撃っただけではうまくいかずモンスターの翼によって生まれた風により全員が吹き飛ばされる。体が宙を浮き、体が、臓器が浮く。そう思ったのも束(つか)の間、壁に体が打ちつけられ、体が悲鳴を上げた。
「く、くっそ……魔法も打撃もうまくいってない……か。急所とか……弱点を…」
もうろうとした意識で思考していくが、見ただけで、魔法を撃っただけで何も分からない。ただわかることが強いモンスターであり、初めての相手にふさわしくない存在だということ。
―――燃える瞳のモンスターは近づく。
必死に考え、策を練る。弱点を探る。しかし見つからない、見当たらない。知らない。
―――燃える瞳のモンスターは近づく。
アンカは『グラッチ』を撃つ。『モンスター』は足を止めない。決して。俺は炎魔法を使う。しかし、闇に飲まれて本来の強さが半減していた。『モンスター』に当たるが足を止めない。決して。
―――燃える瞳のモンスターは近づき、足を止めた。
「―――?」
「はぁ……弱い、弱すぎ、呆れる、予想外」
―――燃える瞳のモンスターは人、少女へと姿、形を変える。
燃えるような瞳、金髪でショート、ドレスのような服装の少女。
「初めまして、だよね…はぁ……がっかり、呆れた」
ため息をつきながら話す彼女。態度に怒りと同時に不安があった。オーラが違う。言葉で表現しずらいがもう分かる。彼女は―――
「私はナーハ・エンザエム。『賢者』の家系、エンザエム家にして頂点の存在」
「は―――?」
彼女は―――『賢者』。だと思っていい存在だった。
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