0章 10.アンカの親は――
徒歩ダーリアに向かって5日は経った。寝て起きて歩いての繰り返しをしている中、俺はアンカに一通り『魔人』についての話を聞いた。魔人というのは、中心国の『カイス』という場所にいる王子的な存在を殺したことにより敵対し始め、とばっちりでダーリアや他の村、町を襲っている存在らしい。魔人は理を破ることで他の世界から来る。その魔人は異常な能力を持っていて、中には理を破ることが簡単にできてしまう『突然変異進化(ショックアップ)』で生まれた『魔王』がいるとか。
「魔人の話なんだけどさ。とばっちりって言っても襲う理由がなくないか?」
とばっちりだったら魔人の怒りが暴走とかで起こりうることだけれど、理性はちゃんとあり暴走はしないと言う。
「あくまで私の推測ですけど、中心国の貿易等が不安定になることを望んでいるから……だと思ってます」
「なるほどね……中心国に必要な物資の輸入先の町が無くなると経済的にピンチ……か」
魔人って変なことするな……異常な能力を持っているんだったら中心国を全員で襲えば滅ぶし早いはず。魔人を指揮するのが『魔王』だとすると何か考えがあってのこと……か。ひねくれてんな~魔王って。アニメとかでもそうだったっけ?
「ま、いっか。魔王って他にも何人かいたりする?」
そう言うとアンカは目を丸くさせ言う。
「まさか!1人いてもこの世界は半分消せてもいいほど強いと言われているんですよ!!!」
「魔王強すぎじゃね!?」
想像していた魔王は町を一撃で、とか、都市を3回撃った魔法で滅ぶ、とかだった。けれどこの世界の魔王は半分の世界を壊す。もうゲームバランス崩壊しまくり。
「突然変異進化が起こる原因って本当に突然なのか?人とか魔人が生み出した、とか召喚魔法で生み出した、とか」
一番可能性があるのは召喚魔法。他の異世界から召喚してきた魔王ならゲームバランスおかしいのも納得する。
「分かりません。召喚魔法は1万人以上の命と引き換えですから可能性は低いほうですかね」
召喚魔法も恐ろしいな。多くても5人とかだと思ったけど、1万…予想の2000倍。神様、この世界ちょっと設定が終わってるぞ――
「ロクさん!奥に人がいますよ!」
叫んで人のいる方向に指を指す。その方向を向くと人の姿が!と言いたいところだったがその奥にある巨大な門のほうに目がいく。
「いや、人よりあの門だろ!!」
「あ!確かに!!気づきませんでした!」
照れ笑いをするアンカ、その光景は俺には目に毒。すぐさま視線をそらして顔を赤く染める。2人ともが目線を合わせずに少しの時間が空き。
「じゃあ、行きましょうか……」
「あ、ああ……」
気まずい雰囲気の状態で巨大都市、『ダーリア』の門へと向かった。
門番は数人でかなり警戒心の強い都市だと思う。ポケットのすみまで確認を取られOKサインが出され門をくぐる。
「ここがダーリアなのか?」
「はい!!私の故郷!すぐ戻ってくると思いませんでしたよ~」
笑いながら言うアンカ。俺が冒険者カードを持っていないことでここへ戻ってしまった。本当にアンカには悪いな。
そう思い苦笑しながら話す。
「ごめんな?俺が冒険者カード持ってないせいで。アンカもしたいこといろいろあっただろうし」
「いいですよ!ここに帰ってきて利点もあります!」
人差し指を上にあげて満面の笑みで言った。
「両親に会えたり、魔道具、魔法車を買ったりできます!魔法車さえ買えば移動なんてへっちゃらです!」
最高のドヤ顔。俺は拍手を送りたくなるような利点。特に魔法車。これさえあれば移動楽なのは助かる、魔道具もダーリアまでの道のりにはいなかったけどモンスターとかに効くだろうし。
「両親…か」
「どうしましたか?」
「いや…なんでもない!」
俺の父親は5年前に俺の目の前で死んだ、交通事故で。中学生だった俺にはかなりショックだった、ゲームを始めた頃ぐらいだったのもあり、猛烈な吐き気も感じていた。こんなことを言ったらアンカはまた謝るだろう。
アンカにはばれないよう心の底にこの記憶を閉じ込めておこう、と誓った。
「行くぞ~!まずはあれだろ!」
「ですね!!!せーの!」
「魔道具!!」「魔法車です!」
「「あ……」」
2人の息はピッタリ!という展開が欲しかった……俺たちは大笑いしてまずはアンカの両親に会いに行こうということになった。
―――息ぴったりが良かった―――
ダーリアにいる種族が4種類だ~と考えながら歩いて10分ほど経った頃、赤レンガの家でアンカは足を止める。
「ここです!」
「店か!」
扉の近くにある看板には『魔道具店 アンカ』とあった。
まさかの娘の名前を使っちゃう親バカ確定演出!本当に親バカじゃないと良かったが―――
「アンカちゃん!!!おかえりなさい~!!!!」
大声を出しながら豪快に扉を壊して腰まである髪がなびく女性がアンカの体へと飛び込み、続くように奥からアンカに飛び込んでいった短髪の男性。両親だろう。アンカが美少女だとやっぱり親も美男美女だった。女性は優しい目、燃えるような色の髪、そしてワンピース。男性は鋭い目つきで赤よりのオレンジの髪色、ジャージのような動きやすそうな服装。
「アンカ……良く戻ってきた!」
大号泣の両親、俺など視界に入っていないかのように話が続く。
「今日のご飯は豪華にするわよ~!!!」
「父さんな、心配だったんだ!で!次はいつ出るんだ!?もう出なくてもいいんだぞ!?」
「待って待ってお母さん、お父さん!ロクさん!助けて下さ~い!!」
俺の名前を言ったとたん空気が重くなった。両親の視線が胸に刺さる。異常な圧が俺を襲う。
「あ、あの……は、初めまして…」
何を言われるかが不安で死にそうだった。親バカであるからこそ怖い。この状況にはパターンが2つある。1つは、男を連れてきたことに怒りが爆発。もう1つは、男を連れてきたことに喜び、より大暴れ。結局どっちもやばい。
「男の子!?お父さん!男の子よ!!」
「そうか!もうモテモテなのかアンカは!!さすがは俺と母さんの娘!いや、母さんに似ているおかげだな!!」
「もう!お父さんったら!お父さんがかっこいいからよ~!!」
「母さんが美人で可愛すぎるからだろ~!!!?」
アンカの両親はイチャイチャし始める、美男美女だから許されるような、いや、そんなわけがない。俺にとっては怒りでしかない!
イチャイチャしているところをアンカの「ゴホン」という1声で間に割り込み裏がありそうで怖い笑みで。
「お父さん?お母さん?ロクさんの前でしないで?」
一瞬でイチャイチャを止めて「ご飯作るね!?」と2人息ぴったりで言い、家の中へ飛び込んだ。
―――怖い、アンカ、なんか怖かった……でも、親だけのような気がする……こんな親だし。
親バカに呆れるのも仕方ないだろうと思い、アンカと一緒に家の中へ入った。
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