0章 1.俺の加護
急に俺は恥ずかしさを覚える。美少女に抱かれ泣いているこの男としてどうなのかという状況。すぐにごめんと言って離れる。あまり離れたくなかったが。
「それよりご飯にするか……一緒に食おうぜ!」
そう自信満々に言ったが別に手料理を出すわけじゃない。カップラーメン。ああ、男としてどうなってるんだ俺は。
「お湯を入れて3分でできる食べ物なんだ」
「へぇー!!すごいですね!」
アンカは不思議そうに、そしてワクワクしながら待っている。あまり期待をしてほしくないが、美味しい自信はあると思う。ラーメンは醤油。定番こそがナンバー1。
「はい、できたぞ!!」
蓋を開け、割り箸をアンカにあげた。醤油のにおいが部屋の中に充満していく。俺にはこのにおいで毎回癒されてきた。
「おいしい!!」
笑顔で言ってくるその顔はずっと見ていられる。でも、目に毒だ。見ていると目に痛みを感じる……そんなわけないが。
猫にあげるエサがなく、コンビニで買ってきた。幸いにもコンビニが徒歩1分だったため心配させずに黙って行き帰りすることができた。
「ふぅ。美味しかった」
「うまかった……口の中で広がる醤油がたまらなくうまい。いつ何個食べてもうまいな」
俺は醤油ラーメンで幸せを感じているとアンカがじっと見つめてきた。何か顔についているわけでもなく、ただじっと。
「ど、どうした?そんなに見られると緊張、不安、喜び、幸せが同時に!」
「何言ってるんですか……でも!能力を確認することができました!」
結構きつく言われ少し落ち込んだが、能力を確認したと聞いて俺に希望に光が見えた。無知無能ではなくなる光が―――
「無能力です……初めて見ました」
「あ、そ、そうだよな~!あーあ。期待して損したわ……」
希望の光はなかったようだ。俺はどうあがいても能力なしで役立たず野郎かもしれないと思うと不安で仕方がない。余計足を引っ張るはめになりそうで。
「でも、大丈夫です。魔力はありました。空気中にエナジーがあったら『魔法』が使えます!この部屋にはありますね。外にはないようですけど」
『魔法』夢のまた夢の者だと思っていた存在。異世界にはやっぱり魔法はあったんだと喜びが湧き上がってくる。中学二年生のころの俺は、「右手に宿ったぞ!魔法が、魔の魔法が」なんて黒歴史になるようなことを言っていたことがある。中二心が戻ってきそうだ。
「あとはないか?」
「え、えーっと……あ!」
かなり驚いた様子のアンカ。俺はまだあるということにまた喜びを湧きあがらせていた。
「これは、『加護』です!初めて見ましたよ!」
『加護』よく小説、漫画、アニメで聞く上の貴族やそう言った人が持つ神から授けられた力。『加護』。また希望の光が見えてきた。とうとう俺は!
「『どうやっても自分の矢が当たらない』非矢(ひや)の加護」
「え?」
また閉ざされていく希望の光、道が。神はどうしてこんな加護を授けてしまったのか……悲しくて仕方がない。
「え……一つだけじゃないですよ!通常では加護は1つしかないのに!」
「まだ持ってるのか!?」
ああ、神よ。やはり神は俺を見捨ててなんていなかった。ずっと祈りをささげておこう。感謝をするために―――
「『木が自分のところに倒れてこない』木守(きしゅ)の加護と『願うとその願った加護をくれる』願(ねがい)の加護。『石が複数飛んできたときに当たらない』逃飛石(とうとせき)の加護。『階段で足を滑らさない』非滑(ひすべ)りの加護!『毒の料理を食べても何の影響もない』毒耐性(どくたいせい)の加護。『相手の魔力と自分の魔力を一緒になくせる』無魔(むま)の加護。『1時間寝るだけで魔力が回復できる』睡魔(すいま)の加護!『2倍痛みを感じる』倍痛(ばいつう)の加護……『痛みを半分にする』半痛(はんつう)の加護、まだまだ!」
「ちょ、ちょっとまって!?多くね!?そして加護がしょーもない……なんだよ非滑りの加護って……階段で足を滑らないとか戦いでの実用性ゼロだろ」
加護は嬉しいんだがいくらなんでも多すぎる。でも、どんな加護を持っているのか気になって夜も眠れなくなりそうだ。これは聞くしかない。ある意味最強だ。俺は。
「まだあるなら言ってくれ」
そう言うとたっぷり息を吸って吐く。本当にたくさんあるんだろう。
「いきます!えーっと、『相手の加護を見れるかもしれない』加見(かみ)の加護!『加護を守る』加守(かしゅ)の加護。『まあまあ歌がうまくなる』歌手(かしゅ)の加護。『少し運がよくなる』上運(じょううん)の加護。『もしかすると悪い運が少なくなる』悪少運(あくしょううん)の加護。『相手が強いか分かる可能性があるようにできる』検索(サーチ)の加護。『3秒だけ時間を巻き戻す』逆行(ぎゃっこう)の加護。『加護をたくさん持つことのできる』多持(たも)ちの加護。『相手の睡魔を奪って自分の睡魔にする』奪睡(ばいすい)の加護。『水を1リットルだけ操れる』水操(すいそう)の加護。『泳げる』水泳?の加護………ちょっともう喉が……」
「ジュース!これ飲んでくれ!」
オレンジジュースを冷蔵庫から出してアンカにあげる。さすがにきつかったらしい。それにしても加護の量が多い。アニメとかで見ててこんな状況だったらどんな加護持ってんのかわからない。一度で全部が分かるなんて無理がある。
「でも、聞き逃していないぜ。すごい加護あるからな!願の加護!」
願った加護をもらうことができる加護なんてあっていいのだろうか。もし『攻撃が当たらない』加護をもらってしまったら最強になってしまう。そんなことができてしまう。もはやチート同然。
俺は脳内で「攻撃が当たらない加護を」と願った。しかし―――
「来たのか分からないと意味ないんだが……」
「……今思い出したんですけど、加護をもらうには世界樹に行かないと……行ったとしても1年に1つ授かるだけだったはずです。」
そう聞かされた時、悲しかったがそれと同時にホッとした。こんな加護に制限や特定の条件がないとこの加護を持っている奴が世界を崩壊させかねない。
俺TUEEE展開ではない……か。チートってわけでもないしな。アニメみたいにうまくいくわけでもないのか~。やっぱり悲しいな……
「加護が来たことを知れる加護……ね~」
この一言をつぶやいた瞬間。体中に電撃が走ったような感覚になった。何かが来た。来てしまった。世界に反した。そんな感じがした。
「マジか……まさか……アンカ」
「はい?」
本当にそうなら、本当にそうなら。
「俺の加護、増えてないか?」
もしかしたらと思い、そう問う。
「いいえ?増えてませんが」
ああ、違った。悲しい。
――――初めてだ。こんな悲しい感じは
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