expansion12 鳥鳥 その12

 俺がやろうとしていることは酷く、

 自分のことしか考えていないこと――。


 いや、自分のことだけではなくて、

 自分の周りにいる大切な人、二人のためだけで、

 その二人のためならば、俺は誰を犠牲にしようと、構わなかった。


 本当、酷い話である。


 一体、この船に何人の乗客がいたのかなんて、俺は分からないけど、

 知ろうともしなかったけど――ここは仮定として、千人ほどとしておこうか。

 俺は、二人のために、それ以外の人を殺すことになるのだが、

 意外と、なにも感じなかった。


 可哀そうとか、そんなことをしてもいいのか、なんて――、

 罪悪感なんて微塵もない。


 こうして考えている間にも、俺は目的地に辿り着く。

 場所なんて、道なんて、知らなかったというのに。

 テキトーに歩いていたというのに……なぜだろう、いまこうして、辿りついてしまった。 


 やってしまえと、命令されているのだろうか。

 命令されていなくとも、やることはやるのだから、

 関係はないはずだが……まあ、いいだろう。


「なら、命令に従ってやろうじゃないか」


 呟いて、俺は部屋の中にある、

 恐らくは、この船の中でもいちばん重要そうな、

 もしも、ここにダメージが与えられれば、

 全体に悪影響を与えてしまうような、そんな重大なパーツを――俺は破壊した。


 殴って殴って殴って。

 手ではなく、そこらへんに転がっていた、ただの鉄の棒でも、殴って殴って殴って――。

 手が痺れてきたけど、構わずに――殴って。


 そして、何百回目のことだろうか。

 ガン、ガンッ、という音も、BGMとして機能してきたところだった――。

 しかし、やがてそのBGMは途切れ、俺は殴るのをやめて、その時である。


 破壊を目的にして殴っていた、その船の心臓とも言えるパーツが、一部、欠ける。

 充分な成果、そしてダメージを与えることができた。

 欲を言えば、もう少し殴って、ダメージを与えたいところだが、

 そうすると、今度は俺の方にも危険が及ぶだろう。

 だからここで、逃げに集中しておくことにした。


 ほぼ千人を犠牲にしようとしておいて、

 今更、自分が大事なんて、なにを言っているのだろうかと思うかもしれない。

 しかし、俺が生きることは俺のためではなく、恋敵と理々のためなのである――。


 俺が死んだら、あいつらはきっと、自分を責める。

 自分のせいで、俺が死んだと思ってしまう。


 そんな重荷を背負わせてしまうのは違う――、

 俺はそんなことを願っているわけじゃない。

 だから俺は生きようと足掻き、そしていま、逃げているのだ。


 死なないように努力して、もし死んでしまったら、

 それはそれで、構わないとは思うけど……、

 でも、死ぬことが確実であると分かっていて、

 そこに飛び込もう、なんてことはしない。


 生きられるのならば、生きるべきだ。


 文句なんて、誰も言わないだろう――。

 言われたところで、気にしなければ問題ないのだから。



「さて、ここまでくれば逃げ――」



 と、その時のことだ。


 視界が歪む――、

           爆発――。

   ――真っ赤。

                    ――凄まじい風。

            ――熱。

    ――水。

             ――冷やされて、冷やされて、

      ――寒気を覚え、死を覚悟し、死神を見て、

                          ――俺は。


 俺、

 は。

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