expansion2 鳥鳥 その2
授業が終わって、ちょうど昼の時間のこと。
俺の肩を叩いて昼飯を一緒に食べようと誘ってきたのは、
大学で出会った、いつも明るい男であった。
俺はこいつのことを、『
名前から連想してつけたというのもあるが、
このあだ名にしたのには、きちんとした理由がある。
長く一緒にいる内に、恋敵の方から色々と話をするようになって――、
そして、その話の中に、
『自分は特に好意などを向けているわけでもないのに、
同性のやつから、いつの間にか、自然と恋敵にされている』
――というものがあった。
それを聞いて、ふうん、と思いながら、あだ名が決定した。
使っているのは俺くらいなものである――、
恋敵は、いつの間にか恋敵にされているだけあって、なかなかのイケメンだ。
なにも言わずに突っ立っていれば、モテるのが分かる……分かるけど、
しかし、話してみると分かるのが、こいつは絶対にモテないよなあ、と思わざるを得ない。
彼が話すエピソードの内容も、万人に受けるようなものではなく、
理解さえ、してもらえないような内容であるし。
それに、恋敵自身が、女性を避けているような時が、度々ある――。
俺は友達はいない方……いや、少ない方だけど、
しかし数人――、まあ、二人だが……女性の友達も、いるにはいる。
一度、恋敵をその二人に会わせてみたのだ。
結果は、いまでは予想通りと言えるものではあったが、
当時の俺からすれば、予想外と言うしかなかった。
恋敵はかちこちに固まって、
いつものトーク力が破壊されているような話し方だった。
女性二人の方はそれが面白かったのか、
二人の中では、『恋敵は面白い人』、との認識になっていたようだ。
恋敵の方は確実に、
もう二度と会いたくない人に、あの二人は入っていることだろう。
あんなに弱っている恋敵を見るのは初めてだった。
相手の弱点を知ると、なんだか親近感を抱くのは俺だけなのだろうか。
なんにせよ、その一件から、俺はなんだか、恋敵を見逃せなくなった。
恋敵の方は、ただの友達ではあるのだろうけど、
でも、俺の中では、親友にまでランクアップされている。
親友なんて、自分で言ったのは初めてかもしれない。
親友なんて、結局は友達と変わらないんじゃないかって……、
ただ単純に、言い方の違いではないか、と思っていたけど――だが、
恋敵を親友と決めたその時、
『親友』と『友達』の違いがはっきりと、俺の中で決まった。
手放したくない――、
変な意味ではなく、いや、充分、変かもしれないけど。
でも、決して変な意味ではなく、これは独占したいという欲求だろう。
その気持ちを抱く相手が、親友なのではないか、と俺は考える。
間違っていてもいいさ、別に。
間違っていて困るわけではない。
点数なんて引かれない、
評価なんて下がらない――ただ、正すのは自分。
そのまま突き進むのも自分なのだ。
俺は恋敵を、独占したかったのだ。
「なあなあ、バツ印、サークル、どこに入るか決めたか?」
「いや、まだ決めてないよ。興味を引くものがないと言えば、ないんだよね――、
全然、これと言ってなあ。
どれか選べと言われたら、途中で棄権するレベルでね」
お前もおれと一緒かーと、恋敵が俺の意見に同意を示す。
腕を組んで考える振り――、振りと言えてしまっている時点で、
考えていないということをすぐに分かってしまう俺は、どうなのだろう、気持ち悪いのか。
よく知っているだけなのだから、気持ち悪くはないのか。
「色々と見学してるんだけどよお、いまいちなんだよなあー。
――これ! とくるものがない。
売りって言うのかな、そういうのが欠けてるんだよ、インパクトがないんだ」
「サークルにインパクトを求めてるのか?
格闘技系に入れば、嫌でももらうことにはなりそうだけど」
「肉体にダメージを与えるインパクトはいらねえ!
心に響くインパクトが欲しいんだ、おれは!」
インパクト、ね。
確かにこの大学にあるサークルは、どこも身を縮めているみたいに小さくて、
遠慮しているような態度のところが多い。押しが弱いのだ。
普通ならば、チラシを配るだけでは終わらず、
これは俺の勝手な想像だが、無理やり入らせるサークルだって、あったっていいはずなのに。
だが、全然、そういう気配が微塵もない。
まるで嫌われたくないから、とりあえずは誘うけど、去る者は追わず、みたいな感じだ。
それが校風なのかもしれないが――、しかし、親切設計過ぎるかもな。
そのせいで俺や恋敵みたいな、うろうろと、どこにも入らず、なにもせず、
暇を持て余しているようなやつが出てくるんだ。
こんな俺たちを作ってしまったのは、
この大学のサークルに所属している全員ですよ――と、責任転嫁してみた。
自分が悪いことは分かっているが、
でも、人のせいにしてしまうのは仕方のないことなのだ。
当たり前の思考回路だろう。
「……回ってないところって、まだあるの?」
「あるにはあるけど……、というかな、探せばたくさんあるだろうぜ。
ここのサークル、馬鹿みてえに多いから。
おれは別に、全部に近い場所を回ったってわけじゃなくて、
たぶん、全体の、三分の一くらいだぜ、回ったところ」
ふうん、そんなものなのか。
インパクトがないない、とか言っていたが、
インパクトがないのではなくて、恋敵が見たサークルでは、
たまたまインパクトがなかったと、そういうことなのではないのだろうか。
そうだろと思う。
そうとしか思えない。
「インパクトと言えば、
さすがにあれは、インパクトがあるんじゃないの? 恋敵――」
「ん?」
と、恋敵が喉を鳴らしながら、俺が指差した方向を見る。
指の先には、ガイコツを大量に体にぶら下げて、
死神が持っていそうな大きな鎌を二本、肩にかけていて――、
パンプキンのヘルメットを被っている――あれは、なんだ?
体のラインを見て判断すれば、女性、が、俺たちの目の前に立っている。
インパクトは、ある――というか、あれはもう、ギガインパクトだった。
それを見て、関わりたくない、と、恋敵が首を左右に振る。
それについては俺も同感。
たとえあの、奇妙な格好をしている女性に用があったとしても、
近寄りたくはない、と思ってしまう。
離れて離れて、無関係を作り出し、
今後、一生会わないようにと気を遣う生き方を選択するだろう。
しかし、そう上手く、事が運ばないのが人生である。
自分が組み立てた未来設計通りに時は進まない。
時が逆に進むことはないが、自分が敷いたレールを、
なぜか逸れて進むことは、多々ある。
望んでもいないのに、望むわけがないというのに。
なのにもかかわらず、人生というのは、自分が思っているのと、反対――、
最悪に突き進んでいく。
そしていまも、俺たちの意思なんて関係なく、
それはもう意見を押し潰すかのようにして、理不尽が襲来した。
奇妙な格好をした女性が、俺たち二人に気が付いた。
とは言うが、最初から女性の方は、俺たちの存在には気づいていたし、認識はしていた。
いま、俺たちに気づいたというのは、認識したという意味ではなく、
女性の狙いの的の範囲に、俺たちが入ったということである。
狙われて、いま、襲われる光景が頭の中で再生された。
もしかして、あの鎌で俺たち二人を、ぐさりと――はないかもしれないが、
しかし幸福が訪れるとは、とてもじゃないが思えない。
不幸に包まれる気がした。
逃げられない、袋の鼠。
俺と恋敵は、女性が近づいてくることが分かっているというのに、
逃げることができずに、その場で立ったまま、相手を待つことになってしまう。
すると、待ち合わせのようなノリで、女性の方が声をかけてきた。
「君たち、ここでなにをしているの?
こんな時間に、ここでうろうろしているということは、
もしかして、サークルに入っていないとか、そんな感じ?
だったらだったら、私のところに入らない?
見て分かる通りに、『オカルト研究会』なんだけどさっ」
オカルト研究会――、
ああ、だからそんな格好をしているのか、と納得しかけたが、
いや、よく分かっているわけではないから確かなことは言えないけどさ――えっと、
オカルト研究会って、そんな格好をするのだろうか?
常識ではない、ここの、このサークルだけの仕様なのかもしれない。
そんなことはどうでもいいことか――と切り捨てて、
それよりも、俺としては見た目が不気味だったからこそ、
中身もそれ相応に不気味だと勝手に思っていたが、
中の人は普通に良い人そうで少し安心。
まあ、安心安心と言うことも、信じることも、
相手のことをよく知らない現状では、確定して言えることではなかったが。
でも、悪い人ではなさそうだ。
「オカルト研究会って、なにをするところなんですか?」
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