※以下、即興ではありません。

extra1 休み時間

「みんなは時間を平等に所持している。

 いきなりな話だけど、これは切っても切れない、離したくても離せない、

 そういう類の話であって、そういう類の決まりごとであるんだよ。


 自分にはまったくもって関係ない……そう思っているのなら、認識を改めた方がいいね。

 すぐさまだ、すぐさま改めろ。脳に刷り込め、時間と自分は、鎖で繋がれている、

 そう、一心同体のようなものだと。


 ……しかしまだ、君は関係なさそうな顔をしているね。

 そこまで難しい話をしているつもりはないんだが、これは私が悪かったりするのかい? 

 いきなりで、本当にいきなりで、分かりづらかったのかい? 

 それならば、非はこちらにあるが、そうとなれば、説明した方がいいだろうね。

 私が言う、時間と人間の関係を。


 だから関係なさそうな、興味のなさそうな、

 そんな風に、うんざりとした目で見るのをやめてくれないかな。

 私はね、人になにかを言われるのはいいんだよ。

 言葉とは便利なものでね――そして、不思議なものでね、

 色々と、言葉は同じでも、解釈の違いがあるからね。

 きつい言葉を浴びせられても、それが照れ隠しとして出た言葉と考えてみてごらん? 

 ほら、きつい言葉も、好意と捉えることもできるだろう? 


 とまあ、いつの間にか言葉に主軸を置いた話にシフトしてしまっていたようだが、

 とりあえず言いたいのは、私は言葉で罵倒されたり文句を言われたりするのは、全然、がまんできるんだ。いや、言い方が違うかな、別にがまんしているわけでもないしね。

 ――そう、平気なんだよ。

 ただ、無言はだめだ。表情から気持ちを汲めないこともないけど、

 私はそれを最も苦手としている分野でね。

 無視や、さっき言ったようなうんざりとした目、あれはダメだ。


 やめてくれ。

 私の調子が狂うから。


 ――ふふっ、言って、直してくれたということは、

 君はなかなか、素直な人格をしているということだね。

 私の中で好感度が一気に、ぐいっと上がったよ。

 ただ気を付けて、好感度が簡単に上がるというのは、逆に、下がるのも簡単ということだよ。


 だけど、私は例外でね、たぶん私はきっと、君のことは、嫌いにならないと思うよ。

 なぜかって? ふふっ、それを私に言わせるのかい? 

 ――いやいや、ごめんごめん。

 だからそんな、からかうんじゃないよ、的な目をするのはやめてくれないかな。

 そこは口を挟んできてくれてもいいところだけどね。


 おっと、そう言えば時間と人間の関係――、それを丸投げにしたままだったな。

 君も、私が話を脱線させていたら止めてくれても、軌道修正してくれてもよかったのに。

 物好きなものだねえ、私の話がそこまで面白かったのかい? 

 だとしたら、話好きの私としては、跳び上がるほどに嬉しいものだけどね……、うん? 

 ああ、今度はきちんと示してくれたね。


 しかし、手を挙げることで話の脱線を知らせるとは、

 なかなかにテクニシャンではないか? 

 それに、それをきちんと読んで、理解する私もすごいのではないかな? 

 すごいのではないかい? すごいと思うかい? 


 ……ああ、分かっているよ。顔を近づけたのは謝るよ。

 だからそんな、手でバッテンをしないでくれよ――、傷つくじゃあないか。


 あ、いま、失礼なことを考えているんじゃないのかい? 

 私は、傷つくような心は持っていない――、とでもさ。

 まあ、実際、こんなことで傷つく私ではないのだけど。

 そんな貧弱な私ではないからね。


 さて、そろそろいいかな。

 これだけ話しているだけでも、もうこれで、三分ほどは経ってしまっているからね。

 時間とは早いものだね。そして、人間はその時間を、大事にしている人が少ないよね。

 見てごらん、今だって。

 この教室の中で、自分のやりたいことを好きなだけ、

 自由気ままにやっている人が、どれだけいることか――。


 まあ少ないけど、やっている人がいると言えば、いるのだけどね……でもね、

 それが落とし穴と言えるんだよ。

 あっちが立てば、こっちが立たず、みたいな話だけど、

 まず、時間を大事に使う、それは無駄な時間を過ごさないということを指す。

 それはつまり、自分の好きなことをしている時間だ。

 君みたいにこの時間に眠っているのも、

 それがやりたいことならば、完全に無駄だと言えることではないけど、

 でも、君だって夜から朝まで眠っていたんだろう? 

 別にわざわざいま、することではない。


 君はいま、やることがないから仕方なく、

 自分の中で優先度が高いだろう睡眠をしているわけだ。


 いまやりたいことがあってもできないから――だから。

 なら、やればいいじゃないか、と言われて、

 自分の好きなことをするわけだけど、さて、そうなると問題が出てくるんだ。


 自分の一つの行動が、周りにまったく影響を与えていないと思うかい? 

 ああ、答えを聞く気はないから考えなくてもいいよ、

 君はただ、私の話を聞いてくれていれば、それでいい。


 そう、聞き手でいてくれればいいんだよ。

 で、答えはね――否だ。

 行動一つで影響を与えている。


 大げさに言えば全てに。

 大げさに言わなくとも、全てに。

 全てとは――、そう、全てだ。

 それ以外に、示す言葉はないだろう。


 全部ということであるからね。

 たとえばの話だけど――、あの子、あの楽しく友達と話している女の子には、

 今日の夜までの行動が決まっていて、運命とでも言うのかな、

 そういうのが、もう決まっている。


 最初から決められていた、というべきかな。

 けれど、もしも君が、この消しゴム――、

 この私が持っている消しゴムを床に落とした場合、

 それを拾おうとした君のその行動が、彼女の運命を、歪ませてしまうかもしれない。


 ――あり得ない話だと思うのは、君の自由だから好きにすればいいけどね、

 だが、そうなる可能性が、ゼロだとは言えないはずだよ。


 そうだろう――君は。

 言えないはずではないのかい? 


 だって、君が消しゴムを拾うことによって、

 ずっと眠っている予定だった君の運命は、予定通りとはいかずに、変わっている――。

 体の中にあるエネルギーが変わってしまうんだよ。


 行動が決定されているのならば、使うエネルギーも決定されているわけで――、

 そう、消しゴムを拾うというエネルギーを、消費してしまった。

 そして、捻じれる、運命は歪み始める。


 そこからは全ての運命が狂っていくんだ。

 きっと君は、予定通りの行動を起こすことはもうできない。

 そして君が、イレギュラーな行動を起こしたことで、

 みんなの運命が変わり出し、あの子が今日、命を落とすかもしれない。


 ……ふふっ、そう怖い顔をしないでくれよ。

 これはもしもの話だ。

 たとえばの話だ。

 なにも、そうなるというわけではない。


 そうなると分かっていて、知らんぷりしようというわけでもない。

 目の前で死にそうなっていれば、できる範囲ならば助けるけどね。

 まあ、できないのならば仕方なく、諦めるけど。

 これは人間として、当然の思考回路だと思うけど、君は違うのかい? 


 ――ふふっ、私が異端だとでも? 表情で分かるよ、君はそう言いたそうだ。

 まあ、いいんだけどね。

 だから君みたいに、なにもせずに眠っていることが、

 案外、いちばん運命通りに人生を進ませるのに適しているんだよ。

 下手に大胆な行動を起こさない限りは、運命は変わらないんだからね。


 けど、他人の介入もあるから、油断もできないわけだが。

 運命は簡単に変わってしまう。手懐けるのは、難しいんだよ。

 それが人と時間の関係――、そして、最初に言ったことをそのまま引用すれば、

 君は時間を所持している。


 みんなと同じ、時間を。


 確かに、運命を変化させないようにと、眠っているのはいいけどさ、

 しかし君は、それでいいのかい? それで楽しいのかい? 


 それが、君の人生かい? 

 眠っているだけじゃあ、変わらないさ――、運命なんて。


 人生なんて。

 でも、多少、冒険して。

 たとえあの子が死んでしまう運命に変えてしまったところでも、

 それでも、動いてみるのがいいのではないかい? 


 だって運命とはね、変えるものなのだからさ――」



 それを聞いて――、


 僕は。

 ぼくは。


 俺は。

 おれは。


 私は。

 わたしは。


 わたくしは。

 あたしは。

 あたくしは。


 自分は。


 儂は。

 わしは。


 我は。

 わらわは。


 あては。

 わては。


 わいは。


 わだすは。

 あだすは。


 わすは。

 うちは。


 おいらは。

 おらは。

 おいは。


 拙者は。


 某は。



 彼女に――聞いた。



「――いやいや、神様なんて呼ばないでくれよ。

 そんなものじゃないさ、あんな下劣な呼び名で呼ばないでくれよ、吐き気がする。

 だから――、


 私は神様なんかじゃない。

 もっと上なんだよ、様々な世界にいる、君たち」


 そして、彼女は言う。


 ――彼女たちは言う。


「私は世界の――、

 そう、『全て』という存在の、一片さ」

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