case12 反政府軍
私が愛したのは一人の男だった。
その男は二次元でもなく三次元でもなく、
私が理解できないような、兵器という機械が大好きで、
まるで憑りつかれたように、そのことしか話さなかった。
彼の話を聞いている内に、私も段々と彼の好きなことを好きになっていったのだが、
けれど兵器を好きになったところで、どうしようもないのではないか、
という不安があったのだが、だけど、彼は言った。
「僕と共に兵器を作ればいいのさ。
そうすれば、それを仕事にできるし、他の人の役に立てるはずだよ」
「他の人?」
という私の問いには、
彼は「そうそう」としか言わなかった。
私はてっきり、軍隊とか政府とか、そういう上の役職の人かと思っていたのだが、
なんとも、そういうわけではなく、
彼が兵器を作っていたのは、なんの力も持たない、子供たちだったのだ。
子供に銃を渡し。
子供に戦車を渡し。
子供に爆弾を渡し。
最初の頃は私も色々と文句を言ったのだが、けれど彼の話を聞いている内に、
私も彼がおこなっていることが正義だと感じ始めていた。
確かに、今の社会というか制度というか、法律は理不尽だと思う。
子供には力がない。それは自分の力では、身を守れないということだ。
だから彼は武器を作り、兵器を作り――、
それを子供たちに渡しているのかもしれない。
それからというもの、子供たちは確かに強くなった。
強くなったのだが、しかし、
その強さはあってもいいものなのかと、疑問に思うようになった。
強い。
けれど、強過ぎではないだろうか。
「いや、いいんじゃないかな。
これが本来の、あるべき姿なのだろうと思うよ」
彼は言う。
笑いながら、楽しそうに、楽しそうに。
まるで、誕生日にプレゼントをもらった子供のように、笑っていた。
それから子供たちには、武器を渡し続けて、
子供たちは、政府も、軍隊も、潰しにかかった。
それも真正面からではなく、不意を突いたような作戦で。
全ては彼の指示通りに。
私はもう、止めることができなかった。
好きなようにやらせようとしたのが、失敗だったのかもしれない。
いつの間にか、彼と私が率いている子供たちは、反政府軍隊として名を上げていった。
おもしろいほどに、世界中の支持を集めることができた。
「これで、準備が整ってきた」
「なにをしようとしているの? あなたは、どうして――」
彼は答えない。
まるで、ロボットのように呟くだけ。
必要事項を言うだけの、感情がない、ロボット――。
そこで気づいた。
彼は。
彼は。
私が愛した彼は――、自分の体まで、兵器とした。
作り変えた、自分の肉体を。
「潰す、壊す、世界中を、支配する」
彼はいない。
私が愛したのは、人ではない、なにかになってしまった。
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