case11 妖怪ホテル
「いらっしゃいませー。
こちら妖怪ホテルでーす。予約の方ですかぁ?」
「ああ、そうだ」
「お名前をどうぞ」
「ぬらりひょん」
「それではこちらでーす」
女性店員――、新人社員が大きな、元気な声でお客様を案内していった。
元気だなぁーと思いながら、俺は鳴り響いた電話の受話器を取った。
『もしもし。あの、明日そこで泊まりたいんですけど』
ちっ。お客さんか。正直、めんどくさい……、
「正直、めんどい」
『あの、声に出てますよ? 確かに面倒でしょうけど!
あたしだってたぶんそう思うけど!
それは仕事として割り切ってもらえませんかねぇ!?』
「あーはいはい。分かりましたよ分かりまっしったっよ!」
『なんでホップステップジャンプみたいなノリなんですか!』
うるさい客だ。クレーマーか?
『はぁ。いいですよ!
で、明日、泊まれるんですか? 泊まれないんですか?』
「えーと――すいません、残念ながら……」
『あ、そうですか。確かに無理ですよね、この時期に泊まれるなんて。
あはは、じゃあいいで――』
「一部屋、空いてますよ」
『空いてんのかよっ! なんだよ、勘違いするような態度を取るなよ!』
「え? なんのことでしょうか?」
『コイツッ! あーはいはい、分かりました。泊まりますけど』
「じゃあお名前をどうぞ」
『雪女』
「あ、初対面ですね」
『だろうね! しかも電話越しだから対面していないんだけどね!』
「で、何時にくるんですか?」
『どうしようかなぁ。夜――、うーん、夕方くらいには着くかもしれないし』
「三、二……」
『ちょっと待て! なんでカウントし始めたのあんた!』
「おっせぇな、と思って」
『だから、思っても言うんじゃねぇよ! なんだあんた! 店長を呼んでこい、店長を!』
「え、でもぉー」
『いいから早くしろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!』
あーあー、まったく。
仕方がないな。
俺は受話器を置いて、立ち上がり、またすぐに座る。
そして、さっき置いた受話器を取り上げ、
「お電話代わりました店長でーす」
『お前じゃねぇええええええええかああああああああああああああッッ!』
耳にきんきん響く。声がでけぇなコイツ。
『あたしは店長を出せって言ったの! なんでまたあんたなのよっ!』
「もう答えは示されてると思うけど――えー、言った方がいいのぉ?」
『当たり前だボケ! さっさと言えって!
じゃないとあんたのホテル、雪で凍らせるわよ!?』
されたところですぐに解かせるんだけど――、まぁ、それは言わないでおくか。
「申し訳ありませんー。――で、なんでしたっけ?」
『店長! 呼んでこい!』
「はーい」
俺はまた受話器を置き、また手に取る。
「お電話代わりまっしたー」
『お前じゃねぇかぁあああああああああああああッッ!』
「え? 俺じゃないですよ?」
『俺って言ってんじゃん! なんなの? 馬鹿にしてるの!?』
「少しなら」
『ぶっ飛ばすわよ!』
「それで。もう分かったでしょ?」
『なにが?』
「店長、俺」
『……』
「……」
『明日、夜七時にいくわ』
「まいどー。夜ご飯にはアツアツを用意しておきますね!」
『笑顔で殺人予告をするな! あたしは雪女!』
「ではでは。待ってますー!」
『切るなぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!』
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