case8 鳥鳥

「やっと死んだか」


 隣にいた鳥――、カラスがそう呟いた。


「いや、やっとって。案外、酷いなお前」

「だって、やっと死んだかって感じじゃね?」


 ま、確かにな。

 色々とうるさかったし。


「あいつ、飛べよ飛べよって無理だよ――だって俺、ペンギンなんだから」

「もしかして、あいつ知らなかったんじゃね? お前がペンギンだってこと」


「えー。マジか。俺のこの容姿で分からないって、どういうことなんだよ。

 俺、何回も言ったぜ? ――俺、ペンギンっす、って」


 何度も何度も言ったはずなんだけどなあ。

 死んだあいつは、

「違う! お前はきっと飛べるはずだ!」って――いや、無理だろ。


「そもそも、飛ぶ必要なんてないんだから、別にいいじゃんって思うんだけど――、

 お前はどう思う?」


「まあ、確かに飛ぶ必要なんてないと思うけど……、だってお前の生息地って海でしょ? 

 いや、オレは街中で飛んで移動する種類だから仕方ないにしてもさ。

 でも、やっぱり進化していかないと。そういう時代なんだから」


 そういうもんかなあ。


 進化って。

 俺、街で住む気なんてないんだけど。


「あれ? お前、こっちに引っ越してくるんじゃないの?」


「いやいや。誰がそんなこと言ったんだよ。

 俺、だって南極にいるぜ? 

 たぶんこれからもずっと。

 今日はたまたま、あいつの葬式にきただけだよ」


「でもさっき、お前の母ちゃんに会ったら、

『近いうちにこっちにくるわよー、おほほほほ』とか言ってたけど?」


「あのババア、口から出まかせ言いやがって」

「で、お前自身はこっちにくる気はないのか?」 


 ないね。

 と言いたいところだけど。


「最近、南極も危ないからなあ。

 こっちら辺の海にはきたいと思ってる。

 なんだかんだ言って、都会ってのは憧れの場所だからな」


「なら、こいよ。オレが案内してやる」

「きたら、な」


 それよりもだ。

 あいつが死んでしまったら、たぶん、世界中の鳥たちが暴れるかもしれない。


 いま、いちばん心配なのはそれだ。


「なんだかんだで、あいつは世界中の鳥たちのストッパーみたいなものだったし。

 いなくなったらなったで、反乱が起きるぞ」


「カラス派閥があって、それが二つに分かれてるんだろ? 

 このまま、いままでの通りに暮らすか、それとも変えるか。

 あいつが残した制度も、どうするか、だしな」


 意外にも大きな問題だ。


 俺たちペンギンもそうだ。

 二つの派閥に分かれていて、どうするか、大議論中である。

 この前は一回、戦争にまで発展しそうだった。


 まったく。

 いきなり死にやがって、あいつめ。


「どうする?」


 カラスが聞いてきた。


「どうするって」

「このまま黙って見てるわけじゃないんだろ?」


「まあ、な」


 じゃあ、どうするって言うんだ?


「二つにも属さない、新しい派閥を作ってしまえばいい。

 それなら、オッケーじゃねぇか?」


「……乗った」

「そうこなくっちゃ」


 賛成でもない、反対でもない、どちらにも属さない、新しい派閥。


 中立を作る。


 それは――世界を整える、鍵になるかもしれない。


「なら、まずは仲間集めだな」

「じゃあ、誰のところにいく?」

「とりあえず」


 俺は、同類を指名した。

 その方が安心するし、そいつとは仲が良かったからな。


 俺と同じで飛ぶことのできない――あいつ。


「ニワトリに声かけようぜ」


 飛べないからって、なにもできないとは限らないんだからな。

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