case4 現代玉手箱
「なにを悩んでいるんだよ?」
「いや、お前がそれを言うか」
まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったからね。
いや、さすがに俺だってこんなこと、起こるはずがないと、
そう思っていたつもりなんだけど。
にしても、これはないぜーと、文句を言う権利はあるんじゃないだろうか。
簡単に。
誰にでも分かるように言うのは、
道を真っ直ぐに歩くのと同じようなものだとは思うけど。
それくらいに簡単に言うことができるけど。
しかし、だ。
言ったところで信じる――、信じてくれる人は少ないだろうとは思う。
一体、誰が信じてくれるというのか。
「いくらなんでもこれは酷いと思うぜ? 友よ。
お前は今から俺の恨みの対象になったわけだが、どう思っている?
どういう心境をしているんだ?」
「あはは――って、笑うほどにおもしろいとは思っているよ」
こいつ、ぶっ飛ばしてぇ。
「元に戻せ。じゃないとナイフでグサリといきそうだ。
この衝動を抑えることはできそうにない。だから早くしろ。マジで」
「なにを焦ってるんだよ。お前らしくもない。
この大学の首席がなにを戸惑っているんだ?」
「だからお前のせいなんだよ!」
俺は見たくもないが――、それをがまんして鏡で自分の姿を見た。
太っていた。
髭が生えて――ハゲ始めている。
まぁ、おっさんだ。俺は――おっさんになっていた。
「俺は二十一歳で、自分で言うのもなんだけど、かなりモテてたはずなんだ。
なのになんだ、この状況は。俺はおっさんじゃないか。
推定で言うが、四十、後半くらいじゃないか。どうしてくれるんだ、えぇ?」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃねぇよ。どうにかしろってんだよ。
お前の研究に付き合った俺が馬鹿だった。
こうなるならお前と付き合うこともなかったのに。どうしてくれるんだよ!」
「おいおい、首席とあろうものが――、
冷静になることもできなくなってしまったのか?」
あん?
なんだ、その余裕は。
「歳を取る薬を僕は作ったよな? まぁ、玉手箱――、浦島太郎のあれだ」
「それはどうでもいい。で、なんだよ?」
「僕は、歳を取る方法というのを見つけているということじゃないのかい?
だから、薬を作ることができた――違うか?」
なにが言いたいんだ? 俺にはさっぱりだ。
首席だとか、なんだとか言うが、
結局、勉強ができるだけなんだ。あまり買い被られても困る。
「いや、お前は実際すごいよ――と、おっと。
こういうのはあまり好きじゃないんだったな、お前は。
まあ、話を戻すけど、歳を取る方法を知っている。
ということは、逆もまた――、と思わないか?」
ああ、なるほどね。そういうことか。
「元に戻す方法もきちんと用意してあるということか」
でも、それは当たり前のように感じるけど。
だが、今は突っ込まないでおくか。
「じゃあ、頼む」
「はい、これ開いて」
「さっきと同じ方法というのが恐いけど、そうも言ってられないか」
俺は手渡された玉手箱――らしき箱を受け取り――開ける。
すると、もくもくと煙が吹き出し、俺を取り囲んだ。
――そして。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
あう、あう、あうあうあううううううううううううううううううううっ!?
「ありゃありゃ、失敗失敗」
ッ!?
あう――、
「今度は赤ちゃんまでいっちまったか。
でも、ま。これはこれで――いい結果だよね? 親友」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます