case3 かくし芸

「――さぁって、はじまりましったぁああああああああああああっ! 

 今年の演技大会! 簡単に言い換えてしまえば『かくし芸大会』というわけですが、

 みなさんっ、もりあがってるぅううううううううううっっ!?」


 マイクをくるくると回しながら、うさぎの耳をつけた女の子が、大きな声で叫ぶ。

 その声が響いた次の瞬間には――、

 およそ百万人の人間が一斉に、


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 と叫び出した。


「さてさてっえ! 盛り上がってるところでぇ! まずは、一番手の人どうぞーッ!」


 扉が、ゴゴゴ、と開いた。

 その中から出てきたのは、一人の老人。


 彼は構えを見せ、一呼吸をおいてから、


「はいや! ほっ! はぁあああっ!」


 前蹴り、足払い。

 人を痛めつけられる技を五分間に渡って演技してみせた。

 老人は満足そうな顔を浮かべる。

 盛り上がりには欠ける――が、まぁ、一人目だ。そういうこともあるだろう。


「さてさてさってぇええええええッ! 演技が終わりましたぁっ! 

 それではみなさん、ポイントをどうぞ! ちなみに一人、一ポイントでっす! 

 百万人、ここにはいるので、五十万ポイントは欲しいところです! 

 さぁってぇっ、このご老人は、一体、何ポイントなんでしょうかっ!?!?」


 観客の人々が、一斉にボタンを押す。


 だだだだだだだ、と、ドラムロールが流れ――、

 ポイントが画面の中央に表示された。


「では――どうぞぉっっ!」


 ――四十八万ポイント。


「うっそ、だろ……?」


 老人の声が微かに聞こえた。

 観客からひそひそと声を殺したような話し声が聞こえてくる。


 老人の耳にはしっかりと届いていた。

 ――五十万ポイントに届かなかった――ああ、やっぱりね、あの人、死ぬね――と。


「うそ、うそうそ、うそうそうそうそ! 

 うそだぁあああああああああああああああッ!?」


「足掻かないでくださいよぉ! 五十万ポイントにいかないんですから、

 これが現実ってヤツです。

 さってぇ、それでは敗者にぴったりの、罰ゲームのお時間でぇぇぇぇぇぇぇぇっぇえす! 

 みんさん録画はしないでね。してもいいけどトラウマになるからやめておいてねぇっ!」


 やめろやめろと叫ぶ老人の腕を掴み、ずるずると引きずっていき――、

 首を一刀両断するための、ギロチン台へと連れていった。


 それを見ている観客。

 中には顔を青ざめている者がいれば、

 げらげらと笑っている者もいる。

 これが、このかくし芸大会の本質だった。


「さてさてぇ、それじゃあお待ちかね、みなさんカウント、どうぞーっ!」


 そして、会場が一つになった。


 十、九、八……、

 ……、


 五、四、三、


 二、


「待ってくれ、まだ死にたくないっ、

 まだ助かる時間はあるはずだ! 頼む、もう一回だけチャンスをくれ! 

 お願いだ! お願いだ!」


「うるさいなぁ、もう諦めてくださいよ、これが、今年の大会なんですから」


 一、

 〇。


 シュン――という音とともに、


 ごろんと。

 首が落ちる。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 会場が盛り上がる。


「さてぇええええええええええええええっ、次は二番目の挑戦者、

 お願いしますぅうううううううううううううううううううううううッッ!」


 そして、二番目の挑戦者が呟いた。



「いかれてやがる……!」

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