36作品目

08話.[いいことばかり]

「へえ、付き合い出したのか」

「うん、なんか許可してくれてさ」

「おめでとう、零くん！」

「ありがとうございます」

　本当にどうして許可してくれたのかが分からない。

　だから家に帰った後、頬を引っ張って確認するみたいなベタな反応をしてしまった。

「抱きしめるぐらいはしたんだろうな？」

「うん、したよ」

「おお、珍しいな」

「あとは一緒に寝たかな――って、なにその顔？」

「お前、本当にあのヘタレ野郎の零か？」

　どっちも彼女が言い出したことだと告げたら「だろうな」と失礼な反応をしてくれた。

　僕だって勇気を出したんだから。

　彼女は驚いていない的なことを言っていたが、滅茶苦茶頑張って抑えていたんだ。

　もし抑えていなかったらもう、ふふ、って感じになっていたぞ！

「……余計なことを言わないでちょうだい」

「言ってないよ」

「七星ちゃんおめでとう！」

「ありがとうございます。ただ、……本当にどうして零君のことを好きになったのか分からなくて。だって情けないじゃないですか、女々しいというか、男の子らしくないというか」

　む、わざわざそんなことを言わなくてもいいのに。

　僕以上に積極的に動いていたのが彼女だぞ、付き合えたのだって彼女が言ってくれたからだ。

　だというのにこんな……、好きなら好きでいいじゃないか。

「分かるぞ」

「でしょう？　でも、基本的に私ばかりが彼のためにしてあげていたというのになんでか……」

「駄目な男が好きなんじゃないか？　ま、そいつで良かっただろ、金遣いが荒かったり、暴力を振るうとかって問題はない奴だからな」

　当たり前だ、他人に対してそんなことできるわけがない。

　とりあえずは報告も済んだからと彼女を廊下に連れて行く。

「なによ？」

「まあまあ」

「こっち来て」

　付いていったらそのまま抱きしめられた。

　あんなことを言っていたのに結局甘えん坊なのは彼女の方だ。

「なんでかは分からないけれど……私が好きなのはあなただから」

「うん、心配してないよ」

「でも、なんでかしら……」

「うーん、確かに僕も不思議に思うよ」

　彼女が言っていたようにしてもらっていたのはこちらの方だし、撮影に付き合っていたと言っても付いて回っていただけ。

　そこで気の利くような行動や言動ができたわけではないし、分からないな。

「あ、海に優しくしてくれたからかも、海もあなたことを好きになってくれたから」

「それじゃあいいことばかりだね、海君のことは僕だって好きだし」

「……私は？」

「好きに決まっているでしょ、そうじゃなければあそこまでアピールしたりしないよ、ヘタレだしね」

「ならいいわ」

　彼女の頭を撫でて安心させる。

　どれぐらい効果があるのかは分からないものの、少しでも力になれたなら良かった。