03話.[しれないけども]
「うぇぇ……」
「元気ないな」
自分でしてしまったことを考えればそりゃ元気も出ない。
別に童貞云々はどうでもいいが、少なくとも人生で1度ぐらいは付き合ってみたいのだ。
なのに僕ときたら、はは、非モテである理由がよく分かって良かったけどね。
「朱夏が作ったクッキー、食べるか?」
「いや、いいかな、人の彼女に甘えるとか情けないし」
「重症だな、お前が朱夏作クッキーを食べないなんて」
両親からは貰ってきてくれって言われているが、できるわけがない。
馬鹿には貰う資格なんかない。
「よし、今週の土曜日にどっか行こうぜ」
「部活は?」
「珍しく休みなんだ、ゲーセンにでも行けば元気になるだろ」
土曜日か、あの子はひとりで色々なところに行くのかな。
それとも、無防備なところもあるからまた知らない男子を誘って行くのかな。
誰かと仲良くしているところを見たくないな、でも、どうしようもないことだからなって考えて、結局大輝に甘えることにした。
あまりお金を使いたくはないが、たまにはいいだろう。
せっかくできた自由なときに誘ってくれているんだから素直になるべきだ。
大体、家にいたところで駄目になりそうだし。
――というわけで土曜日当日、僕らはゲームセンターにやって来ていた。
とはいえ、店内に入れば全て同じように行動するわけでもない。
長く遊べるからということで僕はコインゲームを選択し、ちびちびと投入しては獲得を繰り返していた。
「零、朱夏を呼んでいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
そりゃあね、彼女といたいに決まっている。
幸い、これで結構楽しめそうだから気にならなかった。
非モテなうえに心が狭い人間だったら終わるから。
ただ、千葉さんが大丈夫なのかどうか心配なのはあった。
……ナンパとかされないだろうか。
撮影に興味があるとか言われたら全く知らない人とも一緒に行動したりしそう。
「だーれだっ」
「朱夏さんですね」
「む、つまらないなあ……」
耳元で凄く大きい声を出されて分からないは、不自然過ぎるだろう。
後ろを向くとそこにはいつもの朱夏さんが。
服とかスカートとか可愛いな、こっちはお洒落全開という感じがする。
始まりがあれば終わりもある、コインが全て吸い取られて終わってしまったのもあって、外でひとりジュースを飲みながら休憩をしていた。
なんかふたりは音楽ゲームとかレースゲームとかを一緒にやっていて、まるで彼氏彼女のようだった、その通りだが。
「少しはマシになったか?」
「うん、今日はありがとう、馬鹿なことをしたなって駄目駄目な状態でさ」
「勿体ないよな、零に話しかける異性なんて稀有なのに」
だから非モテが後悔しているんじゃないか。
別に目の前でいちゃいちゃされてもむかつきはしないが、いいなあって見る度に考思ってしまうのが痛いところ。
「奢ってやるからもっと元気を出せ」
「ありがとう」
「大くんっ、私も私もっ」
「分かってるよ」
選ばれたのは近くにあったファミリーレストラン。
食欲があまりなかったからサラダを頼んだ。
ふたりはがっつりお昼ご飯っ、って感じの料理を注文していたけど。
「そうだ、この後俺の家に来るか?」
「いや、朱夏さんも大輝とふたりだけでいたいだろうからいいよ」
「そうか? ま、俺もたまには朱夏とゆっくりしたいから助かるけどさ」
それでもゲームセンターとかに誘ってくれたのは嬉しいな。
僕が女の子だったらまず間違いなく惚れてた。
ま、こんなことを考えたところで意味もないから捨ててしまおう。
ファミレスの外で解散にして、僕はひとり意味もなく蟻の行列を見ていた。
急に陰ができようと我関せずの蟻を尊敬したくなった。
「長く生きろよ、あとは馬鹿なことをするなよ」
いま女児とか男児とかの親がいたら通報されることだろう。
男がこんなことをしていると通報されかねないというのが怖いところだ。
リスクが大きいので家に帰ることにした。
「いま頃、大輝は朱夏さんに……」
ああやって僕に優しくしてくれている裏で朱夏さんを自由にしていると考えたら、正直に言ってやっていられなかった。
朱夏さんもあんなにこにこ笑顔で僕に話しかけてくれるというのに、裏では彼にしか見せないような一面が~なんてことがあるんだから。
名前を覚える気がないからあれだが、同じクラスの子たちだって同じように裏でなにをしているかなんて分からないのだ。
そう考えたら非モテや童貞や処女などはただ真っ直ぐに人生を生きているだけで綺麗なのではないだろうか。
……汚いみたいに言うのは問題か、そういう人たちからすれば「非モテがなんか言ってるぞ」で終わらせてしまえる話だし。
ま、現実逃避ぐらい許してくれよって言いたくなる。
それすらできなくなったらあとは潰れていくだけでしかない。
みんながみんな、相談に乗ってもらえる人間ばかりではないのだ。
また、このことを相談したところで急に変わるわけでもないのだから。
「寝よ……」
結局、ここに帰ってくるんだなって一種の感動すらしていた。
月曜日。
彼女はあくまで普通に学校に登校してきた。
けれど、土曜日になにがあったのかは分からないまま。
そして、近づいて来ることもなかった。
「早く帰れよ」
「大輝がやっているところでも見ていこうかな」
「別にいいけど暇だぞ? それなら早く帰った方がいいと思うけど」
どうせやることがないのだからなにかをしていた方がいい。
校門寄りのところで朱夏さんと遭遇したものの、今日は用事があるということで走っていってしまった。
浮気……、なわけないか。
彼はサッカー部に所属しているが、まだスタメンというわけでもないようだ。
他の人の顔も名字名前もどういう人なのかも分からないからなのかもしれないが、大輝は本当に分かりやすくそこに存在していた。
なるほどと思った、つまり存在感が重要なのだと。
「長谷川君」
ああいうのは一朝一夕でなんとかなるものじゃない。
頼まれてもいないのに動き回っても迷惑がられるだけだろう。
「長谷川君?」
「あれ、いつの間にここに?」
「歩いていたらあなたを見つけたの、あなたこそ珍しいじゃない」
「うん、早く帰ってもやることがないからさ」
彼女は自分の高そうなカメラを首からぶら下げていた。
そのストラップが揺れたりしたら不安になりそうなものだけど。
あとは耐久性か、ぶちっとなったりしないのかなとこちらが不安な気持ちに。
「なるほど、大槻君を見ていたのね」
「たまには友達が部活をしているところを見てみようかなって」
流石に人を撮るようなことはしないようだ。
なんか色々ごちゃごちゃしていてリスクが大きいからなのかもしれない。
まあ、趣味程度、誰にも見せないのなら――駄目か。
「土曜日、楽しかったわ」
「へ、へー」
「やっぱり遠くに行ったりすると新鮮なことが多くていいなって」
「そうなんだ」
彼女にとって僕ってなんなんだ?
ただのクラスメイトなのは分かっているが、それだけならわざわざこうして報告なんてしないと思うが。
「でも、誰かがいてくれるともっといいわね」
「お母さんとかを誘うのは?」
「共働きだから無理なの、呼べる友達もいないし……」
勇気のある人間ならここで「自分ならどうかな!」って言えるんだろう。
でも、僕には無理だ、真顔で断られたら引きこもりたくなる。
「こういうときこそ、ネットで同じような趣味の人を探せばいいのかしら?」
「うんまあ、そうだね」
友達でもなんでもない自分から危ないからやめなよ、なんて言えなかった。
彼女は彼女で上手く躱すだろう、僕には関係のないことだ。
これ以上いても表裏の差が凄くなるばかりだったので帰ることに。
大輝は頑張っていた、これが分かっただけでも十分なはずだ。
「なっ!?」
朱夏さんを発見して話しかけようとしたら後からすぐに男の人がやって来て横に並んだ。
それはいいのか? セーフなのか?。
大輝に言うつもりはないが、もう少し探る必要がある。
彼女にはお兄さんとか弟などはいないため、どう考えても家族以外の人間だからね。
うーん、手を繋いだりはしていないし、大して楽しそうな雰囲気でもない。
一瞬、彼女がこちらを向いたものの、隠れたりはしなかった。
……こっちに気づいたときのあの顔、ああいう風にしてくれると分かりやすくていい。
「あれ、先輩じゃないですかっ」
どういう人間なのかが分からないから先輩呼びで近づく。
先輩なのだからなにもおかしくはない、あとは過度に話しかけたりもしない。
「零くん……」
「この人は誰ですか?」
この演技でどうにかなるなんて考えてもいなかった。
「あ、同じ学年の子なの」
「なるほど、それでどうしてあなたは先輩といるんですか?」
「どうしてって言われてもな、友達になりたいからに決まっているだろ?」
彼女は慣れない人が相手だと表情に出しやすい人だ。
不安なだけなのかもしれない、とはいえ、そうですかで帰れない。
「今日は先輩と約束があったんです、今日のところは諦めてくれませんか?」
「約束があったのに別行動をしていたのか?」
「そこですよそこ、先輩が先に帰ってしまって探したんですよっ」
「はぁ、まあそういうことならしょうがないな、今日は諦める」
「ありがとうございます」
これ、必要だったのかな。
言ったら簡単に聞いてくれたわけだし、こんなのじゃ異性のために動く僕格好いいって言いたかったみたいじゃねえかよ。
とにかくあの人が去ってくれたので彼女の方を見る。
「すみません、余計なことでしたね」
なにかを言われる前に必殺の謝罪もして。
「用事があるんじゃなかったんですか?」
黙ったままではなにも分からない。
とにかく今日は片付いたのだから帰ればいいか。
彼女がいま一緒にいてほしいのは今回のことがなくても大輝なんだから。
「あ、ま、待って」
「うわぁってなっていたんじゃないんですか?」
「いや、助かったよ、あの子が付きまとってくるからさ。家を知られたくなかったから歩いて歩いて、歩いていたときに零くんが来てくれたからね」
「あ、じゃあ、非モテが変に格好つけただけで終わったわけではないんですね、良かったです」
よくありがちな「友達だよ……?」とか言われなくて良かった。
そうしたら軽く死ねた、恥ずかしくてもう朱夏さんといられなかった。
まず間違いなく引きこもっていたから、彼女は僕を助けたことになる。
お互いに助け合えるなんていい関係ではないだろうか。
仲良くしすぎると
「助かったよぉ……」
「だ、駄目ですよ、こんなことをしたら」
「だってさー、本当に大変だったんだからー」
とりあえず彼女を離して、そこから聞きたかったことを聞く。
「どうして友達になってあげなかったんですか?」
と。
慣れない相手だと表情に出しやすい人でも、拒むことはあまりしないのに。
あと、単純にデメリットが少ない、さっさと認めてしまえば付きまとわれるようなことにもならなかったのでは? となったのだが、
「友達からでいいから付き合ってくれとか言ってきてさ」
「ああ、それは駄目ですね、大輝に言っておいた方がいいですよ」
すぐに意見を変えた。
流石にそれはない、そもそも大輝に勝てると思うなんて大した自信をお持ちのようだ。
「うん、私は大くんが大好きだから」
惚気なんか聞きたくねえよー!
まあ、普段からクッキーなどでお世話になっていたからいいけどさ。
「じゃ、気をつけてくださいね、不安なら大輝が部活を終えるまで学校で待つのもいいかもしれません。その際はなるべく隠れて、ですけど」
「うん、そうするよ、平日も大くんといたいから」
「そ、それじゃ……」
「ありがとね!」
リア充爆発しろー!
いいことができたはずなのに内はどこか虚しいままだった。
「ち、千葉さん、ちょっといいかな?」
後ろ姿を見ているだけでは気持ちが悪い、まるでストーカーのよう。
なのでたまにはと勇気を出してみることにした。
なーに、昨日の微妙な状態で助けようと動くよりはよっぽどマシだ。
「どうしたの?」
「あー、この前の倉庫……部室、に行ってもいいかな?」
「興味があるの? いいわよ、鍵を借りて行きましょうか」
またあんなリスクのあるような事態にならないように気をつけなければ。
あとはお世辞でも楽しいとか興味があるとか口にしておこう。
プラシーボだ、それは案外馬鹿にはできない見えない力。
「そういえば現像……? だっけ、写真にしたりしないの?」
「大抵は撮って、パソコンにバックアップといった感じかしら」
「へえ」
「ここ、同好会レベルでさえないのよ、掃除とかはしているけれど」
場所も寂しいところにあるし、誰かが偶然気づいて来てくれるという可能性は低いか。
彼女もまた、積極的に誘おうとはしていないみたいだからひとりなのが合っているのかもしれない。
けど、ひとりだと寂しい的なことを言っていたから勇気が出ないだけの可能性もあると。
……やっぱり僕には言えない、彼女もまたこんな適当な人間を求めていない。
彼女が求めているのは同じことで真剣になれる人、知識が豊富な人とかだろうし。
「あ、僕もたまに来ていいかな? 掃除ぐらいならできるから」
「でも、私が言うのもあれだけれど、つまらない場所よ?」
「あくまで掃除だけだから、仲間の方はやっぱり地道に探すしかないね」
あまりにもネットが便利になりすぎた。
プロの撮影した画像だって簡単に見ることができてしまう。
そこで自分のと比較した際、あまりにも違いすぎてヘコむ可能性も。
プロはプロ、アマはアマ、それかもしくは初心者だと割り切れる人間じゃなければならない。
あとはカメラを持っていることで多少なりとも見られる可能性があるということも我慢できる人間でなければ駄目だ。
そう考えると男子は結構あれかも。
「安全のためにも女の子のお仲間が増えるといいかもね」
「それは接点ができるからかしら? ほら、よく大槻君に言われているじゃない? あなたに近づく異性がいないと。だから、ここをきっかけにして関わりたいということかしら?」
「違います、全く知らない男の人よりも千葉さんが安心できるでしょってこと」
当然だがなんにも分かっていないな。
誰でもいいわけじゃないんだ、あと、この活動に興味がある子ならここに変な大して興味もない人間がいたら絶対に許さない。
「確かに、女の子の方が落ち着けるかもしれないわ」
「もし誰か女の子が来たらここにはもう来ないから安心してよ」
窓を開けたら爽やかな風が部室に入ってきた。
ぬるいが、中々にいい気持ちになれる感じだ。
彼女が掃除をしてくれていることによって埃がまってごほごほとはならず。
「ここからの感じがもういいよね、夏って感じがする」
「そうね」
椅子だけは充実しているから座らせてもらう。
窓を開けてここに突っ伏しているだけでも楽しそうだ。
「千葉さんは誰かとやりたいの?」
「どちらかと言えばそうね」
「なら積極的に探さないとね」
待っているだけでは絶対にこんなところには来ないから。
「ネットよりも先に学校で探した方がいいかな」
「そう……ね」
「男子を誘うと絶対に千葉さんのそれに負けるから、やっぱり女の子だね」
「それ?」
「あー、雰囲気とかかな」
異性に縁のない人間は欲望まみれだから気をつけた方がいい。
ソースは僕、だからいまは自己紹介をしているみたいなもの。
「ふふ、そんなに心配してくれるならあなたが入ってくれればいいじゃない」
「いやいや、真面目にやらない人間なんていない方がいいでしょ」
ここで乗り気になってはならない。
だってそうしたら女の子がいるからって近づく微妙な人間になってしまうし。
純粋じゃない、そもそも現時点で下心がありまくりだから。
「軽くでいいのよ、一緒に行動してくれればそれで」
「いや、あんな態度を取った僕を誘うとか、大丈夫?」
「興味のないことに無理やり付き合わせてしまったもの、あれは私が悪いのよ」
違う、欲に負けて無理やり参加したのはこちらだ。
あのタイミングで卒業しておくべきだった。
そういうことならなんとか片付けられたと思う。
なのに僕は欲に負けて付いていったうえに、空気を悪くするという最悪な展開にしてしまったという……。
「千葉さんが悪いわけじゃないよ」
「そう? でも、あなたが悪いわけでもないわ」
「待って待って、僕なんかより他を探した方がいいって」
「ふふ、そう言う割りにはなにかと来てくれるわよね」
気づいてくれ、保険をかけているようなものだ。
あくまで彼女が誘ってくれたからという形じゃないと駄目なんだ。
「あなたみたいに正直に言ってくれる人は嫌いではないわ、だから、どうかしら?」
「そこまで言ってくれたなら、いやほらやっぱりここで断るのはねえ」
「そう、良かったわ、あなたは下心とかなさそうだから」
う゛、なにを根拠にこんなことを言っているのだろうか。
非モテの男が女の子を気にかける理由なんて下心があるからだろ!
「仮にあったとしても、あなたは言ってくれるものね」
「すみませんでしたっ、近づいて来てくれる異性が千葉さんぐらいしかいないから仲良くしたかったんですっ」
「いいじゃない、どうせなら仲がいい方いいもの」
分かってないな、流石毎日ひとりでいるだけはある。
1番危ないのはお前だと言われそうだが心配だから見ておくことにしよう。
掃除とか荷物持ちなどをしておけばいい。
バッグなどを持っておかなくていいのは悪いことではない……よね?
「掃除とか荷物持ちとかなら任せてよ」
「それなら明日からやりましょうか」
「え、今日じゃなくていいの?」
「ええ、なんだかここにいたい気分なの、あなたの言うように夏を感じられていいから」
夏を感じられると言っても植えられた向日葵が見えるぐらいだけど。
でも、彼女がそう言うなら仕方がない。
部長に従わないと駄目だからね、同好会長と呼ぶ方がいいのかもしれないけども。
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