第31話 三章◇ありがちな最強の聖霊と聖獣 08

「アリスちゃんは…神に愛された、神の愛子よ。五柱神全てとお会いし、お話をした……もしそんなことが王家や貴族たちにバレてしまえば、アリスちゃんは間違いなく王家に隷従させられる。」


──ドクン

その可能性は分かっていた。どんなラノベだってそうだった。

異質な強すぎる力を持つものは、迫害されるか権力に取り込まれるかだった。


「幸い、五柱神から『祝福』を授かった訳ではないけれど、天使ライトニングから最上の加護を賜ったことで……メルディロード家は全員が天使の加護を持つことになった。」


──ドクン

全員が天使の加護を持つことがどれだけあり得ないことなのか、それがどれだけの力を持つことなのか……理解はしていた、はずだった。


「ただでさえ、僕とライラは王家に対しある程度の意見をすることが認められている。ライラはまだまだ社交界の華だし、僕も宰相だしね。」


──ドクン、ドクン

心臓が、脈を打つ。汗が、滲み出す。


「そんなところにいる、僕らが溺愛する一人娘……アリスが神に愛されていると、天使の加護があると知れ渡ってしまえば……」


「貴族だけじゃない、王家からも婚約者にと打診が来るでしょう。……アリスちゃんを、自分達が飼い慣らす為に。」


──ドクン、ドクン

ああ、それは私が望む平穏とは遥か遠くにかけ離れた、あり得てしまう未来だ。

いやむしろ、その未来の可能性は限りなく、高くて……


「場合によっては他国との交渉のために他国へ嫁がされることにもなるだろう……。ライトニングの加護があれば、婚姻後他国のスパイになることだって可能だ。」


「私たちは、それを阻止したい。アリスちゃんが、好きなように生きられるように。」


──ドクン

汗が、引いていく心地がした。

父様と母様は、例え王家が相手でも、私を差し出すつもりがないんだと、そう分かったから。


「とう、さま…」


父様は、にこりと笑った。


「かあ、さま…」


母様は、ふわりと微笑んだ。


「だから、獅子宮レオか、白羊宮アリエスか、天秤宮ライブラ……誰かひとりとでも契約ができれば、それを表向きの『神の祝福』として発表しようと、そうライラと話をしたんだ。まあ、これは君たちとアリスが契約を受けてくれればの話ではあったけどね。」


聖獣に向き直った父様と母様が、頭を下げた。


「……っ!?」


「え、ええ〜…」


「……」


さんにんは困ったようにそれを見て、2人から視線を逸らした。


「……アタシ、嫌よ」


口火を切ったのは、天秤宮ライブラだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありがちな『異世界転生』にならなかったなんて好都合! 海林檎 @Umi-Rinngo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ