第25話 三章◇ありがちな最強の聖霊と聖獣 02

メルディロード家直系の本家である我が家全員が、ライトニングから加護を授かったということ。

それはつまり、単なる伯爵家であるはずの我が家が王家並みの加護と力を手にしてしまったということだ。これが知れ渡れば、我が家はかなり面倒な立ち位置になることだろう。


「ライトニング様からは、精霊に好かれるようにしておいたって言われたわ。だから、精霊の加護だけって言って誤魔化せないことはないと思う、けど……」


「──うん、得策じゃあないね。アリスもそれがわかっていたから、私たちに素直に話してくれたんだろう?」


アリスは賢い子だからね、と父様は微笑んだ。

軽薄そうな笑顔のライトニングとは違う、優しさに満ちた笑顔に、少しホッとした。少し、10歳にしては考えすぎじゃないかと、そう思っていたから。

おかしな子だと、この人たちにだけは、思われたくなかったから。


「うん、こうなったらいっそのこと……やるしかないかな。どうだろう、ディディ?」


「そうね、ワイズ。可愛いアリスちゃんのためだもの。とことんやってやるわ!」


──え、何を?

疑問が顔に現れていたのだろう、二人は私を見つめてにっこりと笑った。しかし、その笑顔は先程までの柔らかい優しい笑顔ではない。

威圧感あふれる、『異国の踊り子シンデレラ』と『氷の冷徹伯爵』の笑顔だった。


「え、あの、父様……母様……?」


「こぉら、アリスちゃん? お家だからその呼び方でもいいけれど、お外ではちゃんと淑女らしくお父様、お母様って呼ぶのよ?」


今、そんな話はしていませんが!?

そもそも、お外でスカートを翻して走っていた母様がいうことじゃないのでは──なんて考えていると、にっこり笑ったままの母様がパチリと手を合わせた。


「そうと決まれば、すぐに食べてしまいましょ。ほらほらアリスちゃん、残さず食べて大きくなるのよ!」


「そうだね。さあアリス、食べようか。」


何がそうと決まればなのかはわからないけれど、二人につられて食事を再開する。

気を利かせて席を外れていたリリアナが、新人メイドではなく中堅のメイドであるライラを伴って戻り給仕を始める。リリアナとライラが新たに運んできた具沢山のキッシュは、暖かくてとても美味しかった。

食事を終え、食後のお茶を飲んでいると、母様が思い出したように口を開いた。


「あ、そうそうアリスちゃん。明日は朝一番にワイズの書斎に来るのよ?」


「え、あ、うん……?」


「大事なお話があるから、いいわね?」


こくりと頷く。

今度は優しい笑顔で笑った母様と父様に就寝の挨拶をして、自室に戻る。

ルナが整えてくれたベッドに潜り込み、色々と考えようと思っていたけれど、10歳の体力は限界を迎えていたようで気づけばすっかり眠ってしまってた。

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