第23話 幕間02♢執事の独白 02

その数日後、また騒動が起こった。

お嬢が魔法を暴発しかかったんだ。

無理に魔法を発動させようとして、暴発直前のところを買い出しに出かけようとしていた俺が発見し、ことなきを得た。

理由は、怪我をした猫を治すため。

それだけなら獣医を呼ぶなり治癒魔法が得意な神官を呼ぶなりすればよかったんだが、お嬢はまだ習ったこともない魔法を前世の記憶だけを頼りに使おうとした。

話を聞いてすっ飛んできた奥方様が「どうしてこんな危険なことをしたのか」と問えば、お嬢は泣きながら言ったんだ。


「本当の子供じゃないんだから、こんなことで呼ぶなって、思ったから」


ってな。

5歳のガキが、だぜ?

数日前のパーティーで何を言われていたのか、それがお嬢にとってどれだけのことだったのか。

俺はそこで、漸く気づいたんだ。

俺はその時カッとなっただけで、すぐに忙しさやお嬢付きでないことを理由にそのことを報告もしなかった。俺が未熟だったことで、お嬢はずっとそのことに傷ついたままだったんだ。

俺は自分を殴りたくなったね。

いやまあ、そのことを今更ながらに親父に報告したら、しこたま殴られたんだけど。


で、だよ。

ここからなんだ、俺が見ちまったヤベえ闇はさ。

まず、元暗殺者の手業を遺憾無く発揮した親父が情報収集と裏どりをする。それと並行して、奥方様がお茶会やら家に招待した貴族たちに今回の話を愚痴のように話す。

例のお嬢に悪態をついた男爵にも、直接ではないが噂が届くように。

そうして社交界がこの話題で溢れる頃には、親父が全ての情報を収集完了。古参の使用人総出で情報を精査し、資料にまとめ上げる。

満を辞して、旦那様が国王にチクる。


「我が最愛の娘が、一部の貴族に蔑ろにされているんです。」


妻の不貞や自分の浮気、さては養子ではないかと噂されている、ってな。

この国の法律じゃ不貞行為は違法。つまりこの国の宰相であり今でも社交界の華であり神様からも目をかけられているような一家が犯罪一家でしたと言われている、と王様に向かって言い切った。

たかが噂、されど噂。火のない所になんとやらっていうだろ?

王様は神様の加護を持っている優秀なこの一家が他所に流れてはたまらんってんですぐに男爵を呼び出して事情聴取。そこで親父が集め俺らが作った証拠資料を突きつけられて自白。

男爵は幼子に対し、事実無根の暴言を浴びせたことや、格上の伯爵家に対しありもしない噂をいたずらにし国家と伯爵家に風評被害をもたらしたとして、なんと男爵の位を当代限りで返上っていう結果になった。

その証拠資料には、お嬢が口にした全ての貴族の名前があり、その貴族たちの小さな悪事からヤバげな横領案件までが証拠とともに記載されていて……それは証拠を読みあげていた王様の目にも留まった。そこから芋づる式に貴族が引っ立てられ、貴族たちはお嬢に直接謝罪をしてなんとか罪を逃れようと続々とお嬢の元に押しかけてきた。


──それが自白の証拠にもなるって知らずにな。

旦那様も奥方様も、お嬢が大好きなんだ。それはもう、何をされても笑顔で受け止めるくらいにはな。

そんなお嬢に敵意を向けた相手を許すほど、氷の伯爵閣下──あ、いや、旦那様──は優しくはねえんだよ。


そんなこんなで、騒動が一区切りついた頃にはこの国の風通しが少し良くなっていたのは、偶然か必然か。

ま、お嬢に悪口言った罪はそれだけ重かったってことだよな。


それ以降、俺はお嬢付きの執事見習いとしてお嬢のそばにいる。

今度の親父の試験を乗り越えられたら、晴れてお嬢付きの執事として、お嬢のそばにいることができるようになる。

もう、お嬢にあんな顔はさせない。

ずっとお嬢が笑っていられるように、全ての悪意は俺が受け止める。


──うわ、なしなし。これはなしだ。

いくら俺しか読まないったって、これはないわ。

初心を忘れないようにとは思ったけど、流石にこれは、なぁ。

後で消し……いや、書き直すか。


っと、親父が呼んでんな。そろそろ行くか。

続きはまた。

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