第18話 二章♢ありがちなラブロマンス 06

俺が、見ていたんですよ」


「…はぁ?」


目をそらしボソッと呟いたアルの言葉に、私はため息のような、返事のような、そんななんとも言えない息を吐いた。

またガシガシと頭を掻き、目だけがよそを向いたまま、早口で言い訳のようにアルは言った。


「俺が現場を見ていました。その後、親父──っと、執事長も確認しました。それだけです」


「ふぅん…あっそ、わかったわ」


アルは私を馬鹿にしているんだろうか?と当時腹立たしく思ったことを、今も覚えてる。

確かに私は当時まだ『神の祝福』も受けていない子供だったけれど、流石にそれだけで国王が動くはずないということくらい、わかった。

だからもう深く追求せず、拗ねて会話を終わらせた。

会話を終わらせたことでどこかホッとした空気を纏わせたアルを見て、なぜか悔しくて、オロバスに「アルが私に嘘ついた」と告げ口したことは、後悔してない。

──次の日、アルは瀕死の状態で屋敷中を駆け回っていたけれど。


こうしてあまり知りたくなかった事実と、この家の秘密を少しだけ知った私。

今思えば、私が養子ならば両親はきっと私が前世を思い出したタイミングでそのことを伝えてくれただろう。気負わないように、早い段階で。

世間の目も関係ないと、養子でも関係ないと伝えた上で、死ぬほど大きな愛情を与えてくれるだろうから。


と、そんなことを思い出している間に、ようやく人の輪を抜けたお母様がピョンと抱きついてきた。


「ちょ、お母様! 淑女らしくない!」


「え〜、アリスちゃん冷たいっ! 大丈夫よぉ、さっき見た中に貴族は居なかったもの」


「そういう問題じゃ──っぷ」


えい、と豊かな胸を顔面に押し付けられ、会話を遮られる。

淑女というか、貴族らしからぬ行動だが、咎める者は誰も居ない。

いやお父様よ、咎めなくていいんですか!

胸の隙間から目だけで父を見ると、いいなぁと言いたげな顔でニコニコとこちらを見ているだけ。

──こりゃダメだぁ。

アルへ目を向けるも、わざと目が合わないように不敬にならないギリギリこちらを向いていない。

助けろ!という圧を込めて睨んでも、絶対にこちらを向くことはなかった。


もにょんもにょんと当たる胸。

かろうじて呼吸はできるものの、流石に成人女性を振り切るほどの力がない今の私ではされるがままになるしかない。

もにょ、もにょ、むにゅん。


「…奥様、結果をお聞きしなくてもよろしいのですか?」


何分経ったかもわからないけれど、気が遠くなってきた頃にようやく、アルが助け舟を出してきた。

遅いのよ!裏切り者め!


「そうだったわ! ねえアリスちゃん、どなたの加護をいただいたの?」

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